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超獣戯画Ⅱ  作者: 纏笛


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第32話 手記 五日目-五回目⑤

 マリウスを見つけると、話しかける。

「山にいる動物達のことで聞きたい事があるのですが……」

 マリウスは快くうなずいた。

「彼らは、私が他の地域で見た動物達よりもとても賢く見えます……それは元からですか?」

 マリウスはうなずく。

「たしかに彼らは賢いです。ですが元から賢かったわけではなかったと、聖獣隊の記録にあったのを読みました」

 レルベットがまた話に入ってくる。

「彼らは皆、王の恩恵を受けているのです。」

「王の恩恵?」

「知らないでしょうから特別に教えましょう。王には実は人間や他の動物と心で意思疎通が出来る特殊な能力があります」

 それは昨日聞いていたが、初めて聞いた事になるのでそれっぽく反応した。

「それは……すごい話ですね。にわかには信じられません」

 レルベットは笑う。

「無理もありません。しかしそれは事実なのです。そしてその能力が山の動物達を飛躍的に進歩させた……」

「というと?」

「彼らは王を介すことで違う種族の動物であっても意思の疎通ができるようになったのです。この事が彼らの生態に著しい進化をもたらした……人と同じように各々が連携を取れるようになったのです」

 それで人間のように意思疎通が出来る存在に進歩してきたと言うことか……。王の能力にしろ、この森の動物は特殊と言わざるを得なかった。

「ファンネルも王の血を引いていることもあって他の獣よりはかなり賢かったです。難しい任務だったと思いますが、本当にありがとうございました」

 二人に感謝を示されるが、相変わらず私はファンネルを狩っていないので、少し後ろめたい気持ちになる。

 そうこうしているとまたクラムが、酒場に入ってくる。案の定、マリウスと言い合いを始める。

「自分達の大切な人間が今の甘い体制のせいで失われても、俺は知らんぞ」

 最後クラムがそう言って出て行こうとすると、反獣王派の一人がクラムを止める。

「おい、良いのか? 言われっぱなしで!」

 だが、クラムはその腕を振り払い、外に出て行く。私の記憶が正しければ、今までの『時の遡り』の中で最後のやりとりはなかったはずだった。

 何かが今までと変わったのか? と思いラフサルさんに尋ねてみる。

「あの……今クラムさんを止めた人は?」

 ラフサルさんは苦い顔をする。

「ありゃバンメウだ。反獣王派は今は若くて勢いのあるクラムが仕切ってるが、裏であの集団を扇動してるのが奴だ。あいつは自分は何もやらないくせに、反獣王派を焚き付けて。反発を大きくしてやがるんだ……。いけすかない野郎だよほんと」

 私はそのバンメウという男が気になったので、ラフサルさんに礼を言うと、酒場を出てこっそりと彼らの後を追った。

 クラムは町の中を歩いていて、バンメウがちょうど追いついた所だった。昨日確か、私とすれ違った時はクラムは一人だったはずだ。

 気づかれぬよう近くに行くと会話が聞こえてくる。

「おいおい! 長であるお前が、もう帰っちまうのか?」

 バンメウの煽りにクラムは不快感丸出しでふりかえる。

「何か言ったかバンメウ。いくらお前でも許さんぞ」

 バンメウはクラムの勢いに怯むことなく笑う。

「奴らに手を出せないのに俺に出せるのか? いくら凄んでも何もしないのがバレてたら説得力に欠けるぞ」

 クラムは目を背ける。

「ふん。あいつらは分かってない。このまま獣の言う通りになったら取り返しのつかないことになる。俺のように家族を失う人間が増える事になってから気づくだろう」

 バンメウはうなずく。

「俺も全く同じ気持ちだが、奴らは何もしない。町長含め変わらないんだ。獣の言うことをただ聞くだけの腰抜けばかりだ。そんな奴らの様子を伺っていても何も変わらないだろう?」

