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超獣戯画Ⅱ  作者: 纏笛


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第43話 手記 五日目-六回目⑦

 私はラビルの話の中に少し疑問に思う点があったので聞いてみた。

「動物達との会話では幻覚を見せるという話だけしたとおっしゃっていましたが、本当にそれだけですか?」

 ラビルはニヤッと微笑む。

「鋭いですね。当然違います。幻覚という話は動物にとってわかりやするための嘘です。

 実際はもっと複雑な構造をしていますよ」

「複雑な構造?」

 彼は町の中心の方角に視線をやった。

「この町には朝に霧が立ち込めていたのを覚えていますか?」

 私は頷いた。ヒメルに来てからずっとこの町には白い霧がある。

「あれはね実際は白い瘴気なんですよ。白い害獣が出す瘴気をこの町に充満させているんです。この時期は朝に霧が出るので目立たず幸運でした」

 少し驚いたが、それとこの世界の構造とはつながらない。そんな私にラビルは一つずつ教えてくれる。

「通常の動物が害獣に覚醒するプロセスを知っていますか? 獣達が強い感情を感じた時、それに伴って瘴気が地面から自然発生する……。そしてそのままその感情の昂りが続くと、瘴気はそれに反応して、その獣を害獣へと変化させる……。これが〈覚醒〉と呼ばれるものです」

 銀の爪の内部で情報共有をしていく中で、動物が強い感情をいただいた時に害獣に変化したという例をよく聞いていたが、改めてそういうものだと言われるのは始めてだった。

 ラビルは続ける。

「動物が強い感情を持てば、必ずしも瘴気が発生するわけではないので、どういった条件だと瘴気が出るのか本当のところはまだ実はわかっていないのです。ただこの瘴気は獣の感情の昂りに反応する事。そしてなぜか人間相手には絶対に自然発生が起こらない事が分かっています」

 私は少し驚いた。実は人間が害獣になった例をいくつか知っていたからだ。ラビルはそのことに気づいたのかまたニヤッと微笑む。

「ではなぜ人間が害獣になるような例が存在するのか……。実はそれがこの話の根幹です。

 実は瘴気を無理やり発生させて、それに感情の昂りを合わせれば、人間でも獣でも無理やり覚醒させられる事が実験で分かったのですよ」

 私は驚くと同時に尋ねる。

「ということはあなた方はその実験を行なっていたのですか? 人間相手に」

 ラビルは悪びれずに話す。

「そうですね。何人か実験台になってもらいました」

「なぜそんな恐ろしいことを……」

 ラビルは少し諦めたような表情になる。

「正直私でなくてもいずれ誰かがやっていましたよ。人間とはそういう物です。人は『思いついた考えを試してみたい』という好奇心には抗えないんですよ。

 ここに倫理的な正しさを持ち込む事は無意味です。私はむしろ、非人道的になりすぎないように管理しながらこの実験を進めてきました」

 かなり身勝手な話のように私には聞こえた。

「それはあなたが発案なのですか? それとも帝国の?」

 ラビルは笑う。

「発案は私でその後の帝国のやり方を暴走しないように管理しているというところが解答でしょうかね。基本的に実験台には罪人や儀式の生贄に選ばれたような人間を使うように言ってはあります。何人か守られていない場合あるようですがね……。でもそれを私が中止するように言ったところで、帝国はとまらないでしょう」

