09
俺とヨークが同時に駆け出し、アレナが呪いの装備と呼ぶカオスオブカオスに乗っ取られたテイワズに挑む。
リ・ヤーウェの弓に切り替えられ、矢が同時に三本引き絞られる。
「ロル、俺の後に! 距離を詰める」
ヤツが前に出て、駆けながら魔法盾を構える。
スキルで一人でも肉薄出来るが、ヨークの指示に従って、後について走る。
接近する俺たちに向け、攻撃が放たれた。
矢を凌ぎきると盾が消失、次の矢が弓につがえられ、魔法盾を再び構築。
再びリ・ヤーウェの矢が、ヨークが構える盾を破壊。次の矢が、盾をーー
それを繰り返しある程度迫ったところで矢が放たれ、俺は残りの距離をヤツの上を飛び越えて挑む。
声を上げて飛びかかりながら、ロングソードを袈裟斬りに振り下ろす。
「やあぁあぁぁぁーーーーーーーっ!」
斬撃が相手が構えていた弓を真っ二つにし、使用不可能にする。
それで怯むか退くかするのは憧れたカオスオブカオスではなく、即反撃に着地して片膝をついたところに、義手の左拳が振り下ろされた。
盾をかざして受けるも、ほぼ真下に振り下ろされた衝撃が、ガン! と全身にかかる。
「ぐっ!」
魔法の盾にヒビが走り、ヨークがバスタードソードで、テイワズに斬りかかった。
しかし、振るわれた一撃は、横薙ぎに振り抜いた大剣に、易々と受け止められてしまう。
「ロル! 押し返すぞ!」
「当たり前だ!」
解りきっていることを言われ、しゃくに障りながらも、二人で操られているテイワズを押し返す。
「うあぁぁー!」
「うおぉぉー!」
それぞれイータエンドと拳を押し返し、勢いに乗せて相手を突き飛ばす。
俺の魔法盾は砕け散り、柄を握り直して追撃を試みる。
「アースニードル!」
俺の横を真っ直ぐ追い越し、床が割れて岩の棘が突き出し直進する。
そしてアースニードルを追いながら、ロングソードを振りかぶる。
床から生えて襲う攻撃を、テイワズは身体を捻りながら横へ足を運び、回りながら難なく躱して見せた。
そうだろうと避けた先に向け、リジルの加速を乗せたロングソードを斜めに振り切る。
完全にタイミングは悪くなかった。
けれど、相手も回避の時にした回転の遠心力を加えたイータエンドに受け止められてしまう。
勢いを乗せて攻撃をしたつもりが、今度は俺が押し負け、大剣を振り抜かれて飛ばされる。
入れ替わりにヨークが駆け込み、テイワズと斬り結ぶ。
足が地面に着いたら勢いを殺し、今度は側面から攻めるために回り込むように走り出す。
するとヤツがイータエンドに斬られ、蹴り飛ばされた。
ヨーク! 助け起こしに行くのは簡単だけれど、回復薬は持っているだろうし、ヴィリもいるので呪いの装備に向けて斬り込んだ。
挑発の範囲外まで飛ばされたヤツを助けに動いても、カオスオブカオスに追撃の隙を見せるだけで、下手になってしまう。
なら、攻め続けて注意を自分に向かせるしか無い。
アースニードルに沿って迫り、腕を一度引き前に押し出して刺突を放つ。
「やぁああぁぁーっ!」
声を上げて迫ると、大剣の側面で受け止められ、押し負けて再び弾かれてしまう。
空中で姿勢を整え、飛ばされた先のアースニードルを蹴りつけ、即座に戻りテイワズに斬りかかる。
技術、パワーと劣り、挑発のスキル下にあるのなら、もう速度で戦うしかない。
そして大剣に比べれば、多少取り回しの分があるロングソードで接近し、手数を増やす。
連続して剣撃を繰り返し、相手に攻撃の隙を生ませない。
しかし、そこで技術とパワーの違いが出てしまう。
義手の左手で振り下ろしたロングソードを掴まれ、イータエンドの反撃が首元目がけて薙がれた。
連続攻撃で雑になり、単調になってしまって読まれたのもあるだろう……悔しいがロングソードから手を離し、床を後に蹴って下がり風を切る一閃を躱す。
すると視界の端から、テイワズに向けて二度目のアースニードルが迫った。
見て取った俺は合わせて火球のスクロールを取り出し、封を解いて即座に巻物を広げる。
