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ヨーク《パラレル》

 近頃ロルがパーティに戻るよう、あの手この手で説得してきて煩わしい。

 反省してると言われても信じられないし、改善すると改めても当然のことだし、物で誘おうとしても俺のことを知らなさすぎる。

 ロルは格好つけるだけの実力がある分、真っ先に戦闘を開始したがるし、高速で戦うスキルのリジルを使うから、タイミングが合わないと援護のバフが間に合わない。

 しかも好物は自分の金髪と同じ、卵を沢山使った焼き菓子ときている。

 あとプライベートまで口を出す気は無いが、女性関係でトラブルが起こらないことを祈るばかりだ。

 ロルはだらしないのでなく、まんべんなく本心で付き合っているので、変なのにはかからないけれど、本人に関係なく色恋で何か起きてしまうのは世の常だ。

 なまじ面立ちが整っているだけあって、声をかければ大抵女の子は誘いに乗ってしまう。

 パーティメンバーのヴィリシラとも関係をもっていて、彼女的にはロルに他の相手が居ても気にしていないのは幸いと言わざるえない。

「まぁ、パーティを抜けた今となっては関係ないか」

 宿に帰りつつため息を漏らす。

 そのヴィリシラにしても銀髪に白い肌、戦闘に向かないヒラヒラの服を着て、何よりも表情を隠すあのヴェール。

 全く顔が見えない訳じゃ無いけれど、読みにくいのは確かだった。

 冒険者だというのに花冠を模したアクセサリーだとか、前述したヒラヒラの服も白く目立つドレスで、本当に冒険やクエストに行く気があるのか疑わしい。

 両手首には打ち鳴らすとモンスターが嫌がる音を発する腕輪をはめてはいるが、弱いモンスターにしか効果がなく、今のロルのパーティで出かける場所では何の役にも立たない。

 しかも他に女を作るロル以外には興味なさそうではある。

 ちなみに口ずさむ鼻歌は妖精の囁きのようだと、乱暴なイメージのアレナが褒めていた。

「そうは言ってもヴィリシラはスクロールの一つも備えておくべきだ。モンスターの数が多い時、前衛の援護に回っているのに、ピンチになった彼女を守りに戻らなければいけないのは無駄すぎる」

 他にアレナは回復系が実は使えるのではと疑っている。

 神聖魔法のサンクチュアリーー部分的な聖域や対象限定で浄化を行えるのだ。

 本来、神聖魔法は神職や僧侶などが使える魔法。

 彼女は主に攻撃魔法と何故か過剰に突起が付いた魔法杖で殴り込み、前衛で荒々しく戦っている。

 少しでも神聖魔法を扱えるので、神職かと思えばそうでも無く、逆に神様なんてクソ食らえと毒づく始末。

 神聖魔法にはグングニルやサンクチュアリ、浄化などがあり、神は視界に入る限りを聖域に出来たらしいと昔話として残っている。

 アレナはエリアサンクチュアリ、自分を中心とした数メートルが限界だ。サンクチュアリを使える神職は離れた位置や部分的にも発動出来ると聞く。

 それこそおとぎ話に聞く、異世界から召喚された勇者の中には、神と同等レベルの魔法を使える者がいるらしい。これもおとぎ話なので嘘なのだろう。

 神職と違ってアレナは言動は雑だし、酒や肉をたらふく食べるし、面積の小さな胸当てにヘソを出してスカートを履き、ブーツで蹴ったり足癖悪く、杖というモーニングスターでモンスターを撲殺する。

