第27話 狼の王と男
森の中を銀色の狼がゆっくりと歩いていた。そして貢物がある小屋の横にある焚火の後に辿り着くと、そこにはもうすでに男が座って待っていた。男が立ち上がって頭を下げると、狼はその男に話しかける。
――どうなっている。
男は肩をすくめる。
――いや、やれやれですよ。まさか彼女もう既に気づいているとはね。
狼は歩きながら忌々しげに言う。
――あの女は壁にも気が付いていたぞ。
男はうなずく。
――この短期間で、色々検証しているようですね……。ないとは思いますが、私たちの目的にもそのうち気づくかもしれません。
男の余裕に狼は敵意を剥き出しにする。
―奴をそのままにしておくつもりか?
男はまた首をすくめる。
――彼女が本来の役目をしない場合でも、本筋に影響はないはずです。それにもし仮に私たちの目的が知られたとしても、彼女には何もできない……。むしろ知られた方が好都合かもしれません。
狼は眉を吊り上げる。
――どういう意味だ?
男は空を見ている。
――彼女がここから抜け出す唯一の手段は僕らの目的を達成させる事だからです。それならむしろ邪魔な動きをさせないために、目的をわからせて、彼女に協力させた方がお互い好都合かもしれない……ということです。
狼は首を振る。
――俺は反対だ。あの女は妙だ。お前らが警戒していたのがよくわかる。他の人間とは違う妙な雰囲気がある。
男はうなずく。
――私も別に彼女を信用しているわけではありませんよ。目的のために使えるものは使いたいだけです。
狼は苛立たしげにその場を踏みしめていたが、しぶしぶうなずく。
――わかった。その判断はお前に任せよう。しかし、もし私達に害が及ぶようであれば……わかっているな。
男はうなずく。
――そうですね。私としても本音は彼女が気がつく前に肩を付けたい所です。まだ時間はありますが、悠長に構える必要はありません。
――私はまだいいが、他の者達はもう我慢の限界が近い。元々人間など皆殺しでいいと思っている連中だ。長くは抑えておけんぞ。
男は頭を下げる。
――わかっています。お力添え感謝しますよ。
狼は振り返らずにその場を去って行くが、去り際に、
――我らは同じ目的があるから協力しているだけだ。それがやり遂げられないとなれば……お前とて皆殺しの対象になる。それをよく覚えておけ。
と言い残した。
男は狼が見えなくなったのを確認するとその場に座り込んだ。
「やれやれ。大した迫力だ。あれだけの獣がこんな辺境にいるとは。本当に興味深い……」
すると男の元に帝国の研究員の作業服を着たものが数名近寄ってきた。
「どうでした? 王は」
男は苦笑いを浮かべる。
「まだ待ってはくれそうだ。銀の爪のせいで少しイラついていたけどね」
研究員は納得した表情になる。
「無理もありませんよ。私たちも彼女が動きを変えたときは唖然としました」
男はうなずく。
「そうだね……彼女の能力も興味深い。まあそんなことより次の準備はできたのかい?」
「ええ、なんとか……」
そういうと研究員は資料を男に手渡す。見ながら男は尋ねる。
「今回は何を変えたのかな?」
「研究員の記憶以外にも、何人か記憶を見ることができたのでその情報を使って中身を更新しました」
男は資料から目を上げる。
「誰のを見たのかな?」
「反獣王派のランザとペトロという男達の記憶です」
男はそれを聞いて満足げな表情を浮かべる。
「なるほど……いい選択な気がする。やっぱり反獣王派が最も有力な候補なんだよなぁ……ちなみに町長のは見れなかったの?」
研究員は残念そうにうなずく。
「すみません。町民の屋敷は入りやすいんですが、町長は屋敷を探しても見つからずで……」
男は首を傾げた。
「どこにいるのか……でも彼もここにいるという事は町からは出てないはずだ。なるべく早く探してくれ」
「わかりました」
男から資料を返してもらうと研究員は頭を下げてその場を去った。




