05
「頼むから、こんな戦場で始めないでくれよ」
呆れと怒りの籠もった声がかかり、見下ろすヴィリと鼻先が触れそうになっていた首を捻る。
「お前……何で? 新しいパーティもこのスタンピードに参加しているんじゃないのか?」
そこには見なれ、必死に引き留めようとした茶髪が、ヨークが立っていた。
「まさか……! 全滅したのか……」
このアンデッドの物量に押し潰され、のまれてしまってもおかしくない。
「縁起でも無いこと言うな。向こうが片付いたから来たんだよ」
ヤツはそう話すと飛んできた数少ない飛翔系のアンデッドを、バスタードソード一振りで倒す。
アンデッドは鳥より気持ち大きいくらいで、ほぼ半分に切断されて地面を転がった。
「なんだ……いつもギリギリな冒険しかしてなかったから、多少のピンチでは物足りなくてな」
ヤツはミノタウロスの方を向く。
そんな背中を見つめる。
「つまり、強いヤツと戦いたかったと」
そう口にして痛みも傷も癒えて立ち上がると、ヤツから変な目で見られた。
肩を回し、その他の身体の動きを確かめながら、問い返す。
「何だよ? どっちが先に倒すか、俺たちからあのミノタウロスの手柄を奪いに来たんだろ?」
俺たちが叩いて、あと少しの美味しいところを奪いに来たのだろう。しかし。
「残念だったな。ミノタウロスは手首を切り落としたのにあの様子だ。回復、ではないな。他のアンデッドを取り込んで傷を修復してるんだ」
わざと軽い口調で説明して肩をすくめ、ロングソードの柄を握り込む。
「あれはアレナに吹っ飛ばしてもらうーーって、どうした?」
これまでの付き合いで見たことない種類の表情が、ヤツの顔に浮かんでいて一方的に喋っていた言葉を止めた。
「あのな! 今パーティに戻ってやるって言ったんだよ」
言い終えたヤツは、こちらの反応も確認せず駆け出した。
「ヴィリ、ありがと! これ以上近づくなよ!」
戦闘に近づきすぎて狙われないように言葉を投げ、俺は地面を蹴ってヤツを追った。
「周りのアンデッドを取り込まないようにサポートするから、テイワズと一緒にミノタウロスを叩いて!」
先行するヤツはそう叫ぶと俺と、戦闘中のテイワズに強化魔法をかけた。
「だが、アレナに吹き飛ばしてもらうんだぞ!」
「は? ロルはいつからそんな弱気になったんだ? 記憶の中のロルは確信が無くても自信に満ちていたけど」
「そうか? 気のせいだろ。ヨークはずいぶんと言うようになった気がするが?」
「気のせいだろ」
接近したミノタウロスの顔目がけ、スクロールから攻撃魔法を放つ。
一瞬の閃光の後、電撃が空気中を奔った。
しかし、その攻撃はより歪に復活させた手の平が掲げられ、顔の手前で防がれてしまう。
「テイワズ足を! ロルは腕!」
ヤツの声が飛び、テイワズは足元に潜り込み腕を交差させて腰だめにし、俺はスキルで加速して掲げられた腕を狙う。
強化魔法をかけられた俺たちの斬撃は、逆関節の下と肘より先を切断する。
ミノタウロスは鳴き声を上げて斜め前にバランスを崩し、無事な方の手を出して、地面を崩しながら踏み止まった。
すると体から補給のための肉が突出し、群れなすアンデッドへ向かって伸びる。
「させない!」
ヤツはそう声を上げ、補充しようとする肉をバスタードソードで打ち払った。
幾つも伸びるので、フィの使い魔二匹も触手状に蠢く肉を踏みつけ、噛みつき引き千切る。
そして俺はミノタウロスが地面についた腕にロングソードで斬りかかり、続けてテイワズがバトルアックスで攻撃を重ねた。
「まだ雑魚がいるんだ、早く沈めぇ!」
テイワズが吼え、ロングソードで完全に断ち切れなかった傷へ、バトルアックスを叩きつけた。
その一撃は残っていた腕も肘で切り離す。
グォオオーーーーーーーーーーゥッ!
