第49話 手記 五日目-六回目⑫
どうしたのかと尋ねると、何故森に入るのに自分を連れて行かなかったのかと、なじられる。
彼を宥めながら、今日あった一通りのことを話して聞かせたが結局これも明日には忘れてしまうので、少し虚しさを覚える。
そう思った瞬間別の考えが浮かんだ。彼は記録師である。とすれば、仮に消されていたとしても、ここまでの繰り返しの記録がどこかに残っているかも知れなかった。
「ねえ、記録の検索をして欲しいのだけど」
リクは拗ねていたが、渋々うなずく。
「今日のあなたの記録を検索してみて?」
リクは問いかけに首を傾げるが、言う通りに検索を始める。しかしすぐ異変を口にした。
「あれ、おかしいね。今日の記録は一つだけのはずなのに……なんでだろう……同じ日の記憶がたくさんある」
やはり、記録は残るのだ。仮に記憶が消されても、記録師として彼は何があったのかを記録している。一応私はなぜそうなっているのか説明してみる。
「『時の遡り』……信じられないけど、たしかに同じ記憶がある……てことはサラはこの記憶分だけ今日を繰り返してるの?」
私はうなずく。彼はふと目を閉じた。
「何をしてるの?」
「記憶を見てるんだ。サラも一緒に見る?」
私は驚いた。記憶の共有なんてそんなことが可能なのか?
「記録した記憶は一緒に見ることができるんだよ。ほら手を繋いで」
そして彼に促されるまま手を繋ぐと、彼の記憶が流れ込んできた。
一気に見たので全て解釈するまで少し時間がかかったが、興味深かった記憶は四回目の繰り返しの記憶である。
その中で彼は甥がファンネルに襲われたマルケタさんと牧場で会話をしていた。
「甥っ子さんはもう大丈夫なの?」
マルケタさんはうなずく。
「もう平気さ、ピンピンしてやがる」
そこにちょうど年の若い甥っ子が現れる。
「おじさん何を話してるんです?」
「ちょうどお前の話だよ。ファンネルに襲われた時のな」
甥っ子はなぜかバツの悪そうな顔をした。
「まあでも、ファンネルは新しくきた獣狩りが狩ってくれるしな。お前の右腕の怪我の仇も取ってもらわにゃな」
甥っ子はなぜか苦笑いを浮かべながら、「うん」と応じた。
その後マルケタさんは牧場の他の用事のために一旦その場を後にして、その場にはリクと甥っ子のマルセロのみになった。
リクはふとマルセロに話しかける。
「さっきなんで落ち込んだ顔をしたの? 獣ならサラがきっと倒してくれるよ?」
マルセロは首をふる。
「違うんだ……。少し気になってることがあって……」
リクは特に質問を促すわけでもなく、ただ不思議そうにマルセロを見つめていた。その純粋な瞳に促されるようにマルセロは話始める。
「あの時、たしかに俺はファンネルに襲われたと思ったけど。最近その時のことを思い返していて、おかしな事に気づいたんだ」
「おかしな事?」
マルセロはうなずく。
「ファンネルはね……昔から割と活発な鹿で、悪さを働く獣がいると、蹴ったりして縄張りから追い出すんだけど、その時に相手に向かって首を振るんだ。あっちへ行けと言わんばかりにね……。
でもあの時はそれがなかった……。気になって他の人にも聞いてみたけど、みんなそれをされてないんだ……だからなんかおかしいなって……。でももう親父たちや町長は殺す事を決めちゃってて……」
「迷ってるんだね。今のままでいいのかどうか」
マルセロはうなずく。会話はこの後も続くが、もっとも重要そうなのはここまでだった。
この会話が直接今抱えている問題のどの部分に関連してくるのか、私にはわからなかった。しかしなぜか彼の記憶の中でこのシーンが大事なような気がした。こういう直感は大事にしなければいけない。
リクの記憶を全て見た後、私は一旦彼を返してからこっそり一人で森へと戻ることにした。
森へと入ると辺りは真っ暗になっていたので、私は一旦入れ墨を四方に飛ばして当たりを確認しながら進む。
少し興味があったのが、今日クラムはどうするのかだった。反獣派のクラムはたしかにもっとも王殺しに近い人物だろう。実際彼は、王の近くの茂みに隠れて機会を窺っていた。彼の動きと別の手がかりを掴むためにも森へと戻るのは重要な気がする……。
確か、前回来た時は小屋の近くに王とクラムはいたはずだ。
今日はそこには近付かず小屋の周りを観察する事にした。すると小屋の横の通りを一頭の馬と熊が通り過ぎる。何やら会話をしているようだったが、動物の言葉は私にはわからない。