「何というか、アレナは戦の神と言った方がしっくりくるな」

 アレナも突然強力な魔法ーーバースト・ボルテックスを放つので、常に行動を意識しないと危険極まりない。

「それにしても良くここまでパーティが保ってるな。個々の能力は高く、まとまりがないくせに。いや、変に干渉しないから逆に個性がぶつからないのか?」

 改めて考えるとけっこうすごいことなのかと黙ってしまう。

 正直、女子同士が仲が良いのかというと分からない。

 明らかにロルが好きでパーティに居るヴィリシラ、モンスターや野盗など理由を付けては暴れたいアレナ。

 もう一人の女子、フィは召喚士という以外はよく分からない。

 一緒に行動して居て分かったのは、余りお喋りは得意でないこと、自己主張はほとんどせずに周りに合わせること、肉を好んで食べること。

 黒毛、赤目の犬型使い魔のザクロ、それよりも小型のガルム、ハティ、スコルを使役することだ。他にまだいるらしいが、まだ見たことは無い。

 女性らしい体形のヴィリシラやアレナに比べ、フィは短弓やダガーを使って戦闘もこなすことから、細いが引き締まっていて動きは悪くない。

「周りに合わせるタイプだからか、余りフィで困った記憶は無いな」

 三人が喧嘩することもほぼ無かったし、割とお互いを尊重出来ているのか仲は悪くない。

 変わって男はといえば、剣士のロルと重戦士のテイワズは仲が良い。

 よく一緒に飲んでいるのを見かけるし、お互いトレーニング相手もしているみたいだ。

 テイワズは物事に余り執着しないタイプで、黒髪短髪、重戦士なだけあり体格はパーティメンバーいちで、戦闘や強さにしか興味がないイメージ。

 プレートアーマーに戦闘武器は広い場所ならウォーハンマー、広さに限りある遺跡や洞窟などではバトルアックスを両手に使い分けて戦う。

 そして何より左腕の肘から先が鋼鉄の義手だった。

「このパーティのメンバーだからやっぱりと言うべきか、たまに理解し難いことを口にするんだよな」

 前に義手が修理から戻された時の話。

『この世界の義手はすごいな。本物の手と変わりなく動く。でも、やはりミサイルとか仕込みたかったが、説明したら重量で肩が抜けるとか言われて断られた。絶対かっこいいのにな』

 悔しげに義手に視線を落とし、テイワズは話を続けた。

『なら魔法を付与してもらおうとしたら『仕掛けがあるほど動作不良を起こす。シンプルが一番頑丈で使えるんだよ』って。ま、結果的には専門職言葉を聞いといて良かったよ。鋼鉄の塊みたいなもんだから敵を殴れるし、大雑把なオレが雑に扱っても支障無く使えてありがたい』

 確かに武器が手元に無いときに、テイワズがモンスター相手に殴りかかっている姿は印象にある。

 年齢は皆近く、だからこそ変な気づかいとか無しに言い合えていた。

 そしてパーティリーダーはロルだ。

 メンバーをまとめるというよりも、クエスト選びや方針に関し、ほとんど迷わずに決断するので、周りを引っ張っていく力がある。

「なに追い出されてまでパーティのことを考えてるんだか」

 全く酔いの回っていない頭を軽く振り、目にかかった茶髪越しに夜空を見上げる。

 勢いで脱退を宣言してから、飲み屋を渡り歩いたが、一滴も飲む気になれなかった。

 しかも時間が経つごとに冷静になる頭は、脱退して関係の無いパーティのことを振り返ってしまっていた。

「明日朝一でギルド行って、メンバー募集の張り紙でも探すかな」

 全く無いわけではないけれど、そこまで貯蓄があるわけでも無い。

 とりあえず今日は部屋に着いたら、ベッドに潜り込んでしまおうと決めた。

 起きていてもパーティの不満しか出てこないだろうし、そんな無駄な時間の消費の仕方はしたくない。


 翌日、パーティを抜けた気がしないままギルドへと足を運ぶ。

 朝早く来てしまったためか、人も受付嬢と酒場のウエイトレスくらいしか姿が無かった。

 大抵の冒険者は街を出てクエストを終えると酒を飲むため、夜遅いのと二日酔いから朝からギルドに顔を出す者は希だ。

 クエストの受注で昼間はそこそこだけれど。

 幸いメンバー募集は掲示板に張り出されているので、早朝だろうと支障は無い。

「ソロだと囲まれたりしたらヤバいし、薬草採取か街の防壁付近にふらりと現れたモンスターを狩るくらいしか出来ないか」

 しばらくその報酬でもやって行けるが、パーティに居た頃の分配された報酬よりも少なくなる。

 一人でモンスター討伐は危険を伴う。カテゴリー的には自分は魔法剣士になるのだろうが、なぜか攻撃魔法が使えない。

 仲間への強化魔法と魔法盾しか出来ないので、攻撃魔法はスクロール頼みだった。

 スクロールは発動までの時間は短縮できるものの、一度きりの物なのでコストがかかる。

 だからソロ討伐はマイナスになる可能性が高く、そのためのパーティでもあった。

「一度上げてしまった生活水準を下げるのはストレスだな。それも慣れるまでか?」

 パーティを追放され、今後の計画も立ててない今は、とても不安ではある。

 外出前に方針を決めとくべきだったかと、上の空で掲示板の上を目が滑り出したところ、背中に女性の声がかけられた。

「メンバー募集の張り紙ですか」

 昨日まで所属していたパーティ担当の受付嬢の顔を思い浮かべながら、落ち着いた口調の相手を振り返る。

「アラサさん、おはよう」

「おはようございます。ヨークさん」

 笑顔が見えるようにピンで前髪を止めて額を出し、長い赤髪を後でまとめている彼女。

 背筋の伸びた立ち姿は凛々しく、服に押し込んでは苦しいはずの胸までも、きっちり受け付けの制服に押し込んでいる。

「その時は席を外してましたが聞きましたよ。パーティを首になったって」

 カツカツと踵を鳴らして隣に肩を並べ、彼女は顎を上げて見つめてくる。

「パーティ内ではランクが一番低いと言っても、周りと比べてしまうとそこそこランク高いですからね。ヨークさんは。新しくメンバーを加えたいパーティとなると、中々条件に合いそうな募集は難しいですね」

