第5話 町長の過去 ~学校の思い出~
ヒメルの街の学校にある教室で一人の少年が本を読んでいた。
もうすでに学校の授業は終わっていて、彼以外の他の生徒は家路に着いていたが、彼は一人だけなぜか残っていた。
彼の机の周りには本がたくさん置いてあり、一つ一つにしおりが挟まっていた。
そこに一人の女の子が、走って入ってきた。
「最悪…あれを失くすなんて…」
そして、彼女は木造の教室の扉を開けると、
中に少年がいる事に気づいた。
「あれ?デルアート君?なんでまだ残ってるの?デルアート君も忘れ物?」
デルアートと呼ばれた少年は驚いて彼女の方を見た。
「リラ…どうした?」
リラと呼ばれた少女は積み上げられてある本に少し呆れた表情をする。
「すごい量だね…これ全部読んだの?」
デルアートは首を振る。
「まだ半分だよ。先生に、学校の本だから持って帰っちゃいけないって言われてさ」
彼は恥ずかしそうに微笑む。
リラは彼の本好きは一緒に授業を受けたりするので知っていたが、学校が終わっても残って本を読んでいることまでは知らなかった。
「それで残ってるんだ…。すごいね。今はなんの本読んでるの?」
デルアートは本の背表紙などを見直しながら答える。
「これは、山に生息する動物とかをまとめた本。昔のヒメルの人が書いたらしくて、いろんな動物の特徴が載ってて面白いよ」
リラは興味深そうに反応する。
「え!そんなのあるの?見たい見たい!」
デルアートは彼女に本を手渡すと、本の内容の難しい部分を噛み砕いて彼女に説明してあげる。
「でね…コウモリは洞窟に住むことが多いんだけど…」
途中からリラは本ではなく、内容を一生懸命に語る彼の顔をじっと見つめていた。
デルアートはその視線に気づく。
「どうしたの?ごめん話しすぎたかな。」
リラは首を振る。
「ううん。すごいなーと思って。デルアート君はやっぱり町長になりたいの?」
ヒメルでは、町長は実力主義で選ばれる。
能力も高く、報酬も少ないが、その分街の民からの尊敬は凄まじく、子どもでも町長になりたいと思うものが多くいるほどだった。
だがデルアートは首を振った。
「いや…僕は町長にはなりたくないよ…。大変そうだからね。こうして、一日中本を読める仕事があればいいから、街の記録の管理員になろうかなと思ってるよ」
リラはデルアートの本を読む量も尊敬していたが、本当に尊敬しているところは別の所だった。
「そういえば、いいの?探し物があったんじゃ…」
リラは言われて思い出す。
「そうだった!ありがとう!」
そう言って自分の机の中を探すが一向に探し物は見つからない。
「あれーおかしいなぁ。絶対ここにあると思ってたのに…」
するとデルアートはおもむろに彼女の手を引くと、学校の外の小さい校庭まで連れてきた。
「なになに?どこにいくの?」
リラは驚いた表情をしつつ、内心少しワクワクしていた。
デルアートは校庭の中心で立ち止まるとリラに尋ねる。
「今日さ掃除当番の場所どこだったか覚えてる?」
リラはうなずく。
「じゃあ自分の当番の場所に行ってみて」
学校の校庭は街の規模もあってかかなり小さく、掃除の時間になると、みんなで手分けして掃除を行うのが学校での日課だった。
リラは今日校庭の隅の何本か木や草藪がある所の担当だった。
リラは走って自分の当番の場所に向かい、デルアートはそれにゆっくりとついていった。
リラはそこに着くと当たりを見渡してキョロキョロしていた。
デルアートが追いついて一言いう。
「多分だけど、そこの草藪の枝に引っかかってないかな。お守り」
「え…?。あった!お守り!」
デルアートはほっとしたように微笑む。
リラは驚いて尋ねる。
「なんでわかったの?私がお守り探してるって」
デルアートはリラの服についた草藪の汚れを払いながら答える。
「リラがわざわざ学校まで取りに来るなんて、よっぽど大事なものだと思ったんだ。だからお守りかなって。よく話してたでしょ?」
確かにリラのお守りは亡くなった祖母からもらった大切なもので何度かデルアートがいる前でもその話をしていた。
「確かに私話したことあったけど…それにどうしてここにあるって…」
デルアートはうなずく。
「いっつもスカートにくっつけてるでしょ?お守り。よっぽどじゃないと大切なそれは外さないだろうし、てことはどっかで取れたんだろうって思ったんだ」
そういうとデルアートは草藪を指差す。
「ここの掃除をする時、よくメリア先生は隅々まで!っていって無理やり草藪の周りもやらせるでしょ?僕もそこでズボン引っ掛けた事あるからもしかしたらってね。」
デルアートはニヤッと微笑む。
リラの彼を尊敬している部分はここだった。
彼は話を聞くだけでなんとなく、実際にその場にいなくても何が起こったのかを推理することができる。普段は本ばかり読んでいる寡黙な彼が、何が問題が起きると今回みたいに簡単に解決してしまう。
そんな彼をリラは尊敬していた。




