第4話 手記2日目② 聖獣隊と酒場
そんな要領で一通り街の人を回った後に、聖獣隊と呼ばれる集団の所に行くことになった。
聖獣隊は何人かの若者で形成されているらしく、
私たちがその場所にいくと、マリウスという若者が案内をしてくれた。
彼は年齢は17,18歳くらいだったか…。とても好青年で、私の疑問にも細かく答えてくれた。
一通り聞き取りが終わると彼は、町長への小言をふと呟いた。
「町長にもこまったものです。本来は王や山の獣への大幅な干渉は控えるべきなのですが…。
確かに今回は非常自体ということで、外部の介入をせざるを得ない状況ですが、本来我々はあまり彼らの生態には干渉しないべきなのです…」
私がその理由を尋ねると、
「人間は良くも悪くも損や得、恐れによって正しい判断ができない事が多くあります。
自然によってある意味生かされている我々がその感覚を忘れて彼らに強く干渉することを初めてしまえば、いずれそれは生態系全体の均衡の崩壊を導きかねません」
私が彼の大人びた考え方に少し驚いていると彼は『我らの昔からの教えです』
と恥ずかしそうに告げた。
聖獣隊の人達はそんな経緯もあってか私にたいしても他の街の人々に比べると一定の距離があるような雰囲気がした。
団員の構成を見るとマリウス以外の聖獣隊のメンバーも基本的には若く、最も年上でもレルベットと呼ばれる20代後半の男だけだった。
話を聞くと聖獣隊は若い者のみで構成されるように定められているらしい。
王に接する事ができるのは18歳までの若者のみで、それを過ぎて聖獣隊に残るものは育成や、隊の管理をおこなう役職にかわるそうだ。
彼らは皆特殊な装いをしていた。
私たち銀の爪は入れ墨を隠すためもあって無地の白いローブをよく着ているが、そこに刺繍をいくつも重ねたような模様のローブを彼らは身に纏っていて、彼らが聖獣隊である事が一眼でわかるようになっていた。
聖獣隊の館には、街の人間からの貢物、主に腐りづらい食料等が貯蓄されていた。
基本的には王に全て捧げるが、本当に街に食料がなくなった時などは、ここの食料を非常用に人間に供給するらしく、管理は厳重だった。
彼らの話を一通り聞いた後、宿に戻ろうとすると、帝国軍の隊服を来た人間とすれ違った。
そのことを気になってマリウスに聞いてみると。
「彼らはこの街の警護と、山の麓の生態調査に来ている帝国の研究員さん達だそうです。
ここが帝国領になった後しばらくして、ここに派遣されてくるようになりました」
と教えてくれた。
山の生態は薬などもあることから帝国にとっても貴重な研究対象らしく、この街は独自に研究対象として帝国に協力しているそうだった。
その分見返りとして街の護衛や帝国との取引の優位性が約束されているらしい。
全体的に街を見てみた結果、私が感じたのは若い町長の手腕の高さだった。
彼は街と自然の共存を実現しながら、帝国とも有利な関係を築き、それでいて街の人々が不自由にならないように全体に気を配っていた。
小言を言っていたマリウスからも、町長に対する尊敬の念は感じられた。
その町長がそれだけ恐れるということは、それだけ今の獣はこの街のバランスを崩しかねない脅威なのである事が察せられた。
そして、もう一つ気が付いたことがある。
この街には何人か、私の他にも獣狩りがいる。
このことに気づいたきっかけは聖獣隊と別れてた後、街の酒場に足を運んだ時の事だった。
私たちのような獣狩りの多くは酒場を情報収集源の一つとして使うことが多い。
多様な人間が集まるし、お酒が入って判断を乱して普段秘密にしていることも言ったり行動してしまうことが多くなるからだ。
酒場について、いくつか食事をもらって食べ始めた時、一人の男が目についた。
彼は来ている服こそ、ヒメルの物だったが、筋肉のつき方が他の人とは若干ちがっていた。
それは同じ銀の爪のイザベラから教わったことだが、鍛えている人間は筋肉のつき方が普通の人とはことなる。
特殊な鍛え方をしていない人間はバランスよく筋肉がつくが、獣狩りや傭兵のように利き腕で剣をふるうことが多い人間は利き腕側に少し偏って筋肉がつくことが多いという話だった。
そこで私は確かめるべく、『極点』を使った。
同じ銀の爪のレンドさんの動点と私のものは能力の特性上ある違いがある。
基本的にこの技は、銀の爪全員ができる技で、自分の体にある刺青を他の場所に移動させることで、私たちの能力である強化された五感の感覚を遠隔の場所でも使えるように瞬間的に拡張させる技だった。
彼の『極点』が聴覚という特徴上、刺青を移動させた場所の周辺の音が聞こえる能力になるのに対して、私のは刺青を相手が着ている服や触れているものに移動させることで、離れている相手をまるで触っているような感覚になるというものだった。
私はその男の手が触れている、机の裏に私の腕の入れ墨をこっそりと移動させると、自分の腕の刺青をなぞって机側の刺青の感覚がうまく伝わってくるように触覚の出力を調整する。
調整が終わると、時折彼が机を触ることで、まるで逆に私が彼の手を触っているように感じることができた。
そこからわかったことは彼の手のひらには間違いなく、剣をふったときにできるタコがあった。
一度や二度ではそんなものはできない。
私はそのまま今度は彼の座る椅子に入れ墨を移した。
足の筋肉のつき方からして、踏み込み足は右足、骨盤の曲がり方からすると右利きのようだった。
うまく隠せてはいるが、時折触れる足にも護身用の短刀を仕込んでいるらしかった。
そんな人間はこの街には他にいない。
彼の周りには何人か同じような装いをした人が座っていた。
彼ら全員が獣狩りだとすると、少なくとも3人の獣狩りが街に溶け込んでいることになる。
彼らが果たして私と同じ目的でここにいるのかはまだわからなかった。
今日は一旦、ここまでの調査結果をまとめて宿舎で休むことにした。