「それは事実ですけど、アラサさんはギルドの受付嬢なんですから、冒険者の再就職の心を折るようなこと言って良いんですか?」

 冗談を返すと相手は口元に笑みを形作った。

「しばらくわたしのところに転がり込んでも構わないんですよ?」

「生憎、しばらく薬草採取のクエストでもやって行けるので最後の手段かな」

「あら残念」

 そう受付嬢のアラサは朝っぱらから妖艶に目を細めて微笑む。

「夜の担当も一人外したところだったので、ヨークさんもパーティを抜けたことですし、試食が出来ると思ったのですが」

「一応同じパーティの中では担当を控えてくれたんだな」

 この街のギルドは、冒険者が力に物を言わせて街の女性を襲わないように、希望者の職員だけ相手が出来るシステムで平穏を守っていた。

 しかもアラサは受付嬢としても評判が良く、目鼻立ちが整っている上に胸もあるし、この夜の仕事の経験もあり、テクニックも最高で昼夜問わず人気の人物だった。

「まあ、内輪でわたしを取り合ってのトラブルはこまりますけど。それでも全然オーケーなら別に構わないんですよ。3Pとか」

「残念、俺にはそんな乱れた趣味は無い」

 雑談に付き合いつつも話を終わらすと、相手はふうと小さく息を吐き言葉を真似た。

「残念、興味があったのでロルのパーティを首になった今がチャンスだと思ったんですが」

 そう言うと受付嬢の顔になり、右手の平を上向け、すっと受け付けカウンターの方へ滑らす。

「どこか募集していないか聞いときますから、念のために掲示板へもパーティを探してると出しときませんか? 名の知れたパーティに居たんです、ヨークさんが欲しいと手を上げるところがあるかもしれませんよ?」

 促されて後を歩きながら、自分よりも低いパーティに入り、ランク上げを手伝えば良いとも思い直す。

 手続きはものの数分で終えてしまったので、今日はこれから兵士のところへ行き、訓練に混ぜてもらおうかと予定を立てた。


 真っ赤なスイレンを渡された。

「そういうことか」

 そう囁いてバスタードソードを抜く。

「なっ、何で剣を構えるんだ!?」

「花言葉を知らないのか?」

「知ってるぞ。清純な心とか信頼、優しさだろ?」

 焦って答えるロル。

「へー、こっちでも花言葉とかあるのか」

 呑気な口調で頷くテイワズと違い、一緒についてきたアレナが焦った様子でロルに言う。

「バカッ、何でよりによって赤なんだよ! ホントうちのパーティにはバカな男子しかいないの?」

「はぁ? ピンクや紫もあったけど赤はかっこいいだろ」

「色味的に花束の差し色で入れる分には問題ないが、一色だったり花言葉を気にするヤツには気をつけろよバカ野郎!」

「だから何だよ。さっきからバカバカッて。何が問題なんだ!」

 アレナの呆れを含んだ怒号に、ロルは怒鳴り返し、更にアレナが説明をする。

「花言葉には色によっても意味があってだな。言い伝えでピンクのスイレンは信頼、好いていた相手に女神が送っていたことからついた花言葉だ。しかし、その好いていた相手に裏切られ、恨んだ時にピンクのスイレンが色濃く変わった逸話があって、そこから赤いスイレンの花言葉はーー、それが転じて赤いスイレンは一昔前決闘の申し込みを意味したんだよ」

