第11話 町長の過去 ~街の記録書庫~
リラと無邪気に話していたところから月日は流れ、デルアートは18歳の青年になっていて、いつものように街の記録庫にいて本を読み漁っていた。
彼のお気に入りは街の記録だった。
歴代町長の残した業績はすさまじく、今自分が、何気なく享受してるこの好きなだけ記録が読める幸せも、卒業した学校も、全てが歴代町長の血と汗とたゆまぬ努力の結晶である事がわかる。
だがそれ以上に彼が引き込まれていたのは獣の王と町長の歴史だった。
獣の王と町長が、いかにして人間側と動物側双方の均衡を保つことに従事していたかが記録にきちんと残されていて、彼にとってここまで面白い読み物はなかった。
それは彼が普段読む好んで読む小説とも違い、きちんと血の通った人間と動物達の歴史に他ならない。
だからこそ、読みごたえも、そこから受ける影響も大きいものがあった。
そうやっていつものように本に没頭しているデルアートのもとに来訪者があった。
「ようデル!またこんな本ばっかのところにいやがってよ」
デルアートが顔を上げるとそこには学校からの幼なじみであるリフルがいた。
リフルは風体こそお調子者で、口調も軽口な事から誤解されやすいが、実は繊細で友達思いで、そんな性格だからか無口なデルアートとは不思議と仲が良かった。
「なんだリフルか。何の用?」
デルアートも口調こそ嫌そうではあったがを顔は綻んでいた。
「いや…実は今日は大事な用事の話できたんだ」
いつも軽い調子のリフルの声のトーンが急に真剣になったので、デルアートは本を脇に置いた。
「実はさ、お前にこれを渡さなくちゃいけない」
リフルが見せたのは一枚の封筒だった。デルアートはそれを受け取る。
「これは…」
デルアートが中を見ると、そこには小さい紋章があった。
「これって町長の…」
リフルはうなずく。
「今日は次代町長の発表の日だった。デル…お前が次の町長だ」
デルアートは驚きを隠せない。
「そんな…イルム町長がこれを?どういうことだ…。俺はあの人とそこまで面識もないのに…」
リフルは頷く。
「それが俺たちの街の長だ。それにお前は知らないだろうがあの人はちゃんとお前をよく知っている。そば付きで仕事してた俺が言うんだから間違いない」
デルアートはリフルが少し複雑そうな表情をしているのに気づいた。
その理由も彼には何となく察しが付く。
リフルは元々、町長に憧れていたのだ。
ヒメルの街にとっての町長は他の地区と完全に違う。
他の街の町長が能力と関係なく家柄などで決まることが多いのに対して、ヒメルでは完全なる能力主義で選ばれる。
すなわち、町長に選ばれるということは若い世代でもっとも有能な人間であるということなのだ。
リフルは子供の頃から今の町長に憧れ、いつか自分も町長になりたいと、わざわざ今の町長のそば付きを選んで一生懸命に仕事に打ち込んでいた。
そんな経緯を知っているからか、デルアートは素直には喜べなかった。
「リフル…」
リフルは笑う。
「何もいうなって、俺も町長と同じ意見だ。学校にいた時もみんなは普段お前を『本ばかり読んでる!』って馬鹿にするくせに、何か困ったことが起こると真っ先にお前に頼ってた…。解決できる能力があるからだ。ちょっと悔しいけどな…。でもこれからはお前を存分にサポートするさ
」
リフルはいつものようにニカっと笑った。
「わかった…ありがとう」
そう言ってデルアートはその紋章を受け取った。
去り際リフルが思い出したように言う。
「そういや聞いたか?リラの奴結婚しちまうって」
デルアートはうなずく。
「うん、牧場主のツェヘルさんだろ?聞いたよ」
リフルはデルアートの顔を見て少し意外そうな顔をする。
「残念じゃないのか?お前ら仲よかったろ?」
デルアートは笑う。
「彼女が決めた事だ。俺が口出すことじゃないよ」
リフルは『そうか…』と言ったが、どこか納得できないような表情をしてその場を後にした。
デルアートはリフルが去った後で一昨日リラが訪ねてきた時のことを思い出していた。




