3−4 勇者②
モモからハーブティーが美味しかったと手紙が返ってきて、追記で近々、家に大坂で知り合った人が行くと思うという記載があった。
要約すると美味しかったと書いてあったが改善点も多く記載されており、更にはお茶を作るための道具を複数個買ったことについてのお叱りがコンコンと記載されていた。
今度は余計なことを書かないようにしようと、エリゼちゃんと認識を合わせた。
そんな手紙が届いて1週間くらい経過した日に大福が困り顔で1人の男を連れてきた。
黒髪のイケメン、誰だこいつ。
「お義父さん、こんにちは、解析の勇者の石川 聡介です! キリッ」
なんだ、こいつ。解析の勇者? お義父さんってどういうこと?
「突然の訪問になってすいません、王坂でお嬢さんと共同作業をしましてねっ!」
ウザいやつだな。モモがこんな変な勇者に引っかかるはずないじゃないか。
モモからの紹介状も持っていたので、中身を見てみると案の定、少し頭がおかしいことや、言動についての文句が書かれており、最終的には街の人達を救うことができ、基本的には悪人ではないことが書かれていた。
「まずはそのお義父さんって言うのはやめてくれ叩き出すぞ」
「そんなー、同じ日本人っすよね? 仲良くしましょう!」
なんだこの後輩ノリは、俺よりも年下、同じ時期に転移してきてるなら当時は高校生とかだったんだろうか。
「日本にある家みたいだ! なんか広い土地持った農家って感じの家っすね! おお、なんかじいちゃん達の家を思い出す! おおおおお! 可愛いツナギ姿の美少女発見!」
動物達の世話をしている途中に異変を感じて戻ってきた、エリゼちゃんがたじろいでいる。
あ、殴られた。面白い奴だ。
「おかしいなー、これでも俺、結構持てるんですけどね」
「うちの子らは警戒心が強いんだよ」
「ツンデレちゃんはもしかして、悠さんのお嫁さんでした?」
「違います! 私はモモのお姉ちゃんです! それにツンデレってなんですか」
「ってことは悠さんの娘さんなんだ」
ケロッと、サラッと言ってくれた。
モモにはお姉ちゃんと呼べというが、俺のことはパパ、お父さん、ダディとも言わず名前呼びなので、預かっている親戚の子の感覚ではあった。
エリゼちゃんがなんと言うか困っているので、俺もサラッと宣言しておこう。
「そうだな、俺のもう1人の娘だよ」
「そうだったんすねー、俺の嫁も同じくらいの歳しか離れてないから、嫁なのかと思いました」
「あまりにも下は娘がいると守備範囲外になるもんだぞ」
「そういうのはまともに結婚して子供作ってから言ってくださいよ」
ガハハと笑いながら会話が弾む。お義父さんとか初手言われたけど、案外悪いやつではないのかもしれない。
「俺の名前は知ってるみたいだけど、最上悠だ。改めてよろしくな」
「ういっす」
家の中を案内した時もテンション高く、トイレのウォシュレットには大層喜んでいた。
解析には時間がかかるようだがまずはトレイを解析していた。重要だよねトイレ。
今は旅の疲れを癒すのにお風呂を案内し、入ってもらっている。
「なんだか勇者って聞いてたので真面目な人だと思ったけど、変な人ね」
「そうだな、なんか後輩っぽくて俺は可愛がりがいがある奴だと思ったけど」
「そういうもんなんですか? 私にはよくわからない」
適温の油を用意して、切った野菜やお肉に卵、小麦粉、パン粉をつけて揚げていく。本日は串揚げだ。
なんだか、娘だよって宣言した辺りからエリゼちゃんがソワソワしている気がする。唐突だったし嫌だったのだろうか。
「さっきはさ、娘だなんて紹介してごめんね。でも俺にとってはエリゼちゃんももう家族みたいなもんだし、娘同然なんだ。無理なく今まで通りに接してくれていいからさ」
「……ありがとう。嬉しかった、です。その、娘って言ってもらえて」
あれ? エリゼちゃんが可愛いぞ?
「パパって呼んでもいいからね」
「考えておきます」
恥ずかしがり屋さんめっ!
「いい風呂だったああああ!」
上半身裸で腰にはバスタオルを巻いた変態が現れた。
「おい、年頃の娘もいるんだ。少しは隠せよ」
「いやいや、俺のことはお兄ちゃんとでも思ってくれていいからね! エリゼ!」
バチコーンとウィンクを決めていたが、エリゼちゃんはゲンナリとしていた。
勝手に冷蔵庫を漁ると、牛乳を取り出して一気飲みし始める。自由な奴だな。
「この牛乳もうまぁああ! 兄貴! ここに住みてぇ!」
「誰が兄貴だ。客としてくるのはたまにはいいがお前にはお役目もあるんだろ? それにうちの姉さんが絶対に許さんって目で見てるぞ」
「姉さん?」
怖い黒猫の姉が不審者を警戒するような眼差しで見ている。
今にも高速猫パンチが飛んできそうだ。
「黒猫だ! テラ可愛い! うぉおお美人!」
「にゃーん」
「うぉおお! 喋った、たまには来てもいいんですか? アザーっす!」
こいつ人の懐に入るのが上手いな、住むのはダメだが遊びに来るくらいならいいぞですか。
美人って言われて姉さんもまんざらではない。
その後、聡介は用意していたジャージに着替えると、今度は秋田犬可愛いと大福をリビングでモフっていた。
「串揚げできたぞ。今日はもてなすが、明日から解析する間にも滞在するなら働いてもらうからな」
「任せてください! 串揚げとか美味そう! 二度付は禁止って奴ですよね」
わかってるじゃないか。
肉も美味いがうちは野菜も絶品だからな。
まずは玉ねぎを口にした、聡介が固まって、泣き出してしまった。
「おい、大丈夫か? 嫌いだったか玉ねぎ」
「違います。上手くて、土日の部活終わって友達と串揚げの食べ放題にも行ったなぁって、日本で食ったの思いだしちゃって」
そうか、俺は親友と呼べるほどの友達も家族も姉さん以外は誰もいなくなってしまったけど、こいつは楽しい盛りの高校生で、しかも1人で異世界に連れて来られたんだもんな。
「腹一杯になるまで食えよ。追加でいくらでも上げてやるからな! 白米もうちのは美味いぞ!」
「あざっす!」