「それを早く言えッ!」

「言う暇無かったし、基本若い人は知らないんだ。知っていても古い意味だから、ひい爺ちゃんくらいの年じゃない限り知らないんだよ!」

 冗談でなく斬られると察知したロルは、腰からロングソードを引き抜き、応じて構えを取った。

「ヨーク聞いてくれ、花言葉なんて知らなかったんだ。ただ俺が赤いスイレンの方がかっこいいと思ってだなっ!?」

 一足飛びに距離を詰め、振り上げるようにした斬撃を、ロルは受け止めて訴える。

「別に決闘なんてする気ないんだ。頼むから剣を下ろしてくれ!」

「俺の好きな色はシアンだ。自分の好きな色を選んでる時点で、相手のことなんて適当で良いって言ってるようなものだろ。聞く耳なんて無い!」

 ロルが守りに入っているのをいいことに、手抜き無しでやらせてもらう。

 柄から片手を離し、握り込んだ右手を弧を描いて振るった。

 軽く相手の頬に入り、多少揺れたところ両手でバスターソードを握り直し、更に一振り打ち込む。

「だから話を聞けって!」

 再び打ち合わされたソード越しにロルが訴えかけてくる。

 それでも彼の言葉を無視し、一旦押し込んでから瞬時に身を引き、身体を捻って回し蹴りを繰り出す。

 ロルが上半身だけ後に傾けたため、蹴りは勢いよく空降りしてしまう。

 けれど流れを止めずに攻めたいので、すぐに踏み込んで距離を詰め、二振り三降りと立て続けに攻撃を繰り出す。

「花は悪かったって。俺は単にヨークに戻ってもらいたい一心で、悪い点は改めるから頼む」

 さすが自分自身よりも高ランクなため、剣の攻撃に加えて拳と蹴りでは、もう一撃もいれられない。

「仲間の好きな色も当てられないで!」

「本性をヨークが中々見せてくれないせいだろ」

「……っ、人のせいにするな! リーダーなら自分から聞きに行け!」

 上段から振り下ろした一手は、軌道をずらされる形で逸らされ、更にはバスタードソードを遡るように剣撃が迫った。

「くっ!」

 庇うように左腕を前に出し、魔法のシールドを発生させてロルの攻撃を防ぐ。

 悔しいけれど、どんなに女性関係にだらしなく、自分勝手な言動だろうとロルは剣士として強い。

「もう遅い。戻る気なんてもうない!」

 魔法盾でロングソードを押し返し、バスタードソードを相手へ振り下ろす。

 ロルに目がけて繰り出した一振りだったが、伸びてきた左手に手首を掴まれてしまう。

「街にスタンピードが来るんだ。お前に居てほしい!」

 こっちはロルに攻撃を入れるのに必死なのに、対峙する相手は話しかける余裕が見え、余計腹の虫が収まらない。

「何を今さらっ!」

 多少冷静でないと自覚しながら怒鳴り返した。

 すると別方向から声が響く。

「こっちです! こっち! 兵隊さん、街中で戦っている人が居ます!」

 国の重要拠点ではなくとも、都市的に小さいかと言えば大規模な方なので、治安維持のために街に兵隊がいた。

 二人の動きは一瞬その言葉により止まる。

「捕まるのは厄介だな」

 同じように思ったのか、二人の動向を見物していたアレナがため息をつく。

「はぁ、アタシらも居たらマズいんだろうな」

 そう口にして隣のテイワズと顔を合わした。

 気をそちらに取られていると、睨み合っていたロルがスキルを発動した。

「ここから離れるぞ。一陣の風となる! リジルッ!」

 口上に続き低い声で発声したかと思うと彼に押され、そのまま身体に加速がかかり、あっという間に上空に投げ出された。

 浮遊感を覚える足元には茶色やオレンジの散らばる屋根が見下ろせる。

 リジルは加速であって飛翔ではないので、時期に落下を始め、ロルと向き合った状態のまま瓦の屋根に着地する。

 若干滑ったので踏ん張り、まだ決闘中なのを思い出して顔を上げる。

「逃げたみたいだし、アイツらなら大丈夫だろ」

 この言葉に相手の視線を追うと、建物の間から全力疾走する元パーティメンバーの背中があった。

 距離があってもヘソを出す露出度の装備と、体格のいい身をプレートアーマーに包んで尚、普通に走れる後ろ姿は見間違うはずない。

 するとロルが今さらなことを口にする。

「改めて思い返して、お前への態度を反省してる。改善するし、報酬の分配の見直しも考えないとと思ってる」

 相変わらずの様子に闘争心が萎えてしまう。

「もういい。ロル、俺は戻らないし戻れない」

「俺たちについてこれるのはお前だけなんだ! パーティに戻ってくれ」

 さっきまで居た路地に憲兵が到着するも、周囲を見回して頭をかく姿が遠目に見えた。

 魔法の盾を解いて身体を起こし、右腕を引いてバスタードソードを納める。

 こちらからの殺気が消えたのを感じ取ったロルも、構えを解いてロングソードをしまった。

「新しいパーティに入ったんだ。だから戻る気は無い」

 そう伝えて背を向ける。

 先にメンバー募集をかけたり、裏切ったのはロルが先だ。

 別に心は痛まない……彼を前にしているとモヤモヤとするだけだ。

 そして何も言わないロルから離れた。



 それから新しいパーティとクエストをこなす。

 今回はこれまで森の深くまで入らないと遭遇しないようなモンスターが、近頃浅いところでも見かけた報告を受けているので、その討伐と調査のクエストだった。

 可能性として考えられるのは、個体数が増えたことにより獲物を求めて出て来ているパターン、他から別のモンスターがやって来て縄張りを追われたパターン、あとは森事態に何らかの異変が生じている場合だ。

