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YOU’RE THE HEROINE

 日曜日の午後。


 学園はしんと静まり返っていた。

 グラウンドに生徒の声はなく、部活の気配もなかった。

 その中で、家庭科室の一室だけが、まるで時間から切り離されたように明かりを灯していた。


「……頑張るぞっと」


 俺はドアの前で、一度深呼吸をした。

 薄く開いたドアの向こうからは、ペンを滑らす音が聞こえた。


 いる。彼女は、もう作業に取り掛かっている。

 そっと足を踏み入れた。


「綾乃さん、こんにちは」


 挨拶をすると、彼女を小さく揺らして、振り返った。


「佐倉君。こんにちは」


 彼女はすこし、安心したように微笑みそうになって、それをやめた。

 机の上には白と藍の生地とパターン紙が広げられている。


 設定資料がなくともできるところから取り掛かっていたのだろう。

 俺は持参した紙袋をそっと置くと、彼女の手がそちらへ伸びる。


「これが……設定資料集……」


 彼女は目を輝かせてページを開く。


 でも、その指はどこか迷い、震えていた。


「やっぱりすごく細かいですね。……設定資料集があってよかった」


 綾乃さんはうっとりとした表情で資料に見入っていたが、ふと表情を曇らせた。


「でも、着るのは、やっぱり……」


 やはり、か。

 衣装が完成しても、彼女自身がそれを着る自分を認められないでいる。


「ヒロインの衣装を、私が着ても……似合わないと思うんです」


 そういって、彼女は視線を落とした。


「綾乃さん!俺、君に見てほしいことがあって、良かったら見てくれないか」

「?はい」


 俺はずいぶん前から表示されていたウィンドウを操作した。


 選択肢: A:静観する

 B:驚かす

 ➡C:チアリーディングをして応援する


 選択神(せんたくしん)よ!我に力を!

 ポチッと押した瞬間だった。


 空間が、世界が変わった。


 天井が吹き飛び、家庭科室がアメリカンスタジアムに変貌した。

 グラウンドには白線。四方を囲む客席。空から舞い降りる紙吹雪とスポットライ

 ト。



 そして、前方に整列するのは……。


「なっ……なんだこれ……」

「レディ、セット!」


 並ぶのは、女性だけで構成された超本格チアリーディング部隊だった。

 異常なほど完璧なプロポーション、統一されたセーラーチアユニフォーム。

 全員がAIの分身体らしく、アリスそっくりな顔をしている。


「紹介します!アリスチア第14小隊です!」

「『綾乃ほのか応援キャンペーン』のサポートのため、臨時配備されました!」


 AIのくせにキャンペーンてなんだよ!


「さぁ、いきましょう!」

「Give me an A!」

「Aーー!!」

「Give me an Y!」

「Yーー!!」

「Give me an A・N・O!!」

「A・N・Oーー!!」

「What’s her name!?」

「AYANOーーーー!!」


 大地が揺れた。家庭科室が震えた。

 そして俺も、例によってチア衣装(男用)に変身していた。


 ポンポンを両手に持ち、照明の中心に立たされる。

 俺は、叫ぶしかなかった。


「よっしゃああああああ!!やってやるよ!!!」

「綾乃さん!君がまだ自信を持てないなら、俺たちが代わりに叫ぶ!」

「君がヒロインじゃないなんて誰が決めた!? 俺は!違うと思ってる!!」

「君の一針一針は、願いだ!祈りだ!ヒロインへの道だあああああ!!」

「なあ、みんなーーーっ!!」

「「「YES, CAPTAIN!!」」」

「Let’s goooooooo!!!!!!」


 ドラムが鳴り響き、チアガールたちがバク転と同時にフォーメーションを展開する。

 空高く放り投げられたアリスチア14号が三回転してキャッチされる。


 俺はその横で宙返り風のズッコケアクションをかまして、ど真ん中に着地。


「AYANO! YOU’RE THE HEROINE!」

「YES!YES!YES!!」


 スタンツ、トス、ウェーブ、完璧な統一動作。

 最後は全員がポンポンを高く掲げ、


「BE PROUD, BE STRONG, BE THE HEROINE!!」

「この衣装は、君を彩る勇気の証だ!!」


「ヒロインは、選ばれるんじゃない――自分でなるんだ!!」

「Let’s go, AYANO!!!!!!!!」


 バッとライトがすべて照らされ、真ん中に彼女が照らされた。


「………………」


 綾乃は、目を見開いて、固まっていた。


 空気が止まる。


 照明が徐々に落ちて、家庭科室の元の姿に戻る。


 そこに残っているのは、俺、ポンポン、紙吹雪……そして彼女。


 綾乃は……ふるふると肩を震わせて。


「ぷっ……ふふっ……く、くくく……ふはっ、あははははっ!」


 笑った。

 声をあげて、心から。


「な、なにそれ……ほんとに……バカみたい……っ」


 綾乃は、手で口を押さえた。

 笑いながらも、目の端に、光るものが浮かんでいた。


「いやほんとにごめん……」

「……でも、ちょっと元気、出ました」


 そう言って、綾乃はそっと衣装に手を伸ばした。


「……私、この衣装、自分のために作ったのかもしれない……」

「うん。いいと思う。自分が着たいから、でいいんだよ」


 彼女の目が揺れる。

 照れて、迷って、でも、笑っていた。


「佐倉君。私、本気で作ってみたい」

「……それとよかったら、紙袋に入っているラノベ。俺のお気に入りの一つで、なんでもない子が必死に魔法少女になる物語なんだ。よかったら読んでみて」

「……うん」


 作業に戻るようなので邪魔にならないように撤退した。


 〈好感度上昇。照れ+信頼レイヤー進行確認〉

 〈第一段階「自己肯定モード」突入です。チア戦術、大成功でしたね〉


「……俺の黒歴史としてはな」

「録画データありますよ?」

「やめろおおおおおお!!」


「あのーちょっといいですか?」

「え?」


 振り返るとアリスほどではないにしろちんまりとした女の子がいた。


「あの、綾乃ほのかさんに近づかないでほしいんです」


 いや、だれ!?


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