第50話 二匹の護衛
――なぜ王は我らを遠ざけたのだろうか。
熊のカリムはロウの言葉に頷く。
王の直属の親衛隊であるロウとカリムは、動物としては別種なので、本来会話はできないはずだが、王が力を使い、王と一定距離にいる間であれば、会話できるように取り計らわれていた。
――時折彼の考えはわからない……今に始まったことじゃないだろう?
ロウはうなずく。
――彼が王になった時もそうだった……。あれだけ人間を憎んでいたはずなのに……。
カリムは笑う。
――先代の王にもそういう奴はいたと、ツペリ爺さんが言ってたな。
ロウも笑う。
――あのジジイの猿めが……。だが、奴は年老いちゃいるが、嘘はつかない……。
笑っていたがロウにはまだ煮え切らない部分があった。カリムは長い付き合いなので表情からそれを察した。
――何が気になっているんだ?
ロウも立ち止まった。
――ここ数日、王の様子がおかしいんだ……。いや正しくはこの最近ずっとか……。特にファンネルを殺すと決めた時から……。
カリムは不思議そうな顔をする。
――たしかに、あの時は王というよりはエサルが全てを決めていたからなぁ。でも皆んなも納得したじゃないか。我々ではもうファンネルは止められん。
ロウは当時の会話を思い出していた。
ちょうど一ヶ月前、王を含めて群の長の獣が集まった時のことだった。そこにはロウ、カリムも当然いる他、グークやガイル達もいた。
まず発言したのが、猿のリビルだった。
――王、私たちはファンネルによって苦しめられています。彼女は以前はたしかに理想的な王妃だった……。しかし、今はもう違います。彼女にとって私たちは憎むべき存在になってしまったのです。
この言葉に多くの獣が同意した。馬のローグが続く。
――おそらく前王を殺したあなたが憎いのでしょう。その憎しみはあなたを王として認めた我々にも向いている……。
畳み掛けるようにグークも同調する。
――王として、あなたが彼女を対処すべきです。あの状態では我々が束になっても敵わない……。
他の動物達も口々に同調する中、ガルムはゆっくりと話し始める。
――奴を殺す必要はない……お前たちがやつの縄張りに近づかなければいいだろう。奴の居場所は西の、しかも人間の町に近い土地だ、わざわざそこへ行く必要がない。
これには反論できず、皆んな黙ってしまったが一匹の狐がツカツカと前に出て来た。
――王は随分と贔屓をされるようだ。
皆がその方向を見る。声の主はエサルだった。ロウはエサルの不遜な態度に憤った。
――貴様、王になんて口を……。
エサルは笑う。
――私は事実を言っているまでですよ。
王は尋ねる。
――何がおかしい?
エサルは話し始める。
――あなたの仕事は、王として獣に害をなす全てのものを取り除くことだ……違いますか?
王はうなずく。
――そのためにファンネルに近づくなとそう言っているだろう。
――それがおかしいのです。なぜ、彼女に対処しない? このまま放っておけば、彼女の近くの縄張りの獣は常に彼女に怯えて暮らす事になる……それを害と呼ばずしてなんというのでしょう?
王は反論する。
――私たちは、共に襲われ、襲う関係性の者たちもいる。しかし、それについては全てその者たち自身の選択に委ねる決まりのはずだ。
今度は横からガイルが反論する。
――それは食べるためだけ……そうでしょう? 憎しみにより、ただ相手を傷つけるのは話が違う。
エサルは我が意を得たりとばかりにニヤニヤとしている。猿の長老のツペリがゆっくりと話し始める。
――王……あなたの気持ちもわかりますが……何もしないのは、皆納得できぬようだ……。彼女は我らだけではなく人間も襲ってると聞きます。どうかな。彼らに対処を任せてみるというのは……。
ガルムは考え込む。
――わかった……。検討しよう。
正直ロウもなぜ、そこまで王がファンネルを庇うのか、理解しかねる部分があった。
――王……。
王はロウの問いかけには応えず、ただ黙ってその場を後にした。そしてその数日後、王は皆に人間にファンネルの始末を頼んだ……とだけ告げたのである。
ロウはどこかそれに納得がいかなかった。
――あの後からだ……王の様子はおかしくなった。昔からあまり我らにも考えを言わなかったが、最近はよりその兆候が強くなっている。我らを近づけない時も増えただろう。
――これにはカリムも同意した。
――まあ大丈夫だろう。我らがいなくても、彼は充分に強い。そこらの獣には負けないさ。
ロウは頷いたが、どこか表情は浮かなかった。