 考えれば限りが無いが、天変地異は発生して無いので、個体数か他所からモンスターが現れた予想が有力候補ではある。

「ワイバーンだったら逃げるしかないな。空にいる敵に今のメンバーだと対応無理そうだし」

 そう先頭を行く青竜刀を手にしたパーティリーダーが言った。

 幅広の湾曲した刃をしており、槍や薙刀などと同じように柄の長い武器だ。彼の軽く握る青竜刀の刀身と柄の境には龍の装飾が施されている。

 リーダーの言葉に頷きながら、その後を歩く聖騎士。

「同意。お前の青竜刀を投げたところで届かないし、いくら気配を消しても空の上だと無意味だろ。ヨークにだけ頼ることになってしまう」

 聖騎士の手にはツバが刀身の方に向かってV字になっているクレイモアが握られている。反対の左腕には盾を装備していた。

 喋りながらも周りを警戒するその身体からは、プレートアーマーの繋ぎ目が軽く触れる音が、カチャカチャと鳴っている。

 しかも聖騎士は軽い治癒魔法を使え、ロングソードに聖の力をエンチャント可能。

「でも、シーフだけど、ちょっとだけドラゴンスレイヤーの称号には憧れるな」

 そう零すのは幹に目印を付けながら、最後尾を歩く弟分的な性格のシーフだった。

 革で出来た防具に短剣、後からの奇襲に備えて警戒している。

 探知系なのでモンスターの察知や、気配を消しての奇襲などを担当し、場合によっては短剣に毒をまとわせた斬撃も繰り出す。

「止めて下さい。今の私たちのランクでは、何度私が回復してもワイバーンなんて倒せませんから」

 きつめの口調で僧侶は言い、手にするメイスの柄を左手の手のひらに当てる。

「まあ、ワイバーンだったとしたら誰か見かけてもいいものですけどね」

 そう話す僧侶は棒の先端が菱形のメイスに胸当て篭手、脛当を着けていて、戦闘時には回復と後方から俯瞰しての警戒を担当していた。

 確かにワイバーンは両翼を広げて飛ぶので、遠目でも相当目立つに違いない。

 トカゲにコウモリの翼が生えたようなと形容されることがあるが、あくまで例えであり、とてもその例えが正しくないと本の挿絵からも窺える。

「けれどこの異変が他モンスターに追われて発生したものなら、ワイバーンでないにしても強いのは確かだな」

 リーダーは森の奥を見つめながら話した。

「スライムの大量発生による餌不足ってのが原因だと良いんだが」

「そうだな。それなら街の魔法使いを集めて一掃で退治すれば済むか」

 ヨークもリーダーの願望に話を合わせる。

 このメンバーでは物理攻撃が主で、大量発生したスライムを処理することは難しい。

 スライムには物理攻撃がほぼ皆無なので、魔法が一番の対処法だった。

「ですね。毒による斬撃と備えで持っている攻撃系スクロールでは対応は無理ですから」

 シーフに眼差しを向け、頷く僧侶。

 このパーティはメンバー同士が仲良く、聖騎士と僧侶は子供の頃からの仲で、リーダーが二人を誘った後シーフが加入したらしい。

 何となく入りづらい雰囲気を感じるが、既存のパーティに加わる冒険者には有りがちな感傷なのだと思う。

 それにパーティ的に自分を入れたのは、強化に魔法職かオールラウンダーを入れるか、検討するためだろう。

 だから、まだ仮加入であり、このまま良ければ正式にパーティメンバーになれるはずだ。

 メンバーを固定するパーティがほとんどだが、中にはクエストを受けるごとに募集する冒険者も少数存在する。

 理由としてよく言われるのは、パーティ内での人間関係で嫌になった経験があったり、冒険やクエストに出る頻度にメンバーとズレがあったりなど、人の数だけ理由があるので全部は分からない。


