2−15 憤り
世間話を進めている内に女性陣と子供、男性陣で陣形が分かれてしまい、ますますお子様達を抱っこできる雰囲気ではなくなってしまった。
ソファーの上にはモモとエリゼちゃん、姉さんとお嫁さんに子供達がキャッキャしている。姉さんの尻尾にあやされてあうあうしている子供が可愛すぎる。動画撮りたいよー!
ちゃぶ台周りにはむさ苦しい男と白いモフモフが俺の膝まくらで寝そべっているだけだ。
「それで今回は突然どうされたんですか?」
「悪いな、驚かせるつもりだったのだ」
「こういうサプライズなら歓迎ですよ」
「大福様の毛のお守りのおかげで安全な旅路だったよ。家族の紹介をしたかったのもあるんだ、今後俺も更に忙しくなりそうでな。中央にいる時間が長くなってなかなか来れる機会もなくなりそうでな」
「そうなんですか。それは残念ですけど、そもそもガンジュさん、地位が高いこと隠してたの聞いてないですよ!」
「悪かった、地位をひけらかすのはどうかと思ってな」
ガンジュさんらしいと言えばらしい。
「近況の報告と、緊急時に何かあった時に、ドナルド達以外にも信頼できる顔見知りを作っておければとな。それと孫自慢もしたかった」
「それはそれは、めちゃくちゃ羨ましいですよ。お孫さんも可愛いし」
後で絶対に抱っこさせてもらおう。