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超獣戯画Ⅱ  作者: 纏笛


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第39話 手記 五日目-六回目⑤

 町長がいる役場に着くと、係の人が町長は今いないことを教えてくれた。

「どこに行かれたんですか?」

 女の人は手帳を取り出して予定を確認していた。

「今の時間は町の書庫で、古い記録の整理を行われているはずです。本当は町長のお仕事ではないのですけど、あの人は本を読むのが好きなので、休憩と町の歴史などの整理を兼ねてそういったことをされることが多いんです」

 言いながらそこに尊敬と少しの呆れがあるのが感じ取れた。そのまま町役場からほど近い書庫へと連れて行ってもらう。

 書庫は、木造りの建物が三つ並んであるような形で、町の規模からするとかなり広いような気がした。中に入ると紙の匂いがふわっと鼻につく。

 中には本棚がたくさんあり、等間隔に並べられていた。リクはすごく興味津々に本を眺めていた。

「記録欄は書庫の奥なので、多分そこに町長もいると思いますよ」

 と言われて、そのまま奥に向かった。いくつか本棚を越えると、奥の机の上に腰かけている町長がいた。周りには本や記録がたくさん散乱している。町長は物音で私たちに気づいた。

「すいません。お恥ずかしいところを……。何か御用ですか?」

 私は単刀直入に切り出す。

「帝国の人間がこの町で拠点にしている場所を知っていますか?」

 町長はピクっとすると、本をパタンと閉じて私と向き合う。

「彼らに何の用です?」

「いくつか彼らに確認したいことがあるんです」

 私はそう言いながら瞬時に刺青に壁を伝わせて町長の体にそわせる。

「何を確認するんです? なるべく彼らの研究を邪魔しないことと他に情報を漏らさないことが私たちと帝国の契約の一部になっているので正直私からは言いづらいのですが……」

 刺青を彼に移した理由の一つは、まず町長の現在の状態を確認するためだった。町長からは違和感は感じられない。

「いえ、言いづらいのであれば構いません。一応私の方で、町をある程度見学させてもらって、町の東端にある小屋のような施設と、森側にある二階建ての家一棟分……ここら辺かとあたりはつけていたのですが……。直接言えないのであれば構いません」

 町長は少しホッとした表情になったように見えた。おそらく情報を渡さずに住んだと思ったのだろう。

 しかし、私は刺青から町長の肌が強張る感覚と冷や汗が噴き出るのを感じていた。

 銀の爪は各々、強化された五感を使って相手の動揺や嘘を読み取る技を持っている。

 私のはレンドさんのほど精度が高いわけではないが、動揺していることを見抜くには充分だった。

 私の出した二つの施設の中で、後者の二階建ての家に特に動揺を示していたので、おそらくそちらに帝国の人間がいると予想できる。

 そこまで確認すると、有り余る本に目が行った。

「ここは本当に、すごい数の本があるんですね」

 町長は少し照れたように頷く。

「そうなんです。町の規模からしたら多いですよね。でも、これはある意味宝なんです。歴代町長達が一生懸命森と町を維持して皆んなの生活を守るためにしてきた全ての歴史がここにあります。

 現実で起きる問題の多くは、実際は過去に誰かが直面している事が多くて、全てではないにしても解決の手掛かりになったり、解決策そのものが記録として残っている事もあります。

 だから私も逐次いろんなことを記録していますし、記録を見返してるんです。何か今の問題を解決できる情報がないか……とね」

 私はふと気になって聞いてみた。

「今回のファンネルの件はなぜ銀の爪に依頼を?」

 町長は真剣な表情になる。

「以前も言いましたが、私達はあまり森側の選定には介入しません。

 正直、害獣が王になった事例も過去にはありましたが、その時も町長は基本的には介入はしていませんでした……」

「ではなぜ……?」

「たいがいの場合、害獣は人間に敵意を持っている場合があるのが大半なのですが、王になると、自然と彼らはそういう敵意を無くすのです。まるで悟ったかのように……。ファンネルについても仮に王になったとしても私はそのようになるのを期待してそのままにしようかと思っていたのですが……」

 町長はここで少し言葉を区切った。

「正直これはファンネルの能力の話になります。彼女の能力については体験してみてわかりましたかね……。

 彼女の縄張りに入ったものに他の動物がまるで洗脳にかかったみたいに襲いかかる能力……。問題はこれの対象範囲でした。」

「対象範囲?」

「彼女の攻撃は、縄張りに入った人間に対してだけでなく、その縄張りの動物ではないものに対しても両方に対して行われていたのです。なので今の王は何度か護衛の獣と共にファンネルと戦おうとしたそうなのですが、彼女の能力は強力ですし、力を使われてしまえば、王は罪のない洗脳された動物達と戦わざるを得なくなります。

 要は動物同士の殺し合いが発生してしまうんです。それを防ぐために、苦渋の選択で私に依頼したのです」

「王に直接言われたのですか?」

 町長はうなずく。

「王と町長は直接やりとりをするんですよ。昔からの慣例なんですけどね。

 私は町長になってもう長いですが、幾度となく我々は連携を取ってきました」

 王と町長には交流があるようだった。

「なるほど、では町の人のためというよりは、獣側の意向を汲んで、獣狩りを雇うことに決めたのですね」

 町長はうなずく。

「ええ、蛇の道は蛇ということで、色々噂などを聞いた結果銀の爪さんに依頼するのがいいだろうと私が判断しました。しかし、少し難点だったのが、帝国の皆さんにあなた達を雇うと言った時は正直少し揉めました」

 私は驚く。

「そうなんですか?」

「ええ、なぜうちに依頼しないのかとね、私はほぼ独断で銀の爪さんに依頼をしてその後に帝国にお知らせしたので、その事に怒っていたみたいです」

 私はふと疑問に感じた。

「なぜ帝国に依頼しなかったのです? 彼らの兵力はかなりのものですし、協力関係にあるこの町のためであれば軍を出してくれるはずです」

 町長はうなずく。

「ええ。しかし私はあまり帝国側に貸しを作りたくなかったのです。彼らは決して我々と友好的な関係を築きたいわけではなく、利用しようとする兆候が随所に見られます。おそらく一度弱みを握られてしまえば、今後はいいなりになるしかない。それは町の民の望むところではありません」

 私は納得した。一通り話を終えると、私はリクと共に町長の元を後にして、帝国の人間がいる施設へと足を運ぶことにした。


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