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超獣戯画Ⅱ  作者: 纏笛


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第23話 手記 五日目-四回目②

「王に渡す貢物は一度役場に入れた後、今度は森の中にある小屋に運ぶんです。

 王はその貢物と引き換えに我々と襲わないことを他の獣達に指示します」

 そう説明を受けた時、私は貢物の中身について質問した。

「貢物って例えばどんなものを渡すんですか? 食べ物とか?」

「そうですね……基本的には牧場で採れた肉とかの食料が多いですね。少し変わっているところだとリンカの実がありますが」

 私は聞き返した。

「リンカの実?」

「リンカの実はこの山でしか採れない希少作物です。動物園達には好まれる味で貢物として喜ばれるのですが……いかんせん元の数が少ないんです」

 言いながら、マリウスの顔が一瞬歪んだように見えた。

「なぜそんなものを貢物に?」

「リンカの実は実は、流行病のスディラに効くと言われているんです」

 スディラとはたしか冬場に流行る病で、一度かかった人間は二ヵ月かけて痩せ細り、そのまま体力を奪われて死んでしまう病だった。一度かかるとそれに対抗できるような薬は昔はなかったが、ここ五年の間に一つの特効薬ができた。

 薬の名はアルト=バルム=スディラという。この地方の言語で『スディラを無に返す』という意味がある。長いので頭文字を取りアバスと呼ばれていた。アバスは市場にもあまり出回っておらず、希少価値の高い薬として年々価格は高騰しているはずだった。

「ではアバスの原材料は……」

 マリウスはうなずく。

「ええ、リンカの実です。リンカの実そのものものは青いのですが、あれを煎じて煮ると赤くなります。それを他の何種類かの植物と混ぜて作ったのがアバスです」

 私はアバスの内容は一つの植物からできた物だと思っていたので驚いた。

「それは誰が見つけたのです?」

「元々は動物達の中でスディラにかかってから治った獣を見つけたのが始まりだったそうです。そこから先代の町長と帝国の医師が共同で実験を主導して今の形になったとか」

 マリウスはどこか誇らしげで、そこには先ほどの表情の歪みは消えていた。

 帝国の医師は有能だという話は良く噂になっているし、そしてこの街の町長は言わずもがな優秀な人間が選ばれている……であれば複雑な薬の調合が出来ても不思議ではない。

 スディラは帝国にとってもかなりの脅威、それを払拭させるためになら帝国はなんでもするだろう。

 そこで一つ疑問が湧いた。

「なぜその希少な実を貢物に?」

「リンカの身が希少なのは、そもそも実が生える場所がかなり限定されていたからでした。

 さらに動物達にもあまり取りにくい崖の途中であったり、標高が高い位置がおおかったんです。ですが、長年の研究で、リンカの実は別に標高が高い場所でなくても、ある程度の条件を満たせば、栽培が可能な事がわかったのです」

 私は尋ねる。

「特定の条件?」

 マリウスはうなずく。

「そもそもリンカの実は動物に食べられている頻度が少なかったのですが先代の町長が試しに何匹かの動物達に食べさせたそうなのです。

 そうしたところ、森の標高の低い場所でも、動物にきちんと消化された状態の実と肥料、そして日光が常に当たり続ける場所であれば、リンカの実は立派に育つ事がわかったんです」

 私は話の流れが見えたような気がした。そもそも森の地面は葉が邪魔して日光が完全に当たる場所は少ない。だからリンカの実はおそらく育ちづらかったのだ。

「という事は、あえて動物に増やしてもらうためにリンカの実を動物に与えているのですね」

 マリウスはうなずく。

「その通りです。貢物という体をとっていますが、町長の目的はリンカの実の栽培です。

 そのために森の木の葉を一部伐採をしたりしているんですよ?」

 ここでようやく、この森の木に葉や枝が不自然に少ない理由がわかった気がした。

「まあ貢物のために街に回ってくるリンカの実は少なくなってしまいますけどね……」

 マリウスの言葉にはどこか悲しい響きがあった。おそらくこれが先ほど表情が一瞬ゆがんだ理由なのではと私は勘ぐる。

 小屋に着くと、扉には鍵がかかっていた。しかし扉は完全に閉められているわけではなく、中を少し覗くことができた。中の全ては見れなかったが、食べ物と五十個ほどのリンカの実が見てとれる。

 その時後ろで物音がした。振り返ると、馬が一匹こちらを見ている。馬は私が小屋に入ろうととしてると思ったのか憤ったように一鳴きした。すると動物達が何匹か小屋の周りを取り囲むように現れ始める。

 ファンネルの衝撃波の能力に似ているかと思ったが、集まってきた動物達は正気のままだった。そして動物達の後ろから一匹の狼がゆっくりと現れる。


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