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04

 ヴィリがベッドから抜け出し、下着を身に着ける。

 裸体が隠されていく様子に、ベッドにまた引っ張り、彼女を押し倒したい衝動を覚える。

 目の前の自分しか知らない惚れ惚れする光景に、ため息が漏れてしまう。

 それを聞き取った彼女が振り返った。

 無言で見つめてくる視線に首を振り返す。

「ん、何でもない。ヴィリのおかげだ」

 ヴェール越しに『何かあった?』と問いかけているような気がしたので、その返事だ。

 ヤツがパーティを抜けた後、放心したもののチリにゴーレムの素材を渡したり、前回みたいにメンタルがボロボロにはならなかった。

 その後遅いけれど、オルゴールを買った時の人物を探す。

 夜となく街の路地を歩き回ったが、顔すら知らないので結局見つけられなかった。

 そしてついにアンデッドの集団、スタンピードが街に迫っていた。

 ギルドから緊急招集がかかり、集められた冒険者にアンデッドのスタンピードが伝えられた。

 加えて防壁の無い村が襲われ消滅したと聞かされる。

 街を囲む防壁を背にギルドから招集を受けた冒険者が集まり、一部探知系や弓、魔法の遠距離は防壁の上に待機していた。

 あとの七割ほどは地上で援護射撃を行い、最悪防壁までモンスターが迫りそうになったら、防壁の冒険者と合流し、上から狙い撃つ計画になっている。

 街の中には兵士が避難と住民の護衛に当たっており、幾つかの隊は防壁の守りに加わっている。

 どこに居るかは分からないけれど、ヤツも冒険者なので人波のどこかに居るのだろう。

「オレたちはいつも通りだな」

 探すとも無しに周囲を見ていたら、左肘から先が義手の可動を確認するテイワズが話しかけてきた。

「あぁ、前衛だからな」

 隣に立つ彼のプレートアーマーを小突き、金属の硬い音が、集まった冒険者たちの中に消える。

 何も確認することも無いが、腰からロングソードを抜く。

 そして魔法使いのクセに前衛張りなアレナが、突起の出た杖を素振りをする。

「中には冒険者のアンデッドも居るそうだが、アンデッドなんだし思いっきりぶっ飛ばしても構わないよな。あー、気に入らないヤツもアンデッドになってくれてたら良かったのに。今年一の残念だ」

