第30話 手記 五日目-五回目③
双子は後ろに立っている私に気づく。
「ごめんねお客さん今日はもう店じまいなんだ」
「そうそう、たくさん売れたからねぇ」
「実は少し聞きたい事があるんだけど、今って帝国暦だと何日?」
双子は唐突な質問に手を止める。
「えっと今日は十七日かな、七月の」
この日付自体は同じようだった。
「じゃあ何年?」
双子はあからさまに訝しげな表情を浮かべる。
「なんでそんな分かりきったことを……十五年に決まってるじゃないか」
私はここで確信を得た。これは過去だ。
本当は今、十六年の七月十九日だが、ここは十五年の七月十九日なのだ。ちょうど一年前の過去と言うことになる。
「なんでもないの。ありがとう」
私が平静を装っていると、リクが口を挟んだ。
「うそ! 今は十六年だよ!」
双子は笑っていなした。
「勘違いしてんじゃねえのか? 十五のはずだ、俺たちは帝国とも商売してるから日付は間違えねえぜ」
リクは納得のいかない表情をしていた。これには驚いた。私だけでなく、リクも十六年だと思っている……。
双子と私たちの違いについて考える必要が出てきた。もしここが過去ならば、私はここに一年前に来ているはず……しかしその記憶はない。
それがもしも私とリクの共通点なのかもしれないと思った。
「リク。あなた一年前の今日はどこにいたの?」
リクは記憶を遡る。
「サルバ地区にいたよ。間違いない」
やはり、リクもここにはいなかった。
私も一年前は別の獣を退治していた記憶がある。ということは私とリクは本来この過去にいない人間という事になる。
そこでふと朝に思った違和感の話と今の部分が繋がる気がした。
私は、繰り返しのはじまった五日目だけ、非現実を見せられているのかと思っていたが、もしかすると、ここに来た当初からずっと非現実を見せられているのかもしれない。
違和感は実際には二日目に起きた瞬間からだった……。とすると初日の町長にあった時はまだ、現実だったのか?
しかし、それ以降が非現実なら一年後に全く同じ依頼を私にしている事になる。一年ファンネルを放置したのか?
仮に私がいなくても五日目にファンネルは獣狩りに倒される。であればなぜ同じ依頼を一年後に?
やはりそう考えると初日も非現実を見せられていたのか? ここはまだ結論を出すのは早そうだった。
とりあえずここは一年前の過去で、ファンネルは今日ここで死ぬ。
そして、動物達はこの過去で、何かを確認したがっている。この二つはほぼ事実だろう。
ここまで考えてきて、やはりもう一度王と対峙して直接目的を聞くのがいいような気がしてきた。
どう転ぶにしろ現状の私が全てを理解するにはあまりに手がかりが少ない。
幸い他の動物と違い、王には直接意思疎通ができる。簡単には教えてくれるかはわからないが、このまま手探りで手掛かりを探しているわけにはいかなかった。
昨日の王と会った時刻は夕方ごろだったので、同じ時刻を見計らって森に入ることにした。
道中で動物達が何を確認したいのかを考えた。
過去に起きた何かを確認したいとすれば、その出来事の詳細を動物達が知らない、かつ動物達にとって重要な出来事だという事が推察される。
すぐに思いつくのはファンネルの死だが、それならもう既に確認できたはずだ……。それ以外で動物達に何か重要な事が起きたのではないか?
重要な事……動物達にとって重要な事といえばおそらく王にまつわる事か、もしくは貢物か……。
仮にそのどちらかに何かがあって、その真実を知りたがっているとすればどうだろう。
例えば貢物が何者かによって盗まれた……その犯人を探しているとか。
町が対象に入っていることから、彼らは人間達を含めた動向を知りたいのかもしれない。
そして、真実を『時の遡り』によって確かめようとしている……。
昨日と同じように貢物の小屋の周辺をうろついていると、案の定動物達が現れて周りを囲まれて、ゆっくりと銀色の狼が現れる。




