第三章 狙い 第28話 手記 五日目-五回目①
私はまた強烈な違和感を覚えながら目覚めると、また同じように宿のベットの上にいた。
この違和感はよくよく考えると、この町に来た次の日からずっと続いている。その意味を深く考えた事はない。もしかすると、これも何かの手がかりになるかもしれないと一旦思ったが、何に繋がるかはまだこの段階ではわからなかった。
ひとまず考えるのはそこでやめにして、いつものように外に出て同じように訝しむラフサルさんに挨拶する。
宿に戻り、リクが訪ねてくる時間になると、今日は町に向かう事にする。
町は遡りの範囲に含まれているので、今回の事象の手がかりになるものが何かあるかもしれない。広場に着くと商人達をまず探した。すると商人達がそれぞれ屋台を陣取っているのが見える。
いつもこの時間はもうすでに森で調査をしているので、商人達がこんな風に町で商売を行っているのは知らなかった。
その中に昨日会った双子の商人を見つけたので、リクを連れて行ってみる。双子の商人はとても元気だった。
「はいはい皆さん。今日はいい品物が入ってますよう。なあゴウ」
カイが商品をテンポ良く見せていく。双子が扱う商品は、日用品や、食べ物が多かった。
「これはサブァル地区の野菜にこっちは果物ね。ここは寒いからけっこう腐らず保つだろうさ。それと、今日の目玉は香辛料だ! 肉は腐らないし、料理にも使いやすい! この価格で仕入れるの苦労したんだぜ。
今日仕入れたもんはどれも新鮮だぜ。その証拠にほら!」
カイは果物を齧ると、果汁がフワッと溢れ出して甘い匂いが広がった。双子の軽快な商品の紹介に町民たちは盛り上がる。
牧場が多いこの町では、家畜の肉が他の地区に売れる商品になるし、町全体の食糧にもなる。肉を腐らず保たせるには香辛料は必須だった。
買い物に来ていた画像の子供が双子に話しかける。
「なあゴウ兄ちゃん。ナイフないの?カッケェやつ!」
だが子供は母親に嗜められる。
「こら! 全くもう……ごめんねゴウちゃん。ほらうちの旦那がナイフで木削ってるのみてどうしても自分でやりたいって聞かなくて……ほら! あんたからもなんか言ってやってよ!」
「いやあすまんすまん。でもうちの一家は代々、彫刻が生業だからどうしてもな。なあロウちゃん子供用の小さいナイフはないかい?今のうちにやり方を教えておかなくちゃいけねえ」
いたずらっ子のような表情を浮かべた父親に母親は烈火のごとく怒る。
「ちょっとあんた!」
「なるほどねぇ、だけどそういう事なら……」
ゴウはチラッとカイを見る。するとカイはニヤッとする。
「違いない……リブロ商会だねぇ」
カイはゴウに店を任せると、先ほどかじった果物を齧りながら、その家族をリブロ商会の商人の元まで連れてきた。
男はしているのか私達に気づかず、背を向けていた。
「やっほークロムさん! 元気してる?」
カイに話しかけられるとクロムと呼ばれた男が振り向く。
「お?なんだっぺカイ?そんなお客様業さん引き連れてからに」
クロムの言葉は分かりやすく訛っていた。
「へっへっへお客さん連れてきたよ!子供用のナイフが欲しいんだって」
その言葉に子供が怒り始める。
「子供って言うない! おじちゃん俺子供用のやつより親父が持ってるようなちゃんとしたやつが欲しいんだよ」
母親がまた怒る。
「ほんともう! そんなの危ないったら」
クロムの店の商品はたしかに、ナイフや陶器のような壺、鮮やかな布など、食べ物というよりは各地域の工芸品のようなものばかりだった。父親の方はクロムの店の品揃えに目を奪われていたが、我に帰って話しかける。
「クロムさん。小さめのシースナイフはあるかい? 鞘がついてるやつがいいんだ」
クロムはうなずくと、
「それなら……」
と店の上の棚から少し小ぶりの鞘付きのナイフを取り出した。
「これなんてどうさね。少々小ぶりだが、重さ、造形ともに職人の良い仕事が光ってる……。何年も使える値打ちもんだよ」
そういうと父親の方にそのナイフを手渡した。
「なるほど、いい出来だな……どこの地区のなんだ?」
クロムは暗記しているようですぐ答える。
「バハム地区のものさね。あそこにはいい刀鍛冶が多い。ナイフや刀であそこの地区に質で勝てる地区はそうそうないわな」
父親はうなずいた。
「よし、これをもらおう」
しかし子供の表情は優れなかった。
「親父が持ってるみたいなでっけえのが良かった。こんなん子供用じゃねえか」
父親は頭を抱える。
「全くそんな駄々こねるならもう買ってやらんぞ」
子供は剥れたままだっだ。クロムはそんな様子を見かねると、
「全く、これの切れ味を知らねえからそんな事いうだ。ほれカイ、ちょっとその果物俺に投げてみろ」
とカイに促す。カイは承知とばかりに持っていたくだものをフワッと投げる。クロムは子供に見せたそのナイフを一振りする。すると果物は近くにあった皿に真っ二つになって乗っかった。
この曲芸に子供の目が輝く。クロムはナイフをふきんで拭う。
すると刃先が太陽に当たってキラッと輝いた。
「小さく見えるけど、物は一級品だ。使い手の技量が上がれば上がるだけ出来る事も多くなる。このナイフは一生もんだぜ? 買わねえならもっと欲しがる奴に売ったほうが俺もいいと思うがどうするさ?」
クロムはそのままナイフをシースにしまって、店の棚に戻そうとする。
「待って!」
子供が父親に向き合う。
「あれが欲しい」
父親がよしとうなずく。
「クロムさん。そいつをもらえるかい?」
クロムは頷いて、と父親が差し出した硬貨を数える。
「ひいふうみい……よしぴったしだ。さあこれを君にあげよう。おっと……いうのを忘れてた」
子供がナイフを受け取ろうとしたタイミングでクロムはさっとそれを取り上げる。
「ナイフってのは自分の命も相手の命も簡単に奪っちまえる代物さ。これを使うって事は大人だろうが子供だろうが、責任が伴う……。おめえの大事な家族を傷つけないように……そして何よりお前自身を傷つけないように気をつけて扱うと、俺に誓ってくれや」
クロムの目はじっと子供の目を見つめていた。そこには子供扱いをしている様子はなく、一人間として真剣に相手の反応を確かめる、そんな緊張感があった。
子供は一瞬その迫力に驚いたが、父と母を交互に見つめるとぐっと頷いてもう一度手を差し出した。
「うん俺誓う。誰も傷つけないようにする」
クロムはうなずくと、ナイフを少年に渡した。母親はため息をついたが、しょうがないと言った表情で受け入れていた。
家族連れが去った後、カイがクロムに話しかけた。




