2−16 勉強会
殴り合いの喧嘩に発展してしまうかと思ったが、エリゼちゃんがノートとペンを持ってくると、ルイさんに怒涛の質問をし始める。
いつの間にかモモもそれに参加して勉強会みたいな流れになってしまった。ちゃぶ台はルイさん、モモとエリゼちゃんに占領されてしまったので変わってソファに移動して、子供達を可愛がる。フアフアの毛、撫でていると指を甘噛みしてくる。歯が痒いのかな可愛い。
「燻製肉とか食べますか?」
「はい、固形物ももう食べれます」
奥さんに許可をもらって、小さく千切った肉を渡すとガジガジと懸命に噛む姿がまた可愛い。
奥さんとガンジュさんも食べたそうにジッと見てくるので、台所から持ってくると、何故か勉強会をしていたメンバーまでも筆を止めてこちらを見てくるので、結局人数分の肉を出した。
夜ご飯大丈夫なのかね。肉を齧りながら勉強、討論会をしているのは実にシュールだ。
「ルイには良い刺激になっているようでよかった。アントワーネは元々、人間の村で農奴として暮らしていてな。ルイが冒険者をしていた時に借金を全て肩代わりして連れてきたのだ」
なるほど、その時に色々なことを見聞きして、実情を見たからこその憤りがあるのか。
怖い世界だ。俺は自分本位な人間だから、可哀想だとは思うけどそれをなんとかしようとか、助け出そうとか、自分が巻き込まれたどうしようとか怖くて考えられない。
「前にも言ったがな、これはこの世界の問題だ。悠が抱え込むものでも自分を卑下することでもない」
「そう言っていただけると、正直、心が軽くはなります」
「お前に提供してもらった種関連だけでも非常に助かっているよ。ただ、これから先に俺に何かあってもできる範囲でいい、この子らのことを助けてやってほしい」
「死亡フラグ立てないでくださいよ。俺にできることなら手助けはしていくつもりです」
ガンジュさんがそう簡単に死にはしないがなと、鋭い牙を見せながら大笑いをする。
小さい肉を食べ終えて、満足していないのか俺の指をしゃぶる2人の天使。勉強会は終わる気配もないし、ご飯の用意をするか。
このメンバーなら肉肉しい物がいいだろうな……バーベキューか? いやただ肉を焼くだけというのもなぁ。あれはあれはワイワイできて楽しいんだけどさ。うん、決めた今日は黄金色に輝くアレにしよう。
料理するのを手伝いを含めて見たいというので、奥さんを連れて台所に入る。
簡単な切る作業から手伝ってもらう、まずはレモン、キャベツを切る。それにトマトなどをつけ合わせてに用意する。
厚めの肉を叩いてもらう、その間に小麦粉、パン粉と溶き卵を用意しておき、油で揚げるために適温になるまで温める。
「卵やパン粉、現状では確保が難しいですけど、用意する物自体は思ったよりもシンプルなんですね」
「卵とか小麦粉とかも安定して収穫できるようになればいいですね。俺のいた世界では一種の縁起物? でもあるんですよ」
小麦粉、溶き卵、パン粉の順番に肉に装飾を施す。美しい宝石を身にまといなんていう、オシャレな表現をしてみる。
油の中に落とされた肉と衣がいい音をさせる。くー! 美味そうだぜ!
ソーズさん達がいた時も出して好評だったし、ガンジュさんの口に合うといいんだけど。
「ほらほら、勉強している連中はテーブルを片付けなねー。夕ご飯だよ」
「今日はトンカツなんだ! エリゼさん、ルイさんも片付けますよ」
モモがご機嫌で、テーブルを率先して片付けてくれる。
エリゼちゃんとルイさんは目を輝かせながら置かれた黄金色の宝石を眺めている。
「悠、これは噂のトンカツか?」
「噂の? まぁトンカツですね」
「クルークのやつが自慢してな。食べたいと思っていたのだ」
「ガンジュさんがいた時よりも環境はかなり良くなってますから、前以上にご飯は期待してくれていいですよ」
天使2人がキャッキャと父親に習ってテーブルに置かれたトンカツを見つめる。
母親からまだ食べてはダメですよと釘を刺されて、近距離で匂いを嗅ぐことにとどめていた。
テーブルが少し狭いな、流石に大人3人に子供2人の増加には1枚のテーブルでは対応できないか。こんな時も便利なクラフトをしようして、もう1枚テーブルを用意する。子供達の様子を見れるようにガンジュさん一家と我が家の面々でテーブルを分けることにした。
「にゃーん」
「「いただきます」」
「いただきます?」
姉さんの号令で夕食が始まる。俺達に習っていただきますとルイさん達が声に出す。ガンジュさんは前回の食事で慣れたものだろう。
ガンジュさん達一家のテーブルでは俺達以上にザクザクといい音が鳴り響く。大福とか姉さんの咀嚼音もいいけど、獣人の咀嚼音もいい音だな。個人的には姉さんのカリカリを食べる音が好きでずっと聴いてられる。姉さんは嫌がるけどね。
「このトンカツって美味いわね!」
「エリゼさん、美味しいですね。です」
「美味しいですわ!」
エリゼちゃんが言葉遣いを注意されて、ふざけているが美味しそうに食べてくれて何よりだ。
「勝負事の時に勝つために食べたりする縁起ものらしいです」
天使達にトンカツを食べさせながら、俺が教えた話を奥さんがしている。
ガンジュさん達は話半分にカツをがっついている。獣人も男社会で亭主関白なところもあるのだろうか、奥さんが1人で子供の面倒を見て大変そうだな。手を出していいものか。
「にゃーん」
姉さんがガンジュ一家の食卓に乱入すると、男2名の箸を取り上げて、子供が先だと面倒を見るように怒られていた。
俺も同じように怒られないように気をつけよう。




