第15話 手記5日目③ 反獣王派
するとラフサルさんが私に目で合図を送る。
なんとなく私は彼らが反獣派の人間であることを察した。
彼らはマリウス達聖獣隊を見つけると絡み始めた。
「おうおう、誰かと思えば聖獣隊の連中じゃねえか、いいのか?てめえら酒場なんかにいて」
レルベットさんがマリウスを抑えて冷静に反応した。
「今日は卒業祝いだ。俺達は酒を飲みに来たわけじゃなくて個々の旨い飯を食いに来ただけさ
何も問題ないだろう?クラム」
クラムと言われた男は不快な顔をしていた。
「全くいい気なもんだ。獣なんぞに媚びへつらいやがって、てめえらがそんな風だから山の獣どもが調子に乗ってるってえのによう」
マリウスはなるべく無視をしようとしていたが、彼の拳に力が入るのが私のところからでもみてとれた。
「まあだが、1番のボンクラは町長だ。あれだけ獣の肩を持ってる癖にファンネルを殺すのに大層な獣狩りなんて雇いやがって、奴を狩るのに俺たちの税金が使われてると思うとゾッとするぜ」
ここでさすがに町長の悪口には我慢できなかったのかマリウスが反論した。
「じゃあお前たちは何をしたって言うんだ」
クラムは食いついたとばかりに煽っていく。
「おーおーなんだ聖獣隊の鼻垂れ小僧が、なんか言ったか?」
マリウスは顔を真っ赤にしていた。
「お前達はこの街のために何をしたって言うんだ。あの人がどれだけこの街の事を考えて…、どれだけ悩んで獣狩りを雇ったか…何も知らないで批判するだけするようなお前みたいな奴をボンクラって言うんじゃないのか?」
クラムは笑っていた。
「おーこわいねぇ、これだから聖獣隊って奴は…獣狩りなんて雇わないで、あんな獣共皆殺しにしちまえばいいんだ…。そしたら、もっと薬や食料だって手に入りやすくなる。それに今回みたいな害獣が出る事だってねえ一石二鳥どころじゃないんだぜ?」
マリウスが言い返そうとすると、レルベットがまたマリウスを制して話し始めた。
「ならクラム、なぜそうしない?」
クラムは言いよどむ。レルベットはその様子を見ながら続けた。
「お前たちが本当に獣が街に必要ないと思うのならば今すぐ狩り尽くしに行けばいい。町長はたしかに獣を無差別に狩る事を禁じてはいるが、実際に狩りに行く人間を止める者はこの街には誰もいないだろう。そんなに煽るなら先陣を切って見せろ」
クラムは言い返せない。レルベットは苦笑する。
「お前たちもよくわかっているはずだ。薬屋が他所に出荷している薬も、生活の糧となる食糧も全ては山の生態系に依存している。狩り尽くしなんてしたら、俺たちがみんな死ぬだけだ。だからこそ俺たちは獣と共存する道を模索し続けて今がある。今の体制を壊したいなら壊せばいい…。ただその責任をお前は取れるんだろうな」
クラムは結局最後まで言い返せなかった。
ラフサルさんは勝負あったなという表情を私に向けてきた。
おそらくクラムたち反獣王派も本音では獣達がいないと自分達の生活が立ちいかなくなることはわかっているように見えた。
だが、それでも現状に募る不満のぶつけどころが必要なのだろうと私はなんとなく思った。
ラフサルさんはクラムが店を去った後、彼の生い立ちについて教えてくれた。
「奴の親父はな、昔、山で食料を集めていた時に獣に襲われて命を落としたんだ。
いくら獣の王って言ったって今回のファンネルみたいにその支配は完全じゃない…何匹か従わずに最初から人間を敵視して襲ってくる獣がいるんだ。だが、聖獣隊がいる事で、人間理由なく襲った獣は王が始末してくれるように取り計らってくれる。クラムの親父を襲った獣もそれで殺されたが、クラム自身は親父さんの死から立ち直れなかったんだろうなあ。気が付いたら反獣王派の一員になっていて今ではその筆頭だ」
ラフサルさんの話は分かりやすかった。
政治の仕組みは、自分達の身の回りに起きて初めてその仕組みの妥当性を判断するようになる。
この街の森との関係は本来特殊なものだが、普通に生活しているとそれはおそらく意識できないのだろう。
それが身の回りに起きてみて初めて、それに疑問を持つ人間が現れる事は私にはむしろ自然に感じられた。
クラムは去り際にマリウス達聖獣隊に向かって、
「自分達の大切な人間が今の甘い体制のせいで失われても、俺は知らんぞ」
と捨て台詞を残していたが、それも彼の生い立ちからすると至極当たり前の感覚に聞こえた。
その日はそこで切り上げて、私は宿舎に戻り、記録を書き上げて寝ることにした。