 うちの魔法使いは物騒なことを口にし、魔法職とは思えない勢いで杖を振りかざす。

「仲間を吹っ飛ばすなよ。ヴィリ、ついてくるなら俺たちから余り離れるな」

「もちろん。ロルを、皆を回復させるのが私の役目だもの」

 いつもの面子で近くに居るヴィリは頷いた。

 大半のヒーラーは後方で、前線から負傷して戻ってくる人の治癒を担当する分担になっているけれど、彼女は普段のクエストと同様に俺たちとの同行を選んだ。

 この方が調子が狂わないし、何組かは同じ状態のパーティもいる。

「……わたしも? いつも通りでいい?」

 召喚した黒毛、赤目の大型の犬ーーザクロにターゲットシールドを装備した左手を置く。

「いいぞ。どうせ俺たちが最前線だ。ちょっと後から来る奴らに攻撃しないようにするだけで構わないだろ」

 質問の返事を聞き、フィは小さく頷く。

「……分かった」

 そしてザクロよりも身体の小さい同型の使い魔、三匹にも歩み寄る。

「……ガルム、ハティ、スコルもよろしくね」

 抱き締めるように屈み、身体を起こした時に短弓を手に取る。

 分担されたのはヒーラーだけでなく、弓や魔法使いも配置場所があるが、うちは普段通りで行かせてもらう。

 何せ一人脱退したばかりでもある。

 それにオルゴールに見せられた未来もあったので、皆には回復薬をそれぞれ用意させたり、装備を万全にさせた。

 もう一度パーティメンバーを見やる。

「ふぅ……」

 上手くいっていれば、ここにヤツが居たと思わないわけでもないが、居ないものは仕方ないという考えに持っていく。

 防壁の周りはほとんどが平原で、他の街へと続く街道は森へと伸びていた。

 その街道からアンデッドのスタンピードが押し寄せて来ているとのギルドの情報。

 その物量の多さに耐えきれず、左右の樹木がなぎ倒される。

 距離は十分離れているのに、森を抜けると横へ広がる影に、周りの冒険者の息を呑む気配がした。

 緊張が冒険者たちを包み、進行する影に防壁の上から開戦の声が上がる。

 瞬間、緊張は興奮に切り替わる。

 まず後方の魔法使いが、それぞれ遠距離魔法を放つ。

 火球、雷撃、ウィンドカッター、魔力弾が、頭上や射線として空けた間を勢いよく飛んでいく。

 森を抜けて横へも広がる前列のアンデッドに着弾、腐った肉片に変えて吹き飛ばすも、後続のアンデッドが湧くように押し寄せた。

 これほどまでの物量は滅多にお目にかかれないが、やることはいつものクエストと変わらない。

「数で勝負しないか!」

 隣を走るテイワズの提案に、知らず気負っていた物が軽くなる。

「良いな! ただし、デカ物が居たときは審議だ!」

「当然!」

 ウォーハンマーの柄を両手に握り込み、頷いて返事をする普段のやり取りに、普段の自分たちの感覚を思い出す。

 数が多かろうが、オルゴールに夢を見させられようが、目についた先から討伐していけば問題なんてない。

 これが予知夢だとしても、モンスターを討伐するということは変わらないし、デジャブがあれば一旦下がるなりすれば良いはずだ。

 ちょっとしたアドバンテージと考え、気負わないようにする。

「何言ってるの? アタシが勝に決まってるでしょ。大量に吹っ飛ばしてやるんだから!」

 二人の会話にアレナが割って入る。

 まるで槍使いかのように構え、俺たちに三歩ほど遅れて駆ける彼女。

「この前と違ってアンデッドだから、どんどん倒してやるんだ!」

 最後は吹き飛ばしてやったのに、よほどエイプ戦が悔しかったらしい。

「負けた人は勝者に何でも一つだけ服従ね!」

 アレナが楽しげに告げた提案に、テイワズが叫び返す。

「バカ言うな! 別にお前なんて抱きたくないぞ」

「バカはお前だ! アタシだってご免だっての! 『何でも』って、すぐ男はエロいことに結びつけるな!」

 相手は顔を赤らめることなく、マジのトーンで言い返してきた。

「ロルは何でもって言えばそうかもしれないけど、アタシは違うんだ」

「二人とも、お喋りはそこまでだ! アレナの願いは勝ってから聞いてやるよ!」

 もう一度後方からの遠距離魔法が、アンデッドを吹き飛ばした後、前線の冒険者たちの誰よりも自分たちのパーティが早く対敵する。