「クエストの依頼文通り、確かに前はもう少し深くまで進まないと居なかったモンスターが出るな」

「そうですね」

 青竜刀を一振りして血を払ったリーダーの感想に、僧侶がシーフのケガを治癒しながら頷いた。

 その治癒を受けているシーフも、倒したモンスターの死骸に目を向けて言う。

「だけど数は少ない気がする」

「確かに。他の強いモンスターに追いやられて来ている説が正解かもな」

 アンデッド化しないように聖騎士と死骸を処理していた俺も感じたままに話した。

 本当のところ、ロルが口にしたスタンピードが頭を過ったが、関連付けようとしてしまうだけと考えないようにした。

 すると聖騎士も間違いないだろうと口にする。

「追いやられている、または逃げてきている説が正しいとして。何が奥に居るのだろう?」

 聖騎士の疑問に治癒され終えたシーフが、首元をくるむマフラーから顔を伸ばす。

「移動するくらいだからーー」

「先ほどの話ではないですけど、空を飛ぶ大型モンスターの目撃は無いのでワイバーンやドラゴンは無しですよ」

「うっーー」

 言葉を先読みした僧侶により、シーフの彼は口を閉ざした。

 このパーティに来てから何度か見る光景に、他のメンバーと一緒に笑みが零れる。

「原因がアースドラゴンの可能性もあるし、もう少し進んで街に戻ろう」

「そうだな。出てくるモンスターレベルも大体予想がついたし、次に備えても良いな。深くまで進まないといけなそうだしな」

 リーダーの慎重な判断に聖騎士が賛同した。

 冗談でアースドラゴンを出され、ドラゴンスレイヤーに憧れると語ったシーフはフンと腕を組み、聖騎士が肩を叩いて諌める。

「賛成です。良い成績を残すのは多少無理をするパーティですが、大きな痛手を負うのも無理をするパーティですから」

 アンデッド化対策の聖水なども心許ないと、僧侶も異論が無い反応を見せた。

 ヨークはロルたちとのパーティを思い出しながら呟く。

「命あっての物種か」

 ロルはギリギリを攻めるやり方で、何度意見したことか。フィ以外周りも同じスタンスだし、ヴィリシラは彼の言葉は基本全肯定なので、精神的に楽だった記憶に乏しい。

 なので受付嬢からこのパーティを紹介されて良かったと改めて感じた。

 違和感なんてない。


 休憩を取り、先ほど決めた方針通り行こうと立ち上がる。

 瞬間、バリバリと空気を震わせるほどの大音に襲われた。

「警戒して! 何か来る!」

 鳴り止まない内から、シーフの彼が短剣を引き抜いて腰を落とした。

 行動が早く、シーフが睨む方向にリーダーと聖騎士が前に出て、青竜刀と盾を構える。

 一瞬で皆が臨戦態勢に入り、僧侶ですらメイスを手に戦闘時の立ち位置へ移動した。

 ヨークも秒遅れで身体の前にバスタードソードを構える。

 とっさの時は魔法よりも、物理的な武器や体術の方が、いち早く対応し易い。

「来るっ!!」

 シーフが叫ぶと視界にあった木の上半分が吹き飛び、脇にある同種の木に突っ込んで騒音を響かす。

 そして木の向こうから姿を見せたのは優に人の三倍はある背丈に、全身を覆う茶色い獣毛の上からでも分かるくらい隆起した筋肉を持ち、蹄に逆間接の脚で角の生えた牛の頭部を持ったモンスター。

「ミノタウロス!」

 リーダーが思わず声を上げた。

 現れたモンスターは、人と変わらない形状の前腕があり、柄の長い大きなアックスを握る手には鋭い爪を備え、腕の一振りでも直撃したら人の身体なんてタダじゃ済まないことが容易く理解出来る。

「ダンジョンモンスターが何故?」

 声から緊張が窺える僧侶の言う通り、ミノタウロスは普段ダンジョンにしか出現しない。

 森の近くではないが、遠くもない場所にダンジョンの入り口はあるけれど、そこからミノタウロス級のモンスターが外に出てくるなど余り耳にしたことがなかった。

「動揺するのは後だ!」

 そう目の前のモンスターから目を離さず、リーダーは聖騎士と二人でミノタウロスの気を引くと言った。

「じゃあ、僕は気配を消して回り込んで、毒による斬撃で攻めてみるよ」

 腰から返しのついたナイフに切り替え、シーフが下がる。

「頼む。広い場所に出るよりは攻撃が入り易いし、狭い分相手の攻撃方向が限定されるからいけるはずだ! ヨーク! 援護しながら後衛の守りも頼む」

「分かった」

 発破も兼ねた声に返事をし、元よりそのつもりで僧侶の近く、リーダーと聖騎士の後方に移動する。そしてーー

 ブォモォオオオォォォーーーーーーーーーーッ!!

 ミノタウロスが咆哮を轟かせたのをきっかけに、攻撃を仕掛ける。

 まずスクロールで火球を打ち出して援護射撃、聖騎士が身体の前で盾を構えてスキルを発動させた。

「挑発!」

 火球をアックスで容易くなぎ払ったミノタウロスは、挑発の効果により聖騎士に身体を向ける。

 リーダーは回り込むように駆け出して跳躍、身体を捻って回転を加えて青竜刀を振るう。

「ハァアアアァッ!!」

 まず武器を排除するため、腕に狙いを定めて斬撃を放つ。

 グォウオォォォーッ!

 スキルで聖騎士に意識を向けていても、外界からの刺激にミノタウロスは吼え、斬りつけられた腕を反射で振り抜く。

「間に合えっ!」

 ヨークは手のひらをリーダーに向け、身体強化のバフをかける。

 木の幹並の太さの腕の直撃を、青竜刀の柄を両手で握り受け止めたリーダー。

 しかし、その衝撃を受けて弾き飛ばされてしまう。

 軽く十数メートルは飛ばされ、木の枝に突っ込み、木の上から落ちて地面に打ちつけられる。

「オレに身体強化を! 挑発!」

 聖騎士に身体強化のバフをかけ、意図を汲み取った僧侶がリーダーの元に駆け出す。

 ヨークは護衛も兼ねているので僧侶の後に続く。

「ヒール!」

 無防備になる二人を守るように、すぐさま魔法の盾を作りミノタウロスの方を向いて警戒する。

 幸い治癒魔法をかけられたリーダーは、すぐに目を覚ました。

「すまない、切り落とそうとは思ってなかったが、予想よりずいぶん皮膚が硬い」

 痛みがまだ残るのか、声が苦しそうだ。

「黙ってろ。すぐ治る」

「身体強化なかったら、潰れてたかもな。あ……まだ行けるが、青竜刀が普通の刀になっちまった」

 ちらりと背後に目を転じると、青竜刀の長い杖が二つに分かれていた。

 すると戦闘中の方向から、またもミノタウロスの鳴き声が上がった。

 ハッと顔を戻した先には、巨体から弾き飛ばされるシーフの姿。

 リーダーのように攻撃を受けたというよりも、離脱に近い動きをしていて、空中で腰を捻ってバランスを取り、木の枝を伝い着地する。

 僧侶のヒールを受けたリーダーが、状況を見て立ち上がった。

「あの大きさだと一本や二本刺さったくらいじゃ、毒の効果は無さそうだ。まぁ、何本も刺す前にこっちが参っちゃうな。ミノタウロス相手だし、有効な一撃が必要だな。ん、刀になっただけで行けるだろ」

