第36話 手記 五日目-六回目②
町長が宿で私に依頼の内容を説明してくれるところだ。
「今回の獣達の話をする前に、私達の町の伝承の話をする必要がありますね」
そこから町長は一通りこの町と王との歴史を同じように私に話した。だが、その後が違っていた。
「実は今回狩ってほしい獣は一体だけではないんです」
私はそのまま町長の次の言葉を待った。
「実は、ちょうど一年前になりますが、王は殺されたのです。森の中で」
私は聞き返した。
「殺された?」
町長の表情に苦い色が浮かぶ。
「そうです。そろそろちょうど一年前になりますが、王は森の中で殺されたのです。そこから今まで新しい王は現れていません……。今王は空位なのです」
直前に話していた王の交代の掟と矛盾する点があると考えたのか私はそこを尋ねていた。
「王を殺された場合、殺した獣に王の権利が移るのではなかったですか?」
町長はうなずく。
「そうです。しかしなぜか今回はその王の引継ぎが行われなかったのです」
私は再度尋ねた。
「それはなぜなのかわからないのですか?」
町長は手を組んで下を見る。
「現状私たちに理由は分かりません。しかしどうやら森の獣たちは私たち人間が殺したと思っているようなのです……」
人間が王を殺す場合は、人間が王になるのだろうか、と考えていると私が同じことを聞く。
「ちなみに人間が王を殺した場合はどうなるのですか?」
町長は考え込む。
「わからないですが……おそらく人間が王になるのではないかと思います。人間も獣ですから」
私はうなずいた。
「であれば、もし町の人が王を殺しているのなら、町の中の誰かが王になっている可能性があるということですか?」
町長は首を振った。
「確かにそうですが、現状はそんな人はいません。もし王になった人間がいれば私たちはすぐわかるはずです……」
私が納得したのを見て町長は話をつづけた。
「私達はなんとか動物達との関係を続けたかった。なので貢ぎ物を継続することで彼らに関係を続けてもらうよう打診したのですが……やはり一部の獣達が納得してくれませんでした。」
私はなんとなく話が見えてきた。ここでようやく町長は本題に入る。
「実は王が死んでからというもの、森の害獣の数は激増したのです。
前は森に多くて二匹いるかどうかというところで、仮にいたとしても、王の意向に逆らわなかったので、私達もよっぽどの事がない限りは害獣であっても手を出すことはしませんでした……。しかし今は森に少なくとも十匹は害獣がいます」
記憶の中の私も、今の私も同様に驚いた。
「十ですか……それは流石に多いですね。まさかそれを全て狩れと?」
町長は首を横に振った。
「いえ、狩ってほしいのはその中でも特に人間に敵意を表している五体です」
いくら拡大型とはいえ、五体を狩るには相当な労力がいる。
「五体……全部拡大型であったとしても、その難易度はかなりのものかと思うのですが……」
町長は頷く。
「ええなので、全てを殺さなくても構いません。しかし最低でも三体は狩っていただきたい。彼らは五体の中でも特に凶暴なのです」
町長は続けてその特徴を教えてくれた。
「一体目が、グークという猪です。グークは先代の王の血を引いていて、賢く、かなりの強さだといいます」
初日なのでおそらく私はまだ知らないのか、名前について尋ねていた。
「すべての動物に名前があるのですか?」
町長はうなずく。
「ええ、森の動物には全て名があります。動物たちが生まれたときに決めているようですがね」
驚いている私を見ながら町長は続ける。
「二体目は黒狼のガイルです。わたしたちの森には狼が銀狼と黒狼の二種類いるのですが、黒狼の方が実際の数は多いです。その中でもガイルは特に凶暴で、もう五人ほど、誤って縄張りに入ってきた人間を殺しました。目に縦の傷があるのが特徴です」
この町は人口がそこまで多いわけではない。そこで五人となると、相当な被害になる。
「そして最後の一体、おそらく最も厄介ですが、狐のエサル……。この獣はそこまで強いわけではないのですが、姿を変えることができるのです。それこそ人間にも、他の獣にも」
姿を変える害獣というのは私もいくつか聞いたことがあった。
「それはどうやってわかったのです?」
「エサルについては王が死ぬよりも前から害獣の能力があった可能性が高いのですが、何度も他の獣に化けて、人間を襲っているのです。
そうすると、私達が、動物側に、掟破りの動物がいると言っても、動物側はエサルがなってないと意思表示してしまえば、事足りることになります……。
彼はそうやって少しずつ人間と獣達の対立を煽ってきたのです。個人的にはエサルだけは今回の狩りで仕留めなくてはならないと考えています」
町長の目には固い決意が宿っていた。私は一旦返事をする。
「わかりました。しかし今回はかなり依頼内容が複雑です。五体中三体だけという条件も他ではあまりありません……。状況も含めて調査させていただいてもいいですか?」
町長はうなずいた。
「わかりました。しかしなるべく早く、対処していただきたい。実は、今は森の獣達と私たち人間は一触即発の状態になってきているのです」
「と言いますと?」
「彼らは王を殺したのが我々だと思っているので、我々を殺すことで王を取り戻すという考えになっている獣がいるのです。流石に完全に対立するところまではきていませんが、そうなる前に争いを冗長する獣だけは退治しておきたいのです」
「ですが、その場合だと、私がその獣を殺すことが返って対立を深めるのでは?」
町長は首を振る。
「今回挙げた獣達以外は、基本的には今までのように貢ぎ物があれば、今までの関係性を崩さずにいてくれる獣達が大半なのです。
特に王が死んだ後に害獣になったうちの一匹が、今他の獣を仕切ってくれていますが、いつその均衡が崩れてしまうかは正直分かりません。
害獣化した獣達が無関係の人間達をたくさん殺していることはその統率している獣に伝えてあって、その獣を人間側で処理することは伝えてあります」
ファンネルの時と同様、対立を事前に防ぐ目的は変わらなかったが、依頼の難度はこちらの方がかなり上に聞こえた。
「わかりました。特殊な依頼ですが、私も長からこの仕事はなるべく引き受けるように念を押されています。
なるべくご期待にそえるように努力します。一点だけ確認なのですが、仮に三体を倒したとしても残り二体がいるはずです。そちらはどうされるのですか?」
町長は少し言うかどうか迷っている様子だった。
「私たちの町には実は町独自の獣狩りが何人かいます。残りの二体も拡大型なので、もしあなたに余裕がないようなら、彼らに狩ってもらいます」
私はうなずいた。
「彼らには私が来ることは?」
町長は即答する。
「伝えてあります。昔、銀の爪には依頼してその時も、一緒に働いてもらったので、あなた達の狩りのやり方はなんとなくわかっているはずです。
彼らには残りについてはチャンスがあれば、狩ってもいいという指令を出しているので、うまく連携を取り合ってもらえると助かります」
町長はそういうと握手をしてそこから離れる。
そこで私の記憶は途切れていた。