アースニードルと火球の二つの攻撃。
二方向から迫る攻撃に、呪いの装備は前進を選び、火球を斬り裂くため大剣を振り上げた。
瞬間、ヨークの発声が響く。
「エレクトリックショック!」
紫電が奔り、吸い込まれるようにテイワズに直撃する。
「あががががっ!?」
気持ち普段より強い気のする電撃に、テイワズが前のめりに膝を突く。
「ロル!」
目の前に生じた異変とヨークに呼ばれ、直感でその場を速やかに離れる。
大丈夫なのか不安はあったが、飽きるほど幾度となく見てきた魔法に、退避する以外の行動は無かった。
スタンから立ち上がりかける姿を振り返り、あの様子では後に下がるのは、二発のアースニードルで逆V字に退路を阻まれていて無理だろう。
もちろん、前に出て範囲から逃れようとすれば、押し留めるためにヤツが惜しみなくスクロールの魔法を浴びせるはずだ。
俺は範囲ギリギリで足を止めて振り返り、アレナが呪いの鎧に操られているテイワズに杖を向けて叫ぶ。
「バカへのお仕置きの時間だ! ヤバそうなカ所が出てきたら、ヴィリに治してもらえ!」
準備万端になり、彼女は声を張り上げる。
「バースト・ボルテックス!!」
パーティの中で破壊と言えばのイメージで定着している魔法が発動し、周りの空気もろとも幾つもの魔力の渦が呑み込んでいく。
「ちょおっ!? 待てって! はぁあ!」
身の回りの変化に気づいたテイワズが、凄く慌てた声を上げるが、それくらいで待ったり止めたりするアレナではない。
「うるさい! どこか千切れたり、もげそうになったら叫んでヴィリに頼みな!」
怒鳴り返した彼女の隣へ、ヴィリが進み出た。
「おい! ロル止めてくれ!」
助けを求められたが、二人の作戦がどうであれ、ここで手を打たないとパーティ全滅は目に浮かぶ。
そのため、横に首を振り出来ないと返す。
「ヨーク! これ滅茶苦茶怖いんだけど!」
呼ばれたヨークを見ると回復薬をあおり、全然心配する気配無く一息ついていた。
「大丈夫だ! ヴィリシラの回復魔法を信じろ!」
すると左腕のリ・ヤーウェの篭手が、渦の端に触れてに引き込まれ、メリメリと彼の腕から剥がされていく。
「あ! マズい! ヴィリ! 腕が! 腕腕!!」
必死に訴えると、彼女が離れた位置から腕輪のはまる手をかざし、治癒魔法をかける。
「ヒール!」
「目が目がぁ! 捩れるっていうか、潰れそう!」
「ヒール!」
時には渦同士が干渉して、変な捩れを見せて装備のプレートアーマーが無理矢理剥がされる。
「あああ! 脚が、脚がヤバい! 変な方向に力加わってる! 折れるって!」
「ヒール!」
すると急に声が聞こえなくなる。
「んぐぐんぐんぐっぐぐぐっんっ!」
アレナが杖を握ったまま、隣のヴィリに指示を出す。
「口らしい。ヴィリ、頼む」
「ええ、ヒール!」
静かに頷き、首まで捻られそうになったところ、治癒魔法をかけた。
胸のプレートが外れながら、テイワズの胴を引っ張ったり、呪いの鎧が外れている左腕が再び渦に呑まれたりする。
「何この拷問! 異世界ファンタジー的にグロい方なんじゃないかな! 止めようぜ?!」
非常に痛そうで気の毒だが、鑑定や浄化もせずに敵の装備を身に着けたのだから、その代償としては多少仕方ない。
着実に剥がされていくので、気の毒なだけでは止められなかった。
街であれば何らかの違った解呪方法があったかもしれないが、遺跡ダンジョンの中では、力ずくで引き剥がすのが一番シンプルだった。
そこでテイワズから、一際大きく切迫した悲鳴が聞こえた。
「あ、ぁぁあっ、嘘だろ! あそこが! ヤバい! 捻じ切られるみたいに、引き千切れそうだ! 早く頼む!」
男としては非常に切実なピンチに、アレナが冷たく言い放つ。
「ヴィリ、そこは治さなくていいぞ。魔力が無駄だし、去勢したら性格変わるかもしれないからな」
何の感情もこもらない、抑揚の無い指示にテイワズが抗議の声を上げた。
