第34話 銀狼の過去 ~牡鹿と銀狼~
王はいつも森の決まった道を巡回する事をガルムは知っていたので、そのルートを猛スピードで、辿っていく。
途中知り合いの草食獣達がガルムを見つけて話しかけようとしてきたが、ガルムの表情は完全に肉食獣のそれになっていた。
そのまま走っていると、その先に何匹かのお供を連れた王を見つける。
そしてその王こそ、バフルを倒してからずっと王位を守り抜いていた牡鹿のイルクだった。
イルクは五匹の動物達と一緒にいたが、その目の前に殺意むき出しのガルムが現れる。
――なんだ貴様。王の前だぞ。
他の動物達が王の能力を通して喋りかけてくる。ガルムは動じないでじっとこちらを見つめるイルクに尋ねた。
――王! なぜだ! なぜ両親を人間達に殺させた!
イルクは他の動物達を抑えて喋り始める。
――彼等は掟を破り、人間を襲った。お前とて掟を知らぬわけではあるまい。
イルクの声は他の動物達の心の声と違って低くガルムの腹に響いた。
ガルムは両親達が、たまに縄張りに来ている人間達を追い払ったり、無断で狩りをしている人間を見ると噛み付いて傷を負わせたりする事は知っていた。
――しかし……何も殺させる必要は……。
――掟は掟だ。それに私は殺させたわけではない。増援を送らなかっただけだ。もし彼等を守れば他の民にまで害が及ぶ。
ガルムはそれでも納得いかなかった。
――獣より、人間との掟を優先させるのですか?
イルクは首をふる。
――これは私達が生き延びるための私達の掟だ。
お前は両親達のようにならぬよう、掟を守る事だ。
その言葉はガルムにはひどく薄情に聞こえた。
――王には……獣を守る責務があるはずだ……。あなたはそれを放棄している……。
王は冷静だった。
――掟が気に入らぬのなら、お前が王になって変えることだ。
そう言ってイルクはガルムの前から去ろうとする。
――待て!
ガルムは怒りに任せて、イルクに噛みつこうとする。その素早さに周りの動物は反応が一瞬遅れたが、王はまるで後ろに目でもついているかのように正確に飛びかかるガルムに後ろ蹴りを入れた。ガルムは後ろに吹っ飛ぶ。
――貴様! 王に何をする!
周りの動物はいきり立って、ガルムを追撃しようとしたが、王が止める。
――お前たちは手を出すな。
周りの動物はそのイルクの言葉でサッと身を引いた。ガルムはすぐ立ち上がって反撃しようとするが、立ち上がれなかった。
ただ蹴られただけとは思えぬ衝撃が、ガルムの体を貫いていた。立ち上がれない様子を見て王達はその場を去ろうとする。
ガルムはイルクの後ろ姿に向かって叫ぶ。
――俺はあんたを必ず殺す……そして王になって人間どもを皆殺しにしてやる。
王以外の獣は笑った。
――お前如きがイルクに勝てるわけがない……狩りが下手で父親にも見捨てられていたくせに。
ガルムは怒りに身を振わせる。憎しみの炎が全身を駆け巡っていた。
だが、王は笑わずにこう言った。
――やってみるといい。だが王になっても全てお前の思い通りになるわけではない。それを心に銘じておけ。
そう言ってイルクは他の獣を連れてその場をさっていった。ガルムは誰もいなくなったその場で一人雄叫びを上げた。