支えを失ったミノタウロスは、地面に顎をつける形で、足元を揺らして前のめりに倒れた。
これで首を狙うことができ、アレナの手を借りなくても討伐可能な状況になる。
「ロル!」
ヤツの声に反応すると、瓶が投げられて飛んできた。
当然受け取り意図を察する。
「聖水だ。今仕留めない方が厄介そうだからな」
補給の触手を捌きながら、ヨークが使えと言った。
「了解だ!」
聖水はアンデッドに効くので、ロングソードを濡らして切れば良い。
フタに指をかけて捻る。
「荒ぶるは嵐のようにーー」
するといきなり聞き慣れた声が耳に入り、その場に居た全員が一瞬身を震わす。
「あのバカ!」
毒づいたテイワズがミノタウロスから距離を取るため走り出し、ヤツは同様に駆け出して魔法で盾を出して万が一に備え、俺はリジルでその場から緊急離脱を試みた。
「目の前の景色を蹂躙し一変させるーー」
追って使い魔二匹も離れたタイミングでーー
「バースト・ボルテックス!!」
ある程度離れ、足を止めて振り返る。
攻撃魔法に呑み込まれたアンデッドの姿が、幾つもの魔力の渦に引っ張られて千切れたり、歯車に巻き込まれた物のように押し潰されていく。
それはミノタウロスも例外でなく、断末魔を上げられたのは一音のみで、魔力の暴力に呑み込まれた。
「アンデッドは今回限りにして欲しいな」
視線をずらすと自分よりも近い場所で、ヨークが盾を構えてテイワズの前に立ち、流れ弾のように飛んでくる物から防いでいた。
攻撃魔法が消失した後には、地面に腐った肉塊がまき散らされて残る。
するとヴィリ、アレナ、フィとこちらにやって来る。
「アレナ、いきなり死ぬかと思ったぞ」
「苦戦しているみたいだから助けてあげたの。いつものことじゃないか」
仲間の苦情に全く悪びれもせず、杖の先をミノタウロスだった物に向ける。
そしてヤツとテイワズも戻って来た。
「合図くらいくれないか? 他の冒険者も居るんだ。巻き込みでもしたらどうする?」
早速苦情を入れたヤツに、アレナは眉をひそめる。
「何でここに? もしかして新しいパーティ全滅しちゃった?」
「してない。それロルとさっきテイワズにも言われた」
聞かれ疲れたのか、少々イラ立たしさを見せて否定したヨーク。
「……」
フィは言うことは無いのか何も口にせず、ヤツが居ることを受け入れていた。
「戻って来たのかしら? パーティに」
ヴェールの奥から淡々とした口調が問いかける。
「ヴィリ、とにかくこの場はスタンピードに集中しよう。ヨークが戻って来るのは、俺が望んだことでもある」
「ロルがそう言うなら、今のところ私は反対しないわ」
反対してるとも感じられたので、俺が介入して答えたけれど、頷いたヴィリは以外にもすんなり認めた。
「一旦下がって立て直しを考えーー」
言いかけると後方から衝撃と帯状に火が上がった。
そして干したベッドのシーツが、強風に呷られたかのような音が継続的に聞こえた。
音のした方を振り向くと、アンデッドの群の頭上数メートルに、翼を広げた新たなアンデッドモンスターの姿が目に飛び込んでくる。
「ワイバーンか」
「アンタは視力も悪いの? 背中見なさいよ」
「竜騎士だな」
ワイバーンもドラゴンの亜種と見る地域もあるので、ヨークの呟きも間違っていない。
その一撃が後方に被害を与えたのは間違いなかった。
もちろんワイバーンの上に乗ってる竜騎士もアンデッドで間違いないだろう。
「……ワイバーン、欲しい」
ボソッとフィが不穏なことを口にした。
意思が無いに等しいアンデッド状態で、騎士が跨がってる必要性は見出せないが、無視することも出来ない。
「明らかに俺らがミノタウロスを倒したから来たんだよな」