 かなり身勝手な意見だと思ったがここは一旦言い返さずに先を進める。

「それと、この世界の構造の話がどう繋がるのですか?」

 ラビルはうなずく。

「人間相手に強制的に覚醒を実施したところ、面白い事がわかったのです。

 複数の人間を同じ動物として一緒に覚醒させた時、複数の魂を一つに集まった精神世界がその害獣の中に生まれるのです」

 私は彼が何を言っているのかがわからなかった。

「複数の人間を同じ動物として?」

 ラビルはうなずく。

「あなた方のよく知っている言葉でいうと、伝承型……と言った方がわかりやすいですかね?」

 背筋に悪寒が走る。この男は今、自分が人間を実験台にして害獣を作っていた事を告白しているのだ。

「あなたが伝承型を作っているのですか?」

 ラビルはうなずく。そこで私はこの男が銀の爪が最近追っている〈製作者〉と呼ばれる人間であることが分かった。

「もう、そこら辺のことはバレているのでしょう? ここで隠していても仕方がありません」

 ラビルはどこか諦めている様子だった。

「精神世界というのは?」

「いわゆる伝承型になった際、彼らの魂は一つの場所に集まるようなのです。その場所のことを精神世界と言っています。そこで集まった魂たちはそこで皆思い思いの姿形で存在することができるのです」

 ラビルが説明してくれた。

「大事なのは、思い思いの姿形で、と言う部分でした。その後色々試してみたのですが、精神世界の中では、姿形もそうですし、その空間自体も自在に変えれる事がわかったのです。そう……この世界のようにね」

 ラビルは当たりを見渡した。私は驚く。

「まさかここは……」

 ラビルはうなずく。

「そうですよ。ここは精神世界の中です。今町にいる人間は全て大量の瘴気によって〈半覚醒〉状態にある。その魂が全て集まった精神世界がここなのです」

 さすがにここまで大きな仕掛けが仕組まれているとは思っていなかった。

「しかし、先程までの話では、強い感情の動きが無くては覚醒までは至らないのでは?」

 ラビルは手を叩いた。

「そう! なので〈半覚醒〉なのです。瘴気量を増やすことで、完全な覚醒の二、三歩手前の状態までは必要以上に感情を動かさなくても、持っていけるように調整しました……。もちろん、悪夢を見させたりして多少、感情も動かしましたけどね」

 ラビルは自分の作戦の出来に酔っているようにうっとりとした表情になる。

「ということはあなたも〈半覚醒〉している?」

 ラビルは頷いた。

「はい。私も覚醒状態です。他の研究員達は違いますがね」

「ということはやっぱり……」

ラビルは微笑む。

「そうです。あなたがおっしゃっていた通り、彼らは記憶だけの存在です」

「記憶だけ……彼らは町にいないということですか?」

 ラビルは首を振る。

「いえ彼らは町にいます。ただ覚醒の対象にはしませんでした。

 彼らには現実でやってほしい仕事がありましてね。そのかわり彼らの記憶から一年前の彼らを再現して、精神世界に反映したのです。」

 私は彼らの技術力に恐れ慄いていた。

「記憶の反映……そんなことまでできるのですか」

 ラビルはうなずく。

「元々この世界自体も、町の皆の記憶から再現したものですからね。町の大部分は町の人の記憶をつかって、そして森は動物達の記憶を使っています。かなり規模は大きいですが、森と町だけなので助かりました」

 私はなぜ、町の外に出れなかったのかの理由がようやくここでつながった。初めからこの世界には町と森しかないのだ。

「しかし、触り心地でそれがわかるとは驚きました。正直私には何が違うのかさっぱりわかりません」

 そう言いながらラビルは微笑んでいた。

「一つ聞いてもいいですか?」

 ラビルはうなずく。

「私な感じていた三種類目の違和感……あれはどういう仕組みなんですか?」

「バンメウさん達の話ですね。あなた自身はどう予想されているんです?」

「簡単に思いつくのは覚醒している人に記憶を重ねて、本来していた行動に更新させていると言ったところでしょうか」

 ラビルはうなずく。

「その通りです。魂だけの状態だと、必ずしも一年前と同じ行動をしない人が何人かいましてね、本来の行動をしてもらうために記憶で無理やり行動を上書きさせています。面倒だったので、対象者を世界から外すということはしなかったのですが、それがかえって違和感を生んだのかもしれませんね……」

 私は疑問を続けた。

「その記憶はどこから得ているのですか?」

 ラビルは少し頭をかいた。

「記憶は直接本人から得ていますよ」

 そう言うとラビルはまた獣達との会話を振り返る。



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