「ウオォーッ!」

 テイワズは加速し頭一つ抜け、雄叫びを上げながら、ウォーハンマーを振り抜いた。

 三体のアンデッドが押し退けるように鉤爪部分に引き千切られ、続けて正面から飛び出してきた一体を振り上げられたハンマーが押し潰す。

 余り近いところで討伐していても、テイワズの挑発で取られるか、奪い合いになると見て、僅かに進行方向を斜めに取り、俺はロングソードを縦に構える。

「一陣の風の如く、戦場の不浄に終止符をもたらすーーリジル!」

 加速してアンデッドの群れに突っ込む。

 正面を斬り払ったら利き腕とは逆に迫っている側に刺突、腕を引いた動きで背後を横薙ぎにし、右に回り込んだアンデッドの一撃をかわす。

 そして即座に振り上げながら踏み込み、頭のてっぺんから真っ二つにし、寄ってくるアンデッドを次々に斬り捨てる。

 アンデッドになる前の種類は様々で、主にモンスターだけれど、たまに壊滅した村だろう農耕具を手にした人型も存在した。

 高機動のリジルで戦うなら、テイワズのように前線でアンデッドを潰すより、敵の真っ只中の方が、より多くの手数が入るのでそうしている。

 近くで矢がアンデッドを射抜いているのは、きっと使い魔たちの援護しているフィの弓なのだろう。

 普段のクエストでもそうだが、指示が出ていなくても時たまパーティメンバーのフォローもしてくれていた。

「エリアサンクチュアリ!」

 アレナの声が聞こえた。

 人にとって効果内では毒や呪いの解呪、回復の恩恵を受けるサンクチュアリも、アンデッドには浄化されてしまう禁足地になる。

 すぐに消滅しなかった場合も、動けなくなったり弱体化は必ず起こる。

 今回の勝負はアレナ、テイワズ、ロルの順に有利に思えた。

「それでもっ! 俺は勝つ!」

 気合いを込めて言葉にし、刺突で二体串刺しにして、一気に振り上げて腐った相手を斬り裂く。

 やはりゴブリンなど繁殖力の高いアンデッドが目立つ。

 もとから醜悪な姿のゴブリンは、腐って更に直視したくない仕上がりになり、虫系も苦手な冒険者なら卒倒してもおかしくない姿になっていた。

 周囲の冒険者の気迫も伝わり、アンデッドのスタンピードと前衛が戦闘することで、本格的に始まった実感が強く湧いた。

「これ、聞いてた想定より多いんじゃねーの! 臭いし、汚いし、気持ち悪いし、最悪!」

 サンクチュアリの浄化に間に合わない数のアンデッドが押し寄せ、突起が特徴の杖を振り回して屠りながら、アレナが不満を露わに叫んでいた。

「テイワズ! もっとスキルで引き寄せなさいよ。一応パーティのタンクでしょ!」

「挑発は常に発動してる! 普段、オレより前に出て好き勝手に暴れてるクセに、都合の良い時だけタンクだったの思い出すな!」

 ウォーハンマーは諦め、バトルアックスに切り替え、両腕を振るってアンデッドの首を撥ねる。

 大型獣の一撃を右のバトルアックスで受けてブロックし、左のアックスを胴体に振り下ろして裂き、アンデッドの揺らぎに合わせて右腕で押し返す。

「うぉおぉうっ!」

 右腕を左肩に引きつけ、そこから思いっきり横薙ぎに叩きつけて、牙の覗く太い首を切断する。

 腐りかけだから上手くいったが、生きていたらもっと難しかったのかもしれない。

 動きが単調なのも、アンデッド故だ。

 それでもアレナの言っていることは確かだった。

 衝突後、草原の戦場は乱戦状態になり、次第にアンデッドの数に冒険者たちが押され気味になっている。

 それぞれ回復薬を所持していたので、ヴィリに回復してもらう手間が省け、予想よりも大分屠っているペースは早いはず。

 しかし、それを上回る数で押し寄せるアンデッドの波。

 まだ普段通りの口ゲンカが出来る内に、一旦下がって状況を見るべきか。

 オルゴールに見せられた夢もあり、いつもより周りを見て判断する冷静さがあった。

「テイワズ!」

 悩んだ直後、一際大きな黒い影が立ち上がり、そのアンデッドの正面に居たメンバーの名を叫んだ。

 当然、テイワズは認識していたので、即座にバトルアックスを構えて腰を落とし、防御姿勢を取る。

