2−34 いってきます!
モモが旅立つ。自分にできることはした。
この辺でとれた魔物の皮などを妖精さんを雇用して鞄やマントにしてもらったり、革鎧を作ってもらったり。
普段着などはショッピングサイトで購入できるものが機能性に優れているが、いざ外に出るとなれば現代のアウトドアグッズなどより、この世界で作られた製品の物の方が優秀だ。
あとはさくらさんからもらったというショートソード、弓などをモモが調整したり磨いたりしている。
「お父さん、今日はさ、一緒に寝てもいいかな?」
「も、もちろんだよ!」
途中から親離れしてしまったモモが一緒に……恥ずかしがって寝てくれなかったのに、パパ嬉しいよ。
俺はモモが旅立つことを覚悟し、受け入れたと言うのに受け入れることができない連中がいる。
「モー!」
「コケー!」
「メェー」
「わん!」
そう、動物達である。モモが出ていくと話した日から抗議活動が始まっている。
モモ直伝の俺やエリゼちゃんのブラッシング気に入らないと言うわけではないが、モモのテクニックが凄すぎて今更、長期間不在になるのが嫌だと抗議をしているのだ。
動物達はともかく。おい、そこの聖獣。なんでお前まで抗議活動に混じってるんだよ。
「わーん」
可愛らしくモモにお腹を見せて甘える作戦に切り替えたりもしているが、モモに説得もとい、怒られたりしている。
「大福様、一生いなくなるわけでないんですから、数年、私達にとって一瞬で帰ってきますよ。だからお父さんと待っててください」
モモが動物達や大福としっかり向き合ってくれたおかげで、モモが旅立つ前には収拾がついた。
あの子の人気は恐るべきものがあるな。
「お父さん、今日はおねだりしてもいいかな?」
「なんでも言ってくれ」
モモの要望は意外なもので、夕食に並んだ食事を見てエリゼちゃんがキョトンとしていた。
「お粥? でもパンかこれは?」
「ミルクパン粥ですよ。お父さんが初めてここに来た私に振舞ってくれた思い出の品なんです」
「そうなのか。うん、美味い!」
「旅立ち前の夕食がこんな質素な物でいいのか?」
「うん。これがいいの」
来たばかりのモモは今よりも小さくて、今だって可愛いけど、可愛いのベクトルが少し違ってよかったなぁ。一緒にお風呂入ったり、寝たり、娘が大きくなるとは寂しい反面、嬉しいな。
特別ではないいつもと変わらない食事、会話、自然体だ。しんみりなんてしてない。
俺は泣かないと決めているのだ。
モモがお風呂に入っている間にモモの布団を俺の布団の横に並べる。
エリゼちゃんには旅立ち前にモモを一人いじめしてごめんねと話したら、私はお姉ちゃんだから我慢できると、謎の解答をもらったが気をつかってくれたんだろう。
お風呂上がりのモモにその話をしたら、この1週間、毎回布団に入ってきて元気でねって泣いてましたからねとのことだ。お姉ちゃんは涙脆なぁ。
今日は大福も俺の部屋にきてモモの横で丸くなる。部屋が別々になってから姉さんと2人で寝るのが当たり前だったから懐かしさを感じる。
電気を消して真っ暗にする。少し時間が経って、眠れずにいるとモモが布団に潜り込んでくる。
頭を撫でてやる。小さい時に1枚の布団で収まっていたのにもう無理だな。
「でかくなったな」
「ふふ、そうだね。最初の頃なら1枚で収まってたのに」
「俺も同じこと考えてたよ」
2人で笑っていると、姉さんと大福が間に割り込んでくる。この幸せなギュウギュウ感。
「お姉ちゃんも大福様も狭いです。でも暖かい」
「にゃーん」
「帰ってくるときは彼氏ですか?」
「そんなに早く連れてこなくていいからね」
「神様の彼氏みたいな人は捕まえてこないようにしますね」
「冗談でもやめてくれ。失神しそうになる」
たわいない馬鹿話をして、寂しいねなんて話をせず、自然体で眠ることができた。
いつも通りの朝、普段と変わりない朝食。
普段と違うのはモモの服装と向かう先だ。
軽装すぎても道中怪しまれるので、大きなバックパックに腰には剣、弓はバック下げ、すぐ取り出せるような物、薬草などを腰につけたポーチに入れて準備は万端。
玄関を出て森の中に入るギリギリまで家族一同、動物達も含めてついていく。
モモだけ最後に先に進み振り返る。大丈夫、お互いに泣いてなんていない。
「お父さん、皆んな、見送りありがとう。ここまでで大丈夫です」
「道中、気をつけてな」
「お姉ちゃんにも手紙書いてな」
「わかってます。お姉ちゃんもお父さんがお酒飲みすぎたり、寝坊しないように、見ていてくださいね」
「ん! お姉ちゃんに任せろ!」
エリゼちゃんが喜んどる。本当に叩いて起こされそうだから、早起きを心がけよう。
「では、いってきます」
「いってらっしゃい」
いい笑顔だったな。モモがもう見えなくなってしまった。
「にゃーん」
「これは嬉涙ですよ」




