第48話 手記 五日目-六回目⑪
森の中腹あたりで、まずグークを見つけた。猪はそこまで多く群れない習性のはずだが、ここの森の猪はおよそ十匹ほどで群れていた。
グークはその中でも、抜きん出て足が太くすぐ見た目でわかる。
群れの中でも実力者のようで他の猪達に何やら指示を出しているようだった。
グーク達がその場を去ったあと、私はその足跡を触ってみる。猪の持つ蹄の跡がくっきりと残っていた。足跡の触り心地から蹄の右の部分のみ若干深く足跡が残っている事がわかる。
無意識に体重を外側にかけているのか……。戦う時にこういった情報は参考になる。
ファンネルの時は時間が無かったが、本来は時間をかけて獣の情報を集めるのが私のやり方だった。
一通り確認すると彼らを追って今度は奥に進む。すると、一匹の黒い狼が、岩の上でゆったりと辺りの様子を伺っているのが見えた。
私は気づかれないように距離をとりながら、近くの木の後ろに隠れる。その黒狼がチラッとこちらを向いた瞬間、右目に傷があるのが見えた。遠目での判断だが、おそらくガイルに違いない。
ガイルはゆったりと辺りを見渡している。普通右目が見えないのであれば、それを庇うように動くものだが、ガイルからはそのような不自然な動きが感じられない。まるで始めから右目などないかのように自然でゆったりと動くのだ。
私は気づかれないように刺青を彼の周り四方に飛ばす。草の影に隠れたところに移動させて囲むと、四方の入れ墨を細くつなげた。
側から見ると地面にうっすら丸く線がついてるだけでガイルは特に気づく素振りはなかった。
私はその様子を見ながら右腕の十字架の入れ墨の周りをぐるっと指でなぞって力の出力を調整する。
対象の範囲を入れ墨で囲い、その囲まれた空間に全て自分の感覚を適応させる。
聴覚や嗅覚のように遠隔的に感じる感覚ではこの技はあまり使われないが、私の触覚のように対象との直接の接触が必要な場合はこの技が役に立つ。
ガイルがその陣の中で歩くと、彼の足が地面を踏みしめる感覚を直接感じることができた。重心の偏りはあまり感じられない。
四肢を使って歩く動物からはあまり重心の偏りを感じることはそもそも人間に比べると少ないが、ガイルは右目の怪我もあり、そちらを庇うために、重心が偏ると予想していたが……。
私はそのあとも彼に気づかれないように体のバランスや体格などを触り心地から判別していったが、少し時が経つとガイルもまたより森の奥に引っ込んでしまった。
これ以上追跡すると、気づかれる恐れもあるため、私は一旦町に戻ることにした。
町に戻るともう辺りは暗くなり始めていた。
私は一度宿に戻って、ここまでで得た情報を整理し終えると、情報収集を兼ねて、酒場に行くことにした。
いつもと同じ時間帯を見計らって酒場に着くと、ラフサルさんや他の町の人にいつものようにファンネルを殺したことを褒められる。その後、例によって聖獣隊の面々がマリウスの卒業祝いを始めるのだ。
私は、マリウスの周りに人がいなくなる瞬間を見計らうと、彼に話しかけた。
「卒業なんですね」
「そうですね。まだお会いしたばかりですが、活躍はお聞きしました。町長や王もほっとされていることでしょう。あまり、森に介入するのは良くありませんが……致し方なかったということでしょうね」
マリウスは少し複雑そうな顔をしている。私は、ラビルとの会話での中で気になっていたことについて尋ねてみた。
「そういえば、今まで、聖獣隊の人と王が争いになったことはないのですか? 聖獣隊は王に近い存在だとお聞きしたのでふと気になって……」
マリウスは少し驚いた表情を浮かべる。
「それは……あり得ませんね。今までの歴史の中でも、聖獣隊が王を襲ったということはないですし、これからもないでしょう……」
「これからもないとはどうして……」
そこでレルベットが割って入る。
「それはですね。我々はサルヌの契約印を使って契約をするからです。王を傷つけない。というね」
私は納得した。確かにその縛りがあれば、ラビル達が犯人の候補から外したのも頷ける。
「たしかにそれであればこれからも王を傷つけることはありませんね」
レルベットはうなずく。
「我々は聖獣隊に入る時に二つの契約を交わします。一つ目が王を傷つけないこと……。そして二つ目が王の言うことに絶対に従うということです」
私は頷いた。これでラビル達は聖獣隊を候補から外したのだ。ついでに町長の居場所についても聞いてみる。
「そういえば、町長はいつもあの記録庫にいるんですね」
マリウスは少し笑ってうなずく。
「本の虫ですからね。まあでもそれだけ記録や本と向き合える人じゃないとあの仕事は務まらないと思います。今までの町長も皆、記録や町の情報の管理は入念に行なっていたようですからね」
「記録庫以外で彼が行きそうな場所ってどこかあるんですか?」
レルベットとマリウスはお互い目を見合わせる。
「いや……でも家にも帰らないことが多いらしいですからね。本当に記録庫と家の行ったり来たりだけの印象です」
彼らは比較的町長とも交流がある印象だったが、それでも他の居場所は知らなそうだった。
お礼を言って、その場を後にすると、一旦宿に戻ることにした。
宿に戻ると、リクが悲しそうな顔をして待っていた。