 次の瞬間には金属同士がぶつかる重く鋭い音が響く。

「ぐっ!?」

 低く呻いたテイワズの身体が僅かに沈む。

 大きなアンデッドの一撃の衝撃を受け止め切れず、振り下ろされたソードを防いだバトルアックスの刃が、自らの肩に食い込んでいた。

 偶然にもプレートアーマーの繋ぎ目らしかった。

「瞬く光の速さに! リジル!」

 考えるよりも先に身体が動き、加速と身体を捻り生み出した遠心力を乗せ、ロングソードを巨体な相手が持つソードの横っ腹にぶつける。

 衝撃にアンデッドの武器がズレて、地面に突き刺さり土塊が舞う。

「サンキュー」

「お礼はいい、動けるよな」

 まだ戦う気で居るテイワズに、赤く染まりつつある肩を見やり言う。

「ヴィリのところまで下がって、その傷治してこい」

 構え直すアンデッドの動きを追おう。

 大きな体格のせいか、多少動きが鈍く錯覚する。

 人間の倍以上の体格は毛らしき物に覆われ、頭部と思われる部分からは側面から角のような突起、地面に立つ両脚は逆関節だった。

 ところどころ崩れたり腐り落ちて剥き出しになった一部に、何か違和感を覚えたが、全体的にミノタウロスに酷似している。

「だが、一人では危ないだろ」

「フィから呼び出しの笛を預かってる。足止めするだけなら一人で十分だ。行け!」

 そう下がらないテイワズに言葉を返し、ロングソードの先で地面を引っかき音を出し、アンデッドの注意を引いて弧を描いて駆ける。

「分かった。ヤバくなったら逃げろよ」

 目の前の敵にテイワズは、正面から力で負けただけだ。冒険者の戦い方は、何も正面からだけじゃない。

 それに周囲に相手を出来る冒険者やパーティも、自分を除いて居ない。アレナはスキルのエリアサンクチュアリを発動してるものの、ちょくちょく包囲されそうになっていて、どう見ても手が離せそうには見えなかった。

 犬笛を口に咥えて吹き、仮定ミノタウロスへ挑む。

 スキル発動ーー

 周りには他のアンデッドも蠢いているので、ギリギリ雑魚に当たらないように気をつけ、巨体に飛びかかって迫りロングソードを振り上げる。

 肩に向かって腕を斬ると、生前の反射なのか、アンデッドのミノタウロスは鳴き声を上げた。

 ブォモォオオオォォォーーーーーーーーーーッ!!

 鼓膜を破る勢いの咆哮と共に、一歩後へ揺らいだかと思うと、まるで虫を払うかの如く、武器を握ったままの拳が襲ってきた。

「!?」

 ロングソードで受け止めるが、全身衝撃に襲われる。

「くうっ!」

 予想を上回る力に抗えず、アンデッドの中に向けて殴り飛ばされた。

 空中でサンクチュアリが見え、低く呻くアンデッドの群に身体が持っていかれる。

「あの中から抜け出すだけなら……」

 空は飛べないけれど、スキルを使ってアンデッドの上を駆ければ、冒険者たちが居る戦線まで戻れるはずだ。

 とりあえず着地のため、空中で姿勢を整え、ロングソードを構える。

 その時、考えていたことと同じ方法で視界の端から影がやって来た。

「ザクロ!?」

 見る間に赤い目をした大型犬が接近し、アンデッドの頭を潰しながら跳躍して迫った。

 ロングソードをしまい腕を伸ばし、その黒毛に覆われた首に抱き付く。

「助かった!」

 助けに来たザクロに言い、しっかり掴まる。

 ザクロは口から炎を吐いて落下速度を抑え、より大きな背中の獣型アンデッドを踏み台にし、更に跳躍してアンデッドの上を走った。

「ザクロ、あっちに」

 遠くても判別可能なミノタウロスを指差すと、無言でザクロは進路を変える。

 テイワズが戻ってくれば、フィとその使い魔で高ランクが集まれば勝機はあるはず。

 ダメならアレナに吹っ飛ばしてもらうのも手ではある。

 進行している巨体に迫り、敵の視界の外から奇襲をかける。

 ザクロの上から飛び降り、スキルでアンデッドを踏み台にして一気に肉迫。

 再び跳躍して高く跳び上がり、首を狙ってロングソードを抜き放つ。

「はあぁあーーーーっ!!」

 加速を乗せて断頭を狙っての一振りが首を捉え、ミノタウロスから咆哮が上がった。

 ボォウォオオーーーーーーーーーーー!!