そう考えていたことを口にすると、ヤツが考える素振りを見せた。
「それじゃ、さっきと同じでアタシがバースト・ボルテックスを使うから、野郎共はアレの相手をお願いね。とりあえず、ヴィリとエリアサンクチュアリの中で待機してるから」
言うが早くアレナが唯一使える神聖魔法を発動させる。
足下から淡い光がアレナを中心として発生。
身体が僅かに軽くなる。
するとフィが素早くエリアサンクチュアリの外に移動し、二人を守るように使い魔と一緒にアンデッドに備えた。
「フィ、治癒とか大丈夫?」
「……ん、余り襲われてないから」
心配したヴィリがサンクチュアリの中から聞くと、外に居るフィは小さく頷いた。
続けてヨークが彼女の隣に歩み寄る。
「フィ、アンデッドを創り出す魔法とかあったりするか?」
決して大きくない声で話す。
「……アンデッドのソーサラーが使える《ネクロウェイク》がある。新しい死体を時間をかけずにアンデッド化することが可能」
「やはりそうなのか? 実はミノタウロスの周りに居たアンデッドは、まるで補強の材料になるために居た印象を受けてな。ここに来るまでも、他にもアンデッドはバラバラに動きそうなものなのに、兵隊かのように密集した動きを見せて、気をつけないと囲まれてしまいそうになる光景を何度か目にしたんだ。そいつが統制を取ることは?」
長々と質問の理由を話し、アイツはフィの答えを待った。
「……可能性としては否定出来ない。各個思考することが出来ないから、アンデッドたちが同じ動きや規則的な行動をしてたら操られてる可能性はある。それが人間であれば、もっと兵隊っぽい動きが見えると思うから、ソーサラーの存在を疑っていいかも」
「ありがとう」
相談を終えたようで、ヤツはお礼を伝えた。
するとフィが小さな声で問う。
「……ヨーク、もしかしてわたしがーー」
不安げに視線を上げる彼女の問いを遮り、ヨークは重ねてある質問をする。
「フィとザクロたちが適任だと思うんだが、そのソーサラーをアンデッドの中から見つけられるか?」
「……見分けられるはず」
魔法を行使してるのがそうで、魔力を持っていても、普通のアンデッドは意思をもって使わないでしょ? と言われてみたらといった説明をされた。
「聞いてたか? ロル。フィはソーサラーの捜索、討伐に行くけど良いか?」
「まあ、冒険者の死体をアンデッドにされて増やされるのも困るし、さっさと片付けて来てくれ」
「……分かった」
ヤツの提案に賛成すると、フィは頷き使い魔を集めて指示を出す。
「頼んだぞ!」
ヨークは一人と四匹の背中に言葉をかけ、やはりこちらの出方を窺っているように思えるアンデッドの竜騎士を視界に捉える。
「行きますか」
「ヨークはヴィリの護衛と援護。残りの三人で竜騎士を、アレナで撃ち落として仕留める」
いつもながらシンプルであり、普通に魔法使いのアレナを前衛で戦わせる作戦。
さっきヴィリと待機すると口にしたアレナは嫌な表情を浮かべたが、遠距離攻撃が自分しかないと理解して歩み出る。
切り札的に使うバースト・ボルテックスは、今の距離では届かないので、ある程度アレナが近づく必要はあるが問題ないだろう。
「ロルちょっと待て!」
ヤツの静止する声が聞こえたが、どうにかしてくれるだろうという信頼感で話を聞かずに突っ込む。
「速さこそ全て。どんな世界にも風が吹くように戦場を駆け抜ける! リジル!」
これまでの経緯があったので、ヨークが居れば大丈夫という心理が働く。
事実、俺に強化魔法がかけられ、心強さを感じる。
急速に近づく俺にワイバーンが火を吐くが、より速く駆けてその下を潜り抜けてやり過ごす。
頭上をアレナの電撃魔法が奔り、躱すため上昇したワイバーンに擦った。
