第33話 銀狼の過去 ~襲撃~
森の奥の湖の近くで一匹の銀狼の子供が鹿やリスたちと戯れていた。
銀狼のガルムは同じく銀狼の母と父から生まれた。森には多種多様な動物がいるが、銀狼はその中でもかなり珍しく、数自体も少なかった。
母ガルアは生まれた時から彼を強く育てるべく、食糧をかき集めたり、狩りを厳しく指導した。だが、ガルムはそんな母の期待に反し、平和主義の気の弱い狼でよく鹿や猿にいじめられていた。そんな彼を周りの肉食獣はけなしてからかった。
そうこうする間に逆にいじめていたはずの草食の獣達が心優しい彼と仲良くなり、森では珍しいと評判になっていた。
母はそんなガルムを見ると大層悲しい表情をした。だが決して見放しはせず、息子に常に言って聞かせた。
「良い?あなたは絶対この森の王になるの……約束よ?」
だが、ガルムにはあまりそう言う気はなかった。母がどれほど自分を愛して気にかけていてくれるかを見ても、どうしても動物同士の争いで勝とうという気が起きなかったのである。
何度か王を見たこともあったが、あまりの雰囲気に圧倒されその場から動けなかった。
父もあまりガルムには期待せず、その後に生まれてきた弟に夢中だった。ガルムもあまりそれを気にすることはなく、むしろ自由に生きれて幸運に感じていた。
ガルムはいつものように隠れて草食獣達と遊んだ後、縄張りに戻ると、二十人ほどの人間達が縄張りのある森の奥にいるのを見つけた。
ゆっくりと近くの木陰まで辿り着いて様子を見ると、人間達は武器を持って狼を囲むようにしている。
父は人間たちに向かって吠えていた。
――なぜ人間がここにいる……! 全く王は何をやっているんだ!
母も警戒していたが、それ以上に息子たちを心配していた。
――囲まれてる……。図られたわね……王に。
父は母の言葉に振り返って驚く。
――どういう意味だ?
そんな中で、人間たちは包囲を固めている。
「全くこいつら、散々俺達を襲いやがって……」
「町長の許可は出てる。こいつらは皆殺しにして良いそうだ」
人間側の言葉はガルムにはわからないが、どうやら両親が狙われていることはわかった。すると、剣を構えている人間達の後ろから一匹の狼が集団の一人に噛みつく。
それはガルムの弟、ガリウだった。ガリウは父に見込まれるほどに強く、また凶暴だった。
すぐさま二人に立て続けに噛みついて、組み伏せた。それに合わせて、父と母も一緒に人間達に襲いかかる。
人間達は全部で十人ほどいたが半分が銀狼達の攻撃で怪我を負い、その場に倒れていた。
だが、ガリウが次の男に噛みつこうとしたその時、死角にいた男がガリウの背中を斬りつけた。
ガリウは痛みで飛び跳ねる。父のガルはその光景に一瞬気を取られてしまう。
するとガルに噛まれて伏せっていた男の1人がその一瞬の隙をついてガルの足に剣を突き刺す。ガルも痛みでその場に倒れ込むと、そこを一気に剣で斬りかかられ、致命傷を負った。
唯一母のガルアだけが、その場で、他の男達との間合いを保ち続けていた。
一部始終を見ていたガルムは恐怖で震えながらも、母に加勢せねばとその場を飛び出した。
だが、ガルアはそれに気づき、すぐさま、ガルムに『来るな』と目で合図を送る。母のその目には迫力があり、ガルムは瞬間止まる。
ガルアはさらに
――来てはいけない! 逃げて!
と吠える。
人間達は狼の言葉がわからないので、これは自分達に対する警戒の咆哮だと思っているようだった。ガルムはその場の木陰に再度戻った。
父も弟も無惨に剣を突き立てられその場で絶命しており残すはガルアのみだった。
ガルアはまずひとりの男の剣を交わして喉元に噛み付く。男が叫び声を上げる。
周りの男達は助けたいが、ガルアがしっかりと組み付いているので、剣を振ると男にも当たってしまいそうで、うまく戦えなかった。
だが噛みつかれている男は剣を離して咄嗟に腰にある小さいナイフを取り出して、ガルアの足に刺した。ガルアは痛みに打ちひしがれるが、男から離れず組み付いたままになる。
するとそれを見ていた周りの男達も、剣から小回りのきくナイフに持ち替えて、男を傷つけないようにガルアの体を刺していく。
ついに痛みに耐えきれなくなりガルアは男から離れる。そして最後の力を振り絞り、他の男達に吠える。男達は顔を見合わせた。
「おい、こいつもうほっときゃしぬだろ。あんだけ刺したんだ」
「ああ、それに早く怪我してる奴らを町に運ばねえと後がやばい。ここはいったんひこう」
そう言うと男達は、致命傷を負って絶命した男達を置いて肩を貸しあいながらその場から逃げた。
ガルアはずっと警戒を解かなかったが、最後の男が行ってしまったのを見るとその場に倒れ込んだ。ガルムはすぐさまガルアの所にいく。
「母さん……どうして来るな……。なんて」
「あいつらは家族全員殺すつもりだった……あんたはまだ知られていない……。身を隠しなさい……」
ガルアは息も絶え絶えだった。
「母さん……どうして……なんで王が助けに来ないんだ……」
「王は私たちを裏切って人間と手を組んだのよ……」
ガルムは驚いた。
「そんな……まさか」
ガルアは最後の力を振り絞る。
「良い?絶対に王になって。そして人間に復讐して……私たちの森を汚すあいつらを殺してちょうだい」
ガルムの目から涙がこぼれた。
「あなたならできる……あなたは私の子だ……か……」
言い切らず、ガルアは絶命した。ガルムは泣いた。父や弟とは関係が微妙になっていたが、ガルム自身は母親を深く愛していた。
そして、泣きはらした後、ふつふつと憎しみが湧き出してきた。人間とそして一切何もしようとしなかった王に。ガルムは一目散に走り出した。




