第46話 手記 五日目-六回目⑨
ラビルと別れたあと私は歩きながら、次に何をするかを思案していた。彼と話して今回の全容はおおよそ掴んだが、この世界に囚われたままの状況は変わらない。
とすれば、目下最大の目標は、おそらく王殺しの犯人を突き止めてしまうことだろう。私への町長の依頼は、なるべく早く危害を加えてくるであろう害獣を殺すこと。そして、獣達の目的は、王を殺した相手を突き止める事。
実はこの二つの目標は両立できると私は感じていた。王を殺した相手を突き止めてさえしまえば、精神世界からは解放されて、おそらくその人間のみに獣たちの狙いは集中する。
その間に依頼があった獣達を私が狩ればいい。少し厄介なのはラビルの存在だった。
彼は別れ際にこう言った。
「わたしはあなた方の能力にも非常に興味があるんですよね。触った感触で色々な情報を得ているということはおそらく五感を強化しているように思っていますが、とするとかなり使い勝手の良さそうな能力に見えます。
その謎をぜひ解き明かしたい。研究に協力してくれませんか?」
銀の爪の長は能力の詳細は特に帝国には漏らさないようにという掟を定めていたので当然協力はできない。
『銀の爪の能力の秘密が皆に知れ渡れば、それを利用しようとする輩が確実に出てくる。そういうことを防ぐためには、そもそも秘密を開示しないに限る』
それが銀の爪の長の口癖だった。
ラビルはおそらく自身の中でもかなり大きな秘密をこちらに漏らしているので、正直心苦しい部分はあったが、確かに銀の爪の秘密を帝国の中枢にいる彼に教えてしまうのはリスクが高すぎる。
一旦私は、王殺しの犯人探しと倒すべき獣の習性を特定することに、目標を切り替えた。
ラビルとの話を終えたのがちょうど昼過ぎだったので、一旦森へ向かうことにした。
森に行く道中はずっと、王殺しの犯人について考えていた。
この世界は一年前を再現したものであるはず……。だが、現状王を殺しに行っている人間はいない。
一人だけ、クラムが直前まで行ったが結局引き下がっていた。なぜ、この世界ではまだ王が殺されていないのか……。
最も大きい要因はこの世界が現実を完全に反映したものではない事……。とすると、今王が殺されない理由はまだ現実と比べるとこの世界には足りない要素がある。
その足りない要素が犯人の動機を形作っているんだとすれば筋は通る。
実際、クラムもバンメウにそそのかされる形で動機が生まれていた。
だが、おそらく最も強い動機を持っていそうなクラムですらも結局は王を殺さなかった。
他に何か強い動機がある人間がいるのか?
そんな事を考えているうちに森にたどり着いた。少なくとも猪、黒狼、狐の三匹を捕捉する必要がある。
猪と黒狼に関しては、一年前なので現状はまだ害獣への覚醒をしていない状態のはずである。
どうやって見つけるか……。ガイルは目に傷があり、グークは足の筋肉が発達しているという……。その特徴は害獣になる前でも残っているはずなので、それを目印にするのが良さそうだった。狐のエサルに関しては現状は特に何も手がかりがないので、一旦は後回しにする事にする。
ちょうど時刻的には獣狩り達がファンネルと戦っている時刻だったのでその地域は避けて行く。
森の西側で戦闘が行われるはずなので、西側に行けば戦闘は避けられるはずだった。
何度も森に入るとわかってくるのが、この森の動物達は強い縄張り意識があるようで、地域ごとに生息している動物が極端に違っていた。
山からむかって森の手前側、つまり町側には草食動物が多く、奥には肉食獣が多かった。
ファンネルは草食なので手前側ということもこの理論を裏付けていた。
これを元にすると、ガイルを見つけるためには森の奥側に行く必要がある。王に見つかると、また厄介な事になりそうだったので、そこだけ気をつけながら、私は森の奥側へと進む。
山に近づくにつれて徐々に気温が低くなっていくのを感じた。ラビルに言われてもまだここが精神世界という実感はわかない。
私自身もちゃんと現実ではないことを頭でわかってはいたが、感覚は現実のそれと遜色ない。
森の奥側へ半刻ほどかけていくと、動物達が集まっているところが見えた。私は一旦近くの木の影に隠れながら様子を伺う。
動物達が集まる場所の中心には王の銀狼がいた。そして王に対峙するように、猪のグークとガイルがいて、その周りを猪達や狼達が取り囲んでいた。