一時的に羽ばたきが乱れ、不安定な降下を見せた。
次いで投擲されたバトルアックスが、回転しながらワイバーン目がけて飛んでいく。
バランスを崩したところへのテイワズの攻撃だったが、背に乗った竜騎士の長柄の先に斧と槍が合わさったような刃の付くハルバートに弾かれてしまう。
そして近くまで走り込んだ俺は地面を蹴り、最大加速のまま高度を下げた敵へ跳躍する。
ワイバーンの翼を狙って、ロングソードを切り上げる。
「くっ!?」
斬撃はテイワズのバトルアックスに続き、ハルバートの先で弾くように逸らされてしまう。
ワイバーンも電撃の影響を終え、腐って尚獰猛に口を広げて襲いかかってくる。
「備えあれば!」
スクロールで爆発を起こし、爆風により噛みつきを防ぎながら、自分は勢いに乗って距離を取る。
するとアレナの魔法の多弾攻撃がワイバーンに直撃した。
けれど撃ち落とすまでは至らず、回避なのか更に上昇を見せる。
地面に着地して首を巡らすと、テイワズの手にはヤツの魔法の盾。
アレナの側にそのヨークの姿があった。
「ロル! テイワズ! もう一度、同時に頼む!」
「ヴィリは!」
「連れてきた!」
確かに彼女の白い姿は良く見えた。
ヤツはアレナを守るように立ち、魔法の盾をいつでも構えられるようにし、スクロールを取り出す。
「テイワズ行くぞ!」
「ああ、竜騎士気取りのアンデッドなんか叩き下ろしてやる!」
声をかけて二人走り出す。
すると背後から朗々とした声がした。
「純粋な魔力の渦、広がり引き寄せ呑み込めーー」
進行方向上空に魔法の予兆が現れる。
そしてワイバーンを巻き込む位置に攻撃魔法が発動する。
「バースト・ボルテックス!!」
空中に魔力の渦が無数に荒れ狂って、直下のアンデッドを引き寄せ巻き込み、渦同士の間で引き千切り、他の部位同士がぶつかって肉塊に帰っていく。
けれどワイバーンは皮膚の膜の翼を羽ばたかせてより上昇し、アレナの最大の一撃を回避する。
しかし、ヨークのスクロール『アースニードル』で、地面から突出する矢じり状の勢いに乗り、テイワズと飛び上がっていた。
「テイワズ行くぞ!」
「応!」
ワイバーンよりも高く舞い上がった位置から、お互に獲物を手に二人で仕掛ける。
それぞれ羽ばたく翼を狙い、ロングソードとバトルアックスを繰り出す。
「やあぁあぁぁぁー!」
「はぁあぁぁぁーっ!」
ほぼ同時に攻撃をし、ロングソードは竜騎士が振るったハルバートに受け止められてしまう。
「くっ!?」
押し込もうにも空中では踏ん張れず、スクロールを取り出すため手を伸ばす。
だが察した竜騎士によってハルバートを振り抜かれて弾き飛ばされ、何も無い空中に投げ出される。
それはテイワズも同様で、ワイバーンの尻尾に掴まっていたが振りほどかれ、一振りした首から炎を吐かれた。
「くっそおぉおぉぉぉーっ!」
ヤツから預けられた盾を身体の前にかざし、落下しながら炎を凌いでいた。
すると命中はしないもののスクロールの火球が割って入り、躱すために距離を取ったワイバーンに、アレナの多弾の魔法が浴びせられた。
幾ら離れていても、命中率を数で補う彼女らしい攻撃だ。
強力な魔法を放った後なのにそんなに撃てるほどの魔力があるのか、疑問に思ったが、側に立つヴィリと足元に幾つも転がる回復薬の瓶を見て納得した。
落下に対して強化魔法がかかってるので大事にはならないが、空中で狙われるのはマズかったので、おかげで助かった。
再びヨークのスクロールで地面の方から突風が吹き上げ、俺とテイワズの着地を援護してくれる。
するとワイバーンがアレナの攻撃を避けて一旦距離を取り、上昇しながら空中で縦のターンを見せ、勘づいた俺とテイワズは後衛の三人へ向けて駆け出す。