 クラムの表情は変わらない。

「だとしても、今の俺達には何もできんだろう。反獣王派も人数は増えたが、王の勢力に対抗できるほどじゃない」

 バンメウは背中に背負っていた包みを取り出す。

「だが何も……王の勢力全員を相手にする必要はない……俺の言う意味はわかるだろう?」

 そう言いながら包みから剣を取り出して、クラムに手渡した。

「これは……クロムから買ったのか?」

 剣は遠目からでもはっきりわかる良い業物だった。

「お前のためだ。最近剣をダメにしただろう。これを使え」

 クラムは剣を振りながら感触を確かめる。

「これで俺に王を殺せってか」

 バンメウは微笑む。

「お前が王を狩ればお前が王だ。あのクソみたいな獣連中を全て従えられる。そうだろう?」

 クラムは考え込んでいた。

「たしかにこのままでは、獣供の思う壺、だな。だが、そのあとどうする。獣達に王になったことがバレれば俺は襲われる」

 バンメウはうなずく。

「だが、もし仮にうまく気づかれず奴を殺せれば、バレる前に町に戻れば良い」

 クラムは驚く。

「お前は何を言って……。まさかそれがお前の狙いか? 町の人間と獣達を戦わせるという」

 バンメウはうなずく。

「それこそ俺たちの望みだ。そうだろう? 総出でかかれば奴らなぞ大したことはない。それにこちらは町で奴らを待ち受けられる……いくら奴らが賢いとはいえ、町では我らには敵わんさ」

 バンメウの計画はかなり突飛に聞こえたがクラムは考えている様子だった。

「それに忘れたのか? お前の父を殺したのはあの王だろう。あの王は、散々人間を傷つけた癖に王になりやがった。そのせいで俺達は手を出しづらくなった……そうだろう?」

 クラムは苦々しい表情をうかべる。

「忘れるわけがないだろう」

 バンメウは好機とみて畳み掛ける。

「なら迷うことはないだろう。このままじゃお前の代で奴に復讐することは叶わないぞ?

 人間をたくさん殺したやつに従うばかりの今の体制を許しておいて良いのか?」

 クラムは意を決したように歩き出す。

「分かった。蹴りをつける。俺の手で」

 バンメウは満足そうな表情を浮かべる。クラムはその足で、森へと入っていく。

 私は気づかれないようにクラムの後をつける。クラムは森の中に入ると、貢物がある小屋の方向に歩いて行った。

 森は完全に夜になっており、当たりも暗く見通しも悪かった。クラムは小屋から少し離れた木の木陰に隠れていた。

 私もその近くに身を潜めると、瞬時に入れ墨の一部を移動させ、クラムの体につけた。

 クラムのは皮膚からは汗が滲み出ているのを感じれる。汗が出て、体がこわばり始めると、小刻みに揺れていた。

 そうして待つこと三十分、王が他の獣何体かを連れて小屋の近くに現れた。

 だが、昼にあった時よりも、お供の獣の数がかなり少ない。今は王自身以外は一匹の馬と熊が近くにいて、後の獣はいなかった。

 王はふと立ち止まると、お付きの獣達に、どこかへ行けと首を振って指示を出して一人になる。

 今王の近くにはクラムだけになった。

 クラムはゆっくりと剣の鞘を外すと音を立てずに、地面へと置いた。

 剣を構えて飛び出そうとする、その筋肉の強張りが入れ墨を通して伝わってくる。

 しかし、次の瞬間、彼はフーッと息を吐き出して剣を置く。筋肉の強張りが解けて力が抜けていくのを感じた。

 王は当たりを見渡していたが、何も起きないのを確認したのか、その場を後にしていった。

 クラムは王がいなくなったのを確認してから、剣を鞘に収めると、町に戻った。

 町ではバンメウがことの首尾を確認しようと楽しそうに待っていた。だが、クラムの苦々しい表情に、結果を察すると、クラムを罵っていた。

「全く、期待はずれだ。お前は俺達の長の素質はないかもしれないな」

 クラムは鞘ごと剣をバンメウに投げつけた。

「そう思うならお前がやれば良い。元はといえばお前の考えだろう」

 言われてバンメウは嫌そうに歯軋りした。

「王をやるときは俺の意志でやる。お前にやらされるのはごめんだ」

 そう吐き捨てるとクラムはその場を去った。バンメウは苦々しげに剣を拾うと、帰って行った。


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