 柄が折れて刀状になった青竜刀を持ち上げる。

 普段使い慣れた形状を失っても、前向きなリーダーに魔法盾を差し出す。

「使って」

「サンキュ、余りのんびりしてると怒られちまう。行くぞ!」

 リーダーのかけ声を受けて走り出し、ミノタウロスに再び挑む。

 聖騎士の役目は攻撃を受け止めるのでなく、モンスターの気を引いて足止めすること。

「お待たせ!」

「遅い! ジリ貧過ぎて囮にされたかと思ったぞ」

「バカ言え、そんなことするかよ」

「これ以上遅くなるようなら一杯奢ってもらうところだった!」

「それはよかった、セーフで」

 聖騎士は合流した相手と冗談めかした言葉を交わして笑い返す。

 そして盾を構えるリーダーは狙いを口にする。

「膝をつかせたい。足を狙うぞ!」

「承知した!」

 聖騎士はその言葉に頷き返し、目の前にそびえる巨体に立ち向かう。


 ヨークは僧侶に魔法盾を預け、一旦離れてシーフの元へ駆け寄った。

「毒の効果は?」

「頑張って二本刺したけど、大きいせいか余り目に見えて効いている気配は無いかな」

 やはりリーダーが言っていた通り、今のままでは見通しすら立たない。

「そこで作戦」

 前置きをしてリーダーからの策を伝える。

「足に集中攻撃をして膝をつかせる。そこにスクロールの火と水を打ち出し、ミノタウロスの鼻の先でぶつけて視界を奪う。そこでミノタウロスの眼をナイフで貫いて欲しい。バフはかける」

「まったく、普通に討伐出来ないと大抵僕の毒頼りなんだから。だとすると相手が大きいから脳狙いか」

 スクロールを受け取りながら、話を聞いたシーフはそう言って頭を掻く。

「仕方ない。頼られてあげよう。リーダーのオーダーだし」

 真剣な表情に戻り、刃渡りの長いナイフを引き抜く。

「腕が洗えるところあると良いんだけど」

 そう呟き、一つ頷いて気配を消した。

 ヨークも自分の仕事をするべく行動を起こす。

 自身に物理耐性の身体強化のバフをかけ、バスタードソードを抜き放つ。

 ミノタウロスと対峙する二人の元に走り報告。

「連絡完了した」

 ちょうど足元まで近づきはしたものの、踏みつけるようにされた攻撃を回避したリーダーが下がったところだった。

 一緒になって巨体と向き合い、リーダーと聖騎士に改めてバフをかける。

「ごめん、攻撃力向上でなくて」

 使えたならかけてあげたいバフだけれど、聖騎士が片手をあげて言葉を止め、リーダーが頷く。

「サンキュ。じゃあ、気合い入れて行くぞ!」

「おう!」

「ああ!」

 三人一斉にミノタウロス目がけて行動を始め、聖騎士が足を止めて盾を構え、スキルで一撃目を自身に向けさせる。

「挑発!」

 大きく振り下ろされたアックスが目の前の地面に突き刺さり、砕かれた土の塊や石が飛び散り聖騎士を襲う。

 次にスクロールを取り出し、攻撃の意思を二人に伝えるため、声を上げて発動。

「エレクトリックショック!」

 空気中に紫電が閃き、指向性をもってミノタウロスに電撃が直撃する。

 ブモォォオオーーーーーーーーーーッ!!