ちらりと敵を窺うと、案の定垂直に急降下し、追撃するアレナの攻撃が後を追うように外れていた。
そしてワイバーンはカーブを描いて地面スレスレに、スピードを乗せてアレナ目がけて突っ込んでいく。
やはり後衛の彼女を厄介と判断したらしい。
ヨークが電撃やスクロールで火球を撃ち出すが、大気を押しやって来ているのか、ワイバーンの手前で軌道が逸れる。
「くそっ! 追いつけない!」
スキルを使ってもワイバーンに追いつけず、逆に気を抜くとワイバーンの起こす風に流されそうになる。
魔力切れなのか魔法を使わないアレナの代わりに、ヨークが幾つもスクロールを取り出しては攻撃を繰り返していた。
みるみるうちにワイバーンは後衛の三人に迫る。
「アースニードル!」
ヤツが滑空するワイバーンに向けスクロールを使った。
使用者の立つ足元から尖った地面が無数に飛び出し、遠ざかる毎に大きく突出する。
地面スレスレを行く相手になら届く攻撃だけれど、直前に大きく地面が突き出るも、後ろ足の爪を突き立て壁を乗り越えるようにワイバーンが上ってしまう。
「……!?」
すると大きく突き出た地面の先、見なれた魔法がワイバーンを捉えた。
「バースト・ボルテックス!!!」
アレナの声が聞こえ、俺は踵に重心をかけてブレーキをかけ、テイワズは盾を構えた。
魔力の渦がワイバーンを呑み込み、その巨体をそれぞれの渦が引っ張り、捻って引き千切り、直撃を受けたアンデッドの悲鳴が上がる。
ギュィウィィィィーーーーーーーーーー!
最初は逃れようと藻掻くが、肉塊が散らばり、真下の地面を埋め尽くす。
ヨークも二人の前に出て魔法盾を構えていた。
アレナの多弾で敵と認識させ、アースニードルで視界を塞ぎ、事前に詠唱していたバースト・ボルテックスに誘い込んだのだろう。
全てが肉塊になり地面に積み上げられ、ようやく息を吐く。
まだアンデッドはいるが、これまでのようにかかりっきりになりそうな個体は見受けられない。
「ヨーク!」
バースト・ボルテックスにより生まれた死骸の中から、ハルバートが飛び出し、ヤツが奇襲を魔法盾で受け止めた。
すると肉塊が盛り上がり、ワイバーンに乗っていた竜騎士が現れた。
「まだ生きてたのかよ!」
アンデッドに対して正しくはないけれど、リジルで加速、一瞬のうちに斬りかかる。
けれど単純なロングソードの一振りでは、手首を掴まれてヤツに向けて投げ飛ばされてしまう。
「「がっ?!」」
投げられてヨークにぶつかり、二人して数メートル地面を転がり声を漏らす。
駆け出して距離を詰めた竜騎士が、走りながら投擲したハルバートを地面から拾い上げ、くるくると柄を回して斧部分を真っ直ぐ振り下ろしてきた。
「ロル!」
名前を呼ぶ声と同時に強化魔法がかけられ、負けないくらいの大きさで返事をする。
「分かってる!」
足を踏み出してロングソードで受け止め、押し返すように攻撃を弾く。
次に竜騎士の刺突が迫り、身を捻って躱すも左肩を僅かに斬られてしまう。
痛むけれど左腕で、引かれる前にハルバートの柄を握り、ボロボロの鎧の胸にロングソードを押し付け、地面を蹴って竜騎士を押し返す。
ヴィリたちから遠ざける。
すると竜騎士の拳が振り下ろされ、ハルバートから手を離して離脱。
バックステップで鉄の篭手による一撃を回避する。
「モンスターを相手するよりもやりやすいが、まだアンデッドがいるんだ。早く終わらせてもらうぞ! 速さで敵を蹂躙するーーリジル!」
地面を踏み切ると同時に、竜騎士はリーチを生かしてハルバートを横薙ぎに振り抜く。