 しかし、切断には至らなかった。

 アンデッドを踏みつけながら着地。

 裂けた痕から粘りのある液体が零れ落ち、より強烈な異臭が鼻を突く。

「思ったより厄介そうだな」

 こちらに向き直る動きをミノタウロスが見せると、進行方向に割り込んだザクロが炎を吹きかけて妨害する。

 けれど無闇にソードが振り下ろされ、俺は迫る攻撃を飛び退いて躱す。

 回復薬を一本消費し、一旦立て直そうとザクロの元に走った。

 すると名前を呼ぶ声と共に、見慣れたプレートアーマーが戻って来た。

「大丈夫か? ロル!」

「一度飛ばされたよ。というか、早くないか?」

 往復の時間すら経っていない。

 するとその答えが現れる。

「ロル! 大きなアンデッドが見えて、それで! 大丈夫なの!」

 ずいぶんと切羽詰まった様子で、ヴィリが駆け寄ってヒールをかけようとしてきた。

「大丈夫だ。まだ大きなケガはしてない」

 手で制してヴィリを下がらせる。

 すると次はフィがやって来た。

「ちょうど良かった。アレナを連れてきてくれないか? 中々に厄介そうなんだ」

「…………分かった。行くよ、ザクロ」

 早口にしたお願いに、彼女は間を空けて頷いてくれた。

 使い魔を一匹連れ、アンデッドの波の上から微かに見えるエリアサンクチュアリの方に向かう。

 他の使い魔の二匹は、ミノタウロスとの戦闘に邪魔が入らないように、他のアンデッドを倒しに動く。

 残った一匹は、ヴィリの護衛だ。

 ザクロは大きさで見分けがつくが、今でもガルム、ハティ、スコルの見分けがつかない。

「テイワズ、行くぞ」

「ああ、まずは厄介な武器からだろ。何ならアレナが来る前に片付けてやろうぜ」

 それくらいの意気込みで彼は隣に並び立ち、ウォーハンマーを両手で構える。

「怒られるだろうな『無駄に呼びやがって』ってさ」

「違いねぇ」

「その時はテイワズが、片そうって言ったと言わせてもらうな」

「ズリぃけど、討伐数で勝って黙らせてやるさ」

「それもそうか」

 軽口で返し、二人同時に地面を蹴った。

「さっきは油断しただけだ! 挑発!」

 数メートル先に出たテイワズが、吼えるみたいにスキルを発動する。

 俺は敵から距離を取りつつ側面に回り込み、必要なら農具を持ったアンデッドを切り払いながら、リジルで突っ込むタイミングを計る。

 リベンジマッチに燃えた彼は、敵意が自分に向いたのを察し、滑りながら制動をかけウォーハンマーを振りかぶった。

 まるで敵意に答えるかのように、ミノタウロスもソードを両の腕で振り上げ、人が扱えるサイズでないその武器を振り下ろす。

 空気ごと押し退け、迫るかに思えるソードの正面に立つテイワズ。

 直撃すれば押し潰されてただじゃ済まない攻撃に合わせ、柄を両手で握りしめるウォーハンマーを渾身の力で振り回す。

「ぐぅううぅわぁああーーーーーー!!」

 咆哮と共に横へスイングされた打面が、手を伸ばせば届きそうな距離に迫ったソードの平地を真横から捉えた。

 無理矢理衝撃で軌道を逸らされたソードは、勢いはそのままに刃先を地面にめり込ませる。

 テイワズは自身の近くにあるミノタウロスのソードに駆け寄り、ウォーハンマーの柄を地面に思いっ切り突き立てる。

「うぉりゃあぁああーーーーーーー!」

 更に金属の義手でハンマーの頭を上から叩きつけ、地面に打ち込んで行く。

 高く鈍く金属音が鳴り、ウォーハンマーの鉤爪部分がソードを押さえ、地面に縫い止めて封じた。

 テイワズの動きを見て、早めにリジルを発動した俺は、最大限に加速してミノタウロスに迫る。

 そして腕で細い部分、未だソードの柄を握る手首目がけて跳躍、加速の勢いを乗せたロングソードを振り上げる。