 一瞬で紫電が巨体を走り、鳴き声を上げて蹄を踏み出した。

 余り効果は無さそうだけれど、構わずバスタードソードを逆間接に向けて投擲する。

 もちろん、風の魔法を乗せて。

 一直線に飛翔したバスタードソードは、巨体を支える間接に突き刺さり、その脚に向けてリーダーが迫る。

「ハアァッ!」

 気合いと共に青竜刀で足首にあたる部分に斬り込み、切断は出来ないものの斬り返しで斬撃を放つ。

「オオッ!」

 追いついた聖騎士も加勢し、クレイモアを斜めに振り下ろす。

 すると一層大きな雄叫びを上げ、ミノタウロスの巨体が傾ぐ。

「ヨーク!」

 名を呼ぶ僧侶の合図が響いた。

 そして遂にミノタウロスが地面に膝をつく。

 僧侶が火のスクロールを発動させ、火球が空気を焼きながら射出される。

 呼び声と共に駆け出したヨークは、おおよその場所で地面を滑りながら停止。

 水のスクロールを手にし、広げて発動。水柱が勢いよく発射させる。

 スクロールでは軌道を曲げられないため、必要な行動だった。

 狙い通りミノタウロスの顔の前で、火球と水柱がぶつかり爆発。水蒸気が発生して巨体の上半身を包み隠し、白く相手の視界を奪う。

 直後、水蒸気へ向けて飛んでいく影。


 ミノタウロスが地面に膝をつき、火球と水柱がぶつかり水蒸気が覆う。

 スキルの千里眼でミノタウロスを補足、風魔法で自身を打ち出し、瞬間的に迫りその眼球に向けてナイフを突き出す。

 一瞬自身の姿がミノタウロスの瞳に映ったが、次の瞬間には眼球に深く、肩まで突き込んだ。

 勢いを乗せた一撃は断末魔の叫びを生み、鼓膜が破れそうなほど大気を振動させ、水蒸気も瞬間的に霧散してしまう。

 しかも痛みから巨体が暴れ、下からシーフを呼ぶ声が聞こえた。


 痛みの元凶を排除すべく、爪の鋭い手がシーフに迫り、リーダーに答えること無く、脚に力を加え、ミノタウロスの顔を蹴って空中に身を投げた。

 けれど暴れ狂う手が追って迫り、魔法盾を思いっ切り放り投げる。

 回転して空を切った盾は、ミノタウロスの手首に当たり、軌道を曲げてシーフに届くのを防ぐ。

 そしてシーフが地面に着地すると同時に、角を持つ頭部が破裂して吹き飛んだ。

 辺りに肉塊と血が飛び散り、首から上を失った身体が傾ぎ、よろめいた先で周囲の木々を巻き込んで倒れ、地面を揺さぶった。

「……」

 数秒間、誰も口を開かずミノタウロスの死骸を見つめた。

 聖騎士もしばらく構えていたが、シーフのぼやきでやっと警戒を解く。

「死ぬかと思ったー」

 気の抜けたシーフの声に、僧侶が側に寄り労う言葉をかけた。

「その時は蘇生させてあげますよ」

 珍しく冗談を口にする僧侶。

「さぁ、とりあえず回復させますから集まって下さい」

 僧侶の呼びかけに、一人ずつ交代で警戒にあたりながらヒールを受けた。

 全員が終わったところで、シーフがリーダーを肘で小突く。

「まったく、とんでもない作戦を考えてくれたね。毒だけでなく、攻撃スクロールも一緒に突き刺せなんて」

 眼窩に突っ込んだ腕を気持ち悪そうに振る。

「握り潰されてもおかしくなかったし、下手したら僕の腕が吹き飛んでたんだからね」

「まぁ、そこは貧乏くじを引かせたが、あのまま決定打も無く毒が回るのを待ってたら、もっと酷い状況になっていただろう」

 怒るシーフの肩を聖騎士が揺すり、リーダーが笑う。

「結果良ければ良いじゃないか。とどめを刺したのはお前なんだ、これでミノタウロススレイヤーを名乗れるぞ。良かったな」

「そんな語呂が悪い称号要らないよ! 聞いたことないよ、ミノタウロススレイヤーなんて」

 そうは言うけれど、ミノタウロスはそこそこ強力なモンスターなので、誇っても良い相手だ。

「とりあえず、これで街に戻るぞ。ダンジョンモンスターのミノタウロスが森に出たのは、報告しなくちゃいけない異常だ」

「うーん。このミノタウロスが、森の奥のモンスターが現れる異常の原因でしょうか?」

 地面に倒れ伏して動かない死骸を眺める僧侶。

「ミノタウロス一匹でこの状況は考え辛いのですが」

「それはギルドと他の冒険者に任せよう。俺たちはミノタウロス一匹でこの有様だ。まだ居たらマズい」

 僧侶の疑問には答えず、早く離れようと言う聖騎士。

「そうですね。戻るのにも体力は要りますし」

 討伐したミノタウロスは頭が吹き飛ばされているので、余り心配は無いが、アンデッド化させないように聖水をかけて森を出た。


 今思うとロルが言っていたからと否定してしまったが、本来ダンジョンのモンスターミノタウロスが出現した異常は、スタンピードの何らかの影響による前兆現象だったのかもしれない。



 緊急クエストとして集められ、新しいパーティとスタンピードの討伐に参加した。

「ごめん、ここは大丈夫そうだし行くよ。皆は回復を受けた方が良い。もし動けたとしても無理はしないで」

 予想以上に押し寄せるアンデッドに区切りがつき、リーダーに元のパーティを探しに行きたいと話した。

「謝るなよ。気をつけて」

「ありがとう」

 お礼を言ってアンデッドが多いところを目指して駆ける。

 戦線が端の方だったため片づいたが、視線の先の未だ流れてくる中央にはアンデッドが闊歩している姿がある。

 推測だけれどロルならきっと目立ちたくて、活躍して賞賛されたくて、最前線と言ってもおかしくない戦場にいるはず。

 高ランク冒険者のパーティだから、そう易々と全滅はしないだろうが、異常な物量に不安を覚える。

 スタンピードが来るとか、今から思えば予言とも言えることを言ったのだ。

 それでパーティに戻って来て欲しいと言った以上、不安故の言葉だとしたら……

 視界の端に入る他の冒険者たちの苦戦する姿に、若干の焦りを覚えた。

「全滅してたら許さないからな」

 ヨークは自身に強化魔法をかけ、跳躍して移動しながらロルたちを探す。

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