「はぁ、ふざけんな! 男のアイデンティティだぞ! 良いわけあるか! 身体についてるもんは何一つだって要らない物はないんだよ!」
「どうせアンタの体格からして、それデカくて臭いんでしょ? それなら臭う物が無くなった方が、ロルほどじゃなくても、モテるんじゃない? 汚いものなんて捨てちゃいなさいよ!」
「はぁ! 汚いわけあるか! 小さい頃から風呂の習慣あるから、毎日大衆浴場行って洗ってるんだぞ。むしろお前の握ってる杖より清潔だからな! 何なら確かめるか?!」
やはりアイデンティティ消失の剣幕に、同じくらいの殺意でアレナは答える。
「アタシの杖が汚いわけねーだろ! 見せたら殺すからな!」
「お前だって胸無くなったら困るだろうが!」
その必死の訴えに彼女は黙り、ため息と共に隣のヴィリを見やった。
「……分かったよ。ヴィリお願い。用をたすのに問題ない程度で良いからね」
アレナは嫌そうに承諾した。
そこからしばらく、必死の思いで鎧の破壊にまで成功し、呪いの装備とバースト・ボルテックスからも、テイワズが解放された。
「はぁはぁはぁ……何度体が捻れて死ぬかと思ったか……逆にアレを凌いだモンスターはトラウマになるぞ」
テイワズは装備を剥がされたインナー姿で、両手両膝を床に付き、ダラダラと冷や汗をかく。
その脇に屈み、彼の肩に手を置く。
「今回ばかりは自業自得としか言えないな」
ポンポンと軽く叩き、女神の方を振り返る。
女神は戦闘には介入せず、ずっと終わるのを見守っていた。
その女神がフィを目にして、不思議そうな声を上げる。
「あら? 貴方調子良く無さそうね。あら?あらあら?もしかしてネクロマンサー?」
「……」
フィはその言葉に否定も肯定も示さないが、ここが聖域と同じ効果があるのだとしたら、体調が悪そうな様子に一応の説明がつく。
それに女神が言うのだからそうなのだろうし、目の前の女神が嘘をつく必要性も無い。
ネクロマンサーイコール死霊使いと、この世界では上位のアンデッドのことを差す場合がある。
しかし、フィの様子から後者なのは明らかだった。
もちろん、人間にとっては疑問の余地無く討伐対象だ。
けれど、俺はパーティメンバーとして一緒に過ごした彼女を知っている。
「人に害を及ぼさない限り、ネクロマンサーだろうとフィはパーティの仲間だ」
自信を持って言い返すとフィの視線が俺に向き、続いてテイワズが胸を張って女神に言う。
「ああそうだ! ロルの言う通りだし、何よりも仲間がネクロマンサーなんてかっこいいじゃないか!」
アンデッドの武器や、敵の装備を手に取った時と同じテンションで、彼は拳を握った。
「それしか言えないアンタは黙ってなさいよ!」
ヨークは反対じゃないとフィに頷き、ヴィリがそっと調子の悪そうな彼女に寄り添った。
「もちろん、アタシだってフィの味方だぞ。神職じゃないし、見ての通り女神なんて大嫌いだからな」
アレナはフィに声をかけ、安心させるように微笑む。
パーティの絆が確かめられた雰囲気に、涼やかな声が割って入る。
「そっか。でも、あたし母親なんだから、そこまで嫌わなくても良いんじゃない? そこの黒髪の子を貴方から奪った訳じゃないんだしさ」
「は? 別にバカがどうなろうと構わないぞ。けどいくらバカだろうと、アンタには絶対に渡さないけど」
一度テイワズを見やり、女神に鼻で笑って返すアレナ。
全然言葉を聞いてないかのように、相手は首を傾けて娘に問いかける。
「でも、コレクションの一部を壊してくれたんだし、その子をくれても良いんじゃない? 欲しいわ。異世界から召喚された人間をコレクションに加えるのは三人目だったかしら?」
「!?」
異世界という言葉に隣を見やると、その俺のリアクションを見て取った女神が言う。
「だって貴方の名前、本名じゃないでしょ?」
するとテイワズは頭をかき、続けて頷く。