「はぁああっ!」

 刃がミノタウロスの手首に食い込み、腕に力を込めて押しながら振り下ろした。

 ロングソードを振り抜いて地面に片膝をつき着地、背後で重い物が地面に落下する音に続き、空気を震わす吼え声が上がった。

 グヴォオオーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!

 これで武器は取り除いた。

 攻撃はより単調になるはず。

「はぁはぁ……」

 呼吸を整えながらロングソードを構えて振り返る。

「は……?」

 警戒を解いていたわけではないけれど、視界いっぱいに切断したはずの手のひらが迫っていた。

「ロル! 逃げろ!」

 テイワズの叫ぶ声。

 とっさにスクロールを取り出し、何も考えずに身体の前に広げて発動させる。

 火球攻撃の物で、ミノタウロスの手が至近距離にあり、暴発に近い爆発が起きて吹き飛ばされた。

 赤い閃光の後、鼓膜が破けそうな音を耳にしたと思うと、視界が回り、気付くと地面を転がっていた。

 自分の口から呼吸とも、呻きともつかない声が漏れ、身体の揺れが納まると空が見えていた。

「挑発!!」

「ロルーッ!」

 薄い膜がかかったような向こうから、テイワズとヴィリの声が聞こえた。

 受け身が全然取れていなかったのか、全身が痛みに包まれて起き上がれそうにない。

 首を捻るとテイワズがバトルアックスを両手に、ミノタウロスと対峙している背中が見えた。

 彼と一緒に二匹の使い魔も加わり、撹乱している。

 ソードは持っていないが、切り落としたはずの手を振り回していた。

 視線を動かすと、地面から斜めに生えるソードの下には、腐れ落ちそうな手が転がっている。

「生えたのかよ?」

 悪態が喉から入る。

 アンデッドが再生するなんて話、聞いたことがない。

「ロル、今治すから」

 側でヴィリの声が聞こえて、温かさに身体が包まれ、若干痛みが弱まった。

「ヴィリか、ありがと」

「お礼いいから黙ってて」

「たかが打撲だろ? そんな心配そうにするな」

 見上げる形になることで、ヴェール下の表情が見え、その焦りの覗く顔に微笑みかける。

「心配しないわけないでしょ。オルゴールに見せられたんでしょ、スタンピードで命を落とすって」

「そう……だったな」

 命を落とすのだったか、受け取り側の齟齬だけれど、言われてオルゴールのことを思い出す。

 戦闘が始まってからは、目の前のアンデッドを倒すことばかり考えていて忘れかけていた。

「それに好きな人なんだから尚更よ。ただのケガでも不安になるんだから」

 安易な返事に対しての、ヴィリの叱責を甘んじて受ける。

「あれは? 再生したのか?」

 余りヴィリと話していると、後でテイワズやアレナから戦闘中にイチャイチャするなとからかわれてしまう。

「再生じゃなくて、回りのアンデッドを取り込んで体にしてたわ」

「あぁ、だからか……」

 ミノタウロスのアンデッドに覚えた違和感に納得した。

 補強に使っていたからミノタウロスの周りにはアンデッドが少なかったし、ロングソードで斬った時のムラのあった感覚も、腐っているという理由以外にもあったみたいだ。

「ロル……今からでも私と逃げない?」

 不意に降ってきた声に、寂しげなヴィリを見上げる。

「応えると思うか?」

「……思わないから、誘ってるの」

 涙が落ちてきてもおかしくない彼女の表情。

「心配するな。俺は死なないし、ヴィリも俺が守る女の子の中に入ってるから」

 そう伝えてヴィリの瞳と見つめ合う。

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