第12話 町長の過去 ~二人の別れ~
その日デルアートは家で一人ゆっくりしていた。
デルアートには父親も母親もいない。
彼がかなり幼い頃に二人とも流行り病にかかって亡くなっていた。
それでも彼が学校に行けたり不自由なく暮らせていたのは一つ前の町長が作った子供への教育援助の方策があったからだった。
今では彼は成長し、学校時代から望んでいた街の記録管理の仕事ができるまでになった。
そんな彼の家の部屋をノックする音があった。
「はい、どなたでしょうか」
デルアートが尋ねるとドアの向こうで声がした。
「リラよ。開けてくれる?」
デルアートは驚いて急いでドアを開けると、そこには少し寂しげな表情を浮かべるリラの顔があった。
「どうしたの?ここ二週間くらい仕事場に顔を出さないってみんなが心配していたけど…」
リラはうなずく。
「うん…実はね、結婚が決まったの」
デルアートは驚いた。
「誰と?」
リラは悲しそうに話す。
「ツェヘルさん…。お母さんが決めたの。ツェヘルさんは牧場主だからお金もあるし…幸せにしてくれるだろうって」
デルアートは彼女が理由を濁している訳を知っていた。
リラの父親は元々山で取れる実を材料の一部に使って薬を作る薬屋だったが、山で獣に襲われてその傷が悪化して寝たきりになってしまい、それが元で薬を作れなくなってしまったのだ。
運の悪いことに、ちょうど調剤用の他の材料を高値で仕入れてしまった後だったので、薬を作れなくなったリラの一家には大きな借金だけが残った。
彼女の母はそれを牧場主で資産があるツェヘルに娘を嫁がせることで、何とか解消させようとしていたのである。
デルアートは少し動揺を隠せなかった。
「そうか…リラはそれで良いの?」
リラの目からは涙が出てきていた。
「嫌だ…。私はデルくんのお嫁さんになる予定だったんだもん…」
デルアートとリラは学校を卒業してからもずっと仲が良く、周りも皆結婚を信じて疑わなかった。
だがデルアートがリラに求婚する直前に彼女の父親が襲われる事件が起きてしまい、とてもではないが求婚などできる状況ではなくなってしまったのだ。
デルアートは言う。
「逃げないか?二人で…。俺は君がいてくれれば…」
リラは首を振る。そして意を決したように喋り出した。
「私はもう婚約の約束をしたの。自分のしたことには責任を持たなくちゃ…。それに何もできない父と母を置いていけないわ…。私は今日はお別れを言いにきたの」
辿々しく言葉を紡ぎながらリラの目からは涙が溢れ出ていた。
「リラ…」
「一緒に逃げようって言ってくれた事私忘れない。それだけを大切にして生きていくわ…」
そういうと、リラは去っていこうとした。
「リラ!」
呼び止めるデルアートの目には涙が溢れていた。
そして呼び止められたリラも全く同じだった。
「あなたは絶対に良い町長になる。だからあなたは街を守って。私は家族を守る」
そう言ってリラは去っていった。
デルアートには何もできなかった。
リラは一度決めた事は責任を持ってきちんとやり通す芯がある女性だった。
デルアートはそんなリラに惹かれたからこそ、彼女の決心は固い事、そして自分にはもう何もできない事を思い知らされた。