「まあこっち来た時に、頭に浮かんだ名前を適当に付けただけだからな。ファンタジー世界に日本名はダサいからさ。こっちに来たからには、前なんて思い出さずに没入したいじゃん」
何を言っているのかはともかく、偽名だったのは本当だと知る。
けれどテイワズが異世界人と聞いた時、アレナ、ヨーク、ヴィリは驚く反応を見せなかったので、召喚された人間だと薄々気付いていたのかもしれない。
「別に今はテイワズだし、拘った名前じゃないから由来とかのプレッシャーがなくて楽だぞ」
明るく打ち明けた彼。
「絶対渡さない。テイワズなんか欲しいなんて聞いたら、余計反抗したくなるじゃん。アンタが得になることなんて、一切やらせないから!」
アレナは女神を前にし、不適に微笑んだ。
すると、まるでやれやれといった諭すような口調が返ってくる。
「仕方ないな。お母さんの大事な物を壊した悪い子には、お仕置きが必要ね」
「はっ! 何をするか知らないけど、こんな時に母親面すんな。尻軽女神が」
アレナの口の悪い物言いに、相手はそっと目を閉じて口にする。
「別に浮気でも多情でもないわ。全員好きだし愛している。今もーー」
瞼を開けて胸の前で両手を握る。
「分かるなー、俺もヴィリは愛してるけど、皆も同じだけ好きなんだよな。個性それぞれ良いところがあって一人には選べない」
女神らしい姿に共感すると、不機嫌で刺々しいアレナの言葉が飛んでくる。
「ロルは分かるな。理解示すな。共感するな」
「……」
シンプルに睨まれて黙る。
「それにしても全く、貴方は面白いパーティにいるのね」
くすりと笑う女神は、フィを見て『ネクロマンサー』テイワズを見やり『異世界人』ヴィリを向いて『常時魅了のスキルが発動しちゃうのは大変ね。それをヴェールの魔道具で抑えているのねーー』と言う。
そして、ちらりと女神がこちらを見て微笑んだ。
「貴方には英雄になる素質があるわ。だから、英雄になったらいずれ」
言葉を切って、アレナを見下ろす。
「アレナ、生きてたらまた会いましょ」
「嫌なこった」
「もう、親にそんな態度とって、ちょっと重い罰をあげます」
言って軽く手を振ると遺跡ダンジョンが震え、大きく揺れ出し、天井や柱から歪んで圧力がかかり弾けた欠片が落ちてくる。
床も一部隆起して砕け、ヒビが走った。
「くそがー!」
アレナの叫びに顔を上げると、背にした後輪が広がり、その光の中に消えていく女神の姿。
明らかに遺跡ダンジョンの崩壊が始まった。
この空間に繋がる通路の入り口を振り返る。
「皆! とにかく走るぞ!」
ヴィリに駆け寄り、その頭を自身の腕で守る。
「ロル」
不安げにヴィリが見上げてきた。
また俺が命を落とさないか不安なのだろう。
「行こう」
彼女に力強く頷いてみせ、ロングソードは回収出来てないが仕方ない。全員の顔を見回す。
そうして脱出を計ろうとしたところ、崩壊する轟音の中、フィが普段聞かない大きな声を発した。
「皆! 集まって……わたしがネクロマンサーだって知っても、受け入れてくれた皆のために、今がんばりたい!」
フィの呼びかけに全員が、彼女の側に集まった。
「……アレナにお願いがあるの!」
「良いよ。何でも言いな!」
アレナも彼女の言葉に応じ、気合いを入れて頷く。
「……出来るだけ、魔法で壁を吹き飛ばして欲しい」
「得意分野じゃん!」
言って彼女はにかむ。
さっきまで女神を前にしていた表情とまるで違う。
「……ありがとう」
そしてアレナは頼まれてすぐ詠唱を始める。
「……ヨーク、皆が隠れるくらいの魔法の盾ーー」
「もちろん!」
時間が無いからか、ヤツは全部聞く前に了解した。
「……じゃあ、脱出しよう!」
フィが力を込めて言うと足元に影が広がり、そしてある形を作り床から這い出てきた。
彼女が呼び出したらしいものに見覚えがあり、力強く長い首や翼、尻尾が躍動しながら姿を現す。
「ワイバーン?」
隣のヴィリが不安げに囁く。
