2−17 名前
何やら小さい手にペシペシと叩かれて目が覚める。
「おきてー」
「じいじ」
天使が2人、男衆を起こしにきてくれたようだ。部屋割りとしてモモの部屋には女性と子供、俺の部屋には男3人で別れて寝ていたが、女性陣は既に起きているようだ。
昨日は晩酌で少し盛り上がりすぎたせいかまだ頭が痛い。
頭の痛さを冷たい水で誤魔化して、顔を洗いなんとか目を覚まし、リビングで朝食を食べてガンジュさん達に手伝ってもらいながら畑仕事や、動物達の世話を済ます。
人数が多いおかげもあり、作業はすぐに完了した。余った時間で昨日の勉強会で得た知識の確認という意味も込めてモモ、エリゼちゃん、ルイさん、大福で結界外に少し出かけてくることになった。
「心配しなくても大福様がいれば問題ないさ」
ガンジュさんはあっさり言うけど、大丈夫なのかな。
狩りメンバーを見送って、手持ち無沙汰になってしまった。
「解体の腕が鈍ってないか見てやろう」
「腕は逆に上がってますよ? そうだ、今日の夜ご飯用のお肉の準備手伝ってくださいよ」
天使達は母親と一緒に動物達が放牧されているスペースで遊んでおいてもらう。姉さんも火の鶏もピーちゃんもいるし、怪我をすることはないだろう。
今日の夜ご飯用に牛っぽい在庫を解体し、できるだけ肉を薄くスライスしていく。
「厚みがないのだが問題ないのか?」
「そうですね」
「そうなのか……」
厚みがない肉を俺に習って、量産していくが厚みがない点についてどこか残念そうなガンジュさん。
昨日のトンカツを気に入ってくれてたもんね。
「今日のご飯も気に入ってもらえる自信はあるので期待してください」
「すまないな、もてなしてもらってばかりで」
「ガンジュさんにはこの世界にきて色々教えてもらった恩もありますし、親戚みたいな親近感を勝手に覚えているんです」
ガンジュさんが少し照れてしまい、少し頷いて頬をポリポリとかいている。
可愛い一面もある人だ。
切り終えた肉を冷蔵庫に詰め込み、朝に女性陣が仕込んでくれたサンドウィッチを持って、姉さん達と合流する。
草原で牛に寄りかかって天使が寝ており、挟むようにして奥さんと姉さんが子供を見守っている。赤と白の布団かと思ったが、火の鶏とピーちゃんが布団代わりになっていた。
「お昼ですけど大丈夫そうですか」
「にゃーん」
子供達が鼻をひくつかせて、目を覚ます。俺達の会話ではなく、サンドウィッチに挟まれたカツに反応したのだろうか。
ござを広げて、皆んなでサンドウィッチを食べる。美味しそうに食べる子供達を見ているだけで本当に飽きないなぁ。
「にゃーん」
「子供達の名前を大福に決めてほしいですか?」
「アントワーネ、杏殿に話したのか?」
「にゃーん」
奥さんが耳を下げて反省しているが、姉さんが自分が聞いたことだと庇っている。
なんでも、獣人達からは神様のように崇められる大福に名前を決めてもらえれば嬉しいなくらいの気持ちがあったようだで、ガンジュさんには望みすぎるのは不敬であると止められていたとのことだ。
俺達からすれば大福は白くて可愛いただの秋田犬ではあるんだけど、彼らからすれば違う存在なんだもんなぁ。
大福は頼めば考えてくれるとは思うけど、軽く受けすぎるのも問題かな。
「とりあえずは大福が帰って来てから聞いてみましょう。世間話の一環だったんでしょうし、怒らないであげてください」
「にゃーん」
「2人がそう言うのであれば」
名前はガンジュさん達のルールからすれば決めるのはまだ早いのかもしれないけどこの機会にって感じで奥さんなのか夫婦なのか考えたのかな。
お昼ご飯を食べ終えてクラフトしたフリスビーを投げて口でキャッチするという、本人達の希望ではあるが、犬と飼い主のような遊びに子供達と興じていると、投げたフリスビーを横から現れた白い毛玉が掻っ攫っていく。
「わん!」
「大福、お前子供の玩具を取るんじゃありません」
「ただいまー!」
「お父さん、ただいま」
エリゼちゃんが子供の1人を持ち上げてモフモフしながら、帰宅のお知らせをする。モモも抱き上げると、控え目にモフモフする。
「おかえり。手洗ってお風呂にも先に入っちゃってねー」
「お姉ちゃんと一緒に入ろうか!」
「大福様も皆んな一緒に入っちゃいましょうか」
エリゼちゃんは誰よりも天使達にメロメロだな。
モモの提案で奥さん含めて、男メンバーを除いて皆んなでお風呂に入ることになった。
子供らは一応は男の子のようだけど年齢的にノーカウンである。
「それでは残った大人で夕食の用意をしましょう」
ガンジュさんもルイさんも包丁というかナイフの扱いは上手なので、台所に入ってもらい食材を切る方をメインで行なってもらう。
白菜、豆腐、ネギ、にんじん、をいい感じの大きさにカットしてもらい、白滝や椎茸は別途購入する。
「2人共、料理の手伝いしてもらってありがとうございます。家でもよくやってるんですか?」
「料理は嫌いではないので、休日など余裕があれば手伝いをすることはあるが稀だな。時間がそもそもない」
「ガンジュさんはお偉いさんで忙しいですもんねー。ルイさんもやっぱり忙しくてそれどころではないって感じですか?」
「冒険者時代には交代で料理もしていたし、嫌いではないですが、親父と同じくといった感じです。基本は嫁や家人任せです」
言ってみたいなー嫁任せとか。昨日は嫁任せすぎて、子供のご飯について姉さんに怒られてはいたけど、そういった習慣がないってだけで悪気はなかったのだろう。
そもそもいいとこの家だし、子供の面倒を手伝ってくれるような人もいるんだろうな。
「それで悠殿、今夜の食事はなんですか? 大量の野菜に薄い肉。それに卵がありますが、鍋かスープですか?」
ルイさんが期待からか、尻尾をブンブンと振り回している。
「ふふふ、鍋ではありますね。すき焼きっていう料理ですよ!」