正面から挑んで繰り出された攻撃を、足を前後に開き限界まで屈んでやり過ごし、頭上を通過した瞬間に鎧の繋ぎ目ーー肘の内側にロングソードを繰り出す。
ハルバートを握る右腕を振り下ろした斬撃が切り落とす。
竜騎士は続けて残った左腕で殴りかかってくる。
それを左手で手首よりも上を掴んで止め、ロングソードの返す刀で相手の左腕も奪う。
両腕を失った竜騎士は、距離を取るために地面を蹴って後へ跳ぶが逃がす気は無い。
追って踏み込み、喉元へロングソードを突き刺した。
貫いた後、横へ振り抜き、完全に竜騎士の首を刎ねる。
するとガシャンーーと、目の前で後ろ向きに胴体が力無く倒れた。
ロングソードを下ろし、身体を起こして一息。
まだ離れたところにはアンデッドの群がまだ控えており、気を抜かずに回復薬を飲む。
「はぁ、これで終わりだよな? こんなのオルゴールに見せられてないぞ。未来が変わったのか?」
アンデッドのミノタウロスを倒したかと思えば、ワイバーンだし、それも殺したかと思えば竜騎士だ。
あとは普通サイズの虫系のモンスターや人のアンデッドであって欲しい。
少なくとも、オルゴールで見た夢での防壁へ飛んでいくアンデッドの影は、大きさからワイバーンで間違いないだろう。
とりあえず振り返り、フィが戻ってくるまではここでアンデッドを抑えながら待とうと、左腕の傷を治すためにもヴィリのところへ戻る。
「良かった……本当に良かった。ロルが生きていてくれて」
傷口に手をかざし、キュアをかけるヴィリが、ヴェールの奥から安堵の息を漏らした。
「心配しすぎじゃ無いか? そこまでギリギリじゃなかったと思うんだが」
治癒してくれる彼女に微笑みかける。
「……それでも、好きな人を心配するの」
ヴェール越しでも、その視線に見つめられてしまうと何も言えなかった。
「だから、こんなところで始めないでくれよ」
またヨークの注意が入り、アレナに視線を逸らす。
ワイバーン戦になってからほぼ魔法を使いっぱなしで、強力なバースト・ボルテックスを二度も使って、さすがに疲れたのか地面に転がっていた。
「さすがに、ワイバーンまで出てきたんだ。もうないよな。後は普通のアンデッドだけで」
フィが叩くために抜けたソーサラーを相手にすることはあるかもしれないが、さすがにワイバーンを超えるアンデッドは簡便して欲しい。
俺のその言葉に、テイワズがバトルアックスを担ぎ、歯を見せて笑った。
「ロル知ってるか? そういうのフリって言うんだぞ。噂をすれば影が差すだっけか?」
「? そんな迷信、信じるかって。そんなことで高ランクモンスターが現れたら、この世界はとっくに滅んでるよ」
冗談に対して冗談で返すと二度、地面に影がかかり、遅れて風が吹きつけた。
「二人がバカなことを口にするもんだから……アレナ起きろ! 魔力回復のポーションを飲め!」
「はぁ? 無理に決まってるだろ。さっきのでお腹たっぷたぷだぞ! もう一滴も入らないからな!」
防御力の乏しいお腹を叩き、焦った声のヨークに言い返すアレナ。
「冗談にもほどがあるぞ。二体とか」
テイワズも先ほどまでの軽口は叩けないようだった。
それも無理はない。今パーティ全員の目に映るのは、先ほどまで戦っていたワイバーンなのだから。
「ヴィリ、後へ……」
治してもらった左腕で彼女を後に隠し、ロングソードを構える。
いくら相手がアンデッドとはいえ、空を領域とするモンスターから逃げるのは困難だ。
森ならまだしも、ここは平原。身を隠す場所もない。
それに連戦を重ねて傷や体力を回復しても、強敵を再び相手にする精神は回復していない。
「二度あることは三度ある……悪い冗談だ」
しかも二体相手に真面に戦えるのか、逃げることすら目算が立たなかった。