スタンピードの時の出来事が頭に蘇ったのだろう。
足元からワイバーンが出現したので、皆が背の上に乗った形になる。
「アタシたちの前に立ちはだかる全てに破壊をーーボルテックス・キャノン!!」
バースト・ボルテックスに近い大きさのボルテックス・キャノンが撃ち出され、飛んでいく先にある物全てを破壊していく。
「……皆掴まって!」
アレナの魔法を合図にフィが呼びかけ、皆ワイバーンの背で身体を屈める。
「……行って!」
彼女が指示を出すとワイバーンは力強く羽ばたき、ボルテックス・キャノンが穿つ方へと飛んだ。
誰よりも前で身を屈めるヨークが、フィの言葉を汲み取り、全員を覆う魔法盾をワイバーンの背に作り出す。
あらゆる破片が魔法盾により防がれ、魔力で出来た物なので前が見える。
するとテイワズが楽しげな声を上げた。
「最後崩壊する建物から脱出って、昔のゲームみたいだな」
緊張感に欠けた懲りた様子のない発言に、アレナが突っ込む。
「ゲームって何言ってるか知らないけど、とりあえずお前は舌噛んで死ね! でなければ、今すぐ降りろ!」
時期に彼女の魔法だけでは、遺跡ダンジョンからの脱出が無理そうな気配に、ワイバーンの歯列からメラメラと炎が覗く。
そしてボルテックス・キャノンが消滅したタイミングで、強力なブレスがワイバーンの口から放たれた。
岩を吹き飛ばして穴を開け、魔法盾が熱さやその他を遮る。
すると数秒もせず、炎のブレスが貫通し、前にだけ向き、視界が開けた。
新鮮でひんやりとした空気に包まれ、一瞬ブレスで暗い空が照らされて、雲に覆われているのが見て取れた。
眼下には夜に沈む黒い地面が広がっており、遺跡ダンジョンの脱出に成功する。
「フィ、ありがと」
お礼を彼女に伝えると、こくりと首肯が返ってきて、今度はヨークから質問が飛んだ。
「もう夜だけど、今の爆発で人が集まるだろうから、ワイバーンで降りたら目立つし、雲の上を飛んで身を隠し、離れたところに下りないか?」
確かに遺跡ダンジョンの内側から爆発が起きたのだし、崩壊もしているので追求されて面倒くさいことになるのは確かだった。
女神を祀る聖地でもあるので。
「ロル、どうする?」
ここはリーダーの指示を、ということなのだろう。
ヨークから確認を求められ、チラリとアレナと目が合った。
すると彼女はフィに質問をする。
「フィ、このままアタシたちの街に戻ることは出来る?」
とりあえず雲の上までワイバーンを誘導したフィは振り返る。
「……出来る。最速で一日くらいだと思う」
その答えを聞いたアレナは、希望を口にした。
「アタシ、女神なんか敬う街になんかもう戻りたくないんだけど?」
一応皆を見回し、異論が無いことを確かめる。
「とりあえず、ワイバーンが降りる時に人目につかなければ」
ヨークが注意点として要望を上げるくらいで、隣のヴィリも頷いてくれる。
遺跡ダンジョンでは宝物やアイテムなどの入手はないが、護衛依頼の報酬があるので、今回の戦闘で消費を考えればギリ黒だろう。
インナー姿のテイワズ以外。
「そうだな。どうせだからこのままワイバーンで街へ帰ろう!」
そう宣言するとワイバーンの背がが傾き、自分たちの街へ向けて羽ばたいた。
帰ったらまずヴィリと眠り、鍛冶屋でチリに武器を失ったことを謝って新しい物をお願いしよう。
武器どころか装備まで失ったテイワズに比べれば、ずいぶんマシではある。
それからギルドの受け付けでアラサに帰って来た報告をし、酒場でウチカに会い、花屋のイロハに部屋に飾る花を選んでもらおう。
しかも今回の遠征は気分転換に軽い気持ちで出てきたけれど、思いの外色々なことが起き、パーティメンバーの色々なことが明かされ、今後も楽しみしかなかった。
とりあえずヤツに何を言われても良いから、生き残った記念にヴェールから覗く顎に指をかける。
「ヴィリ」
そう呼びかけて空いた片手を後頭部に添え、顎から白いヴェールを押し上げて顔を近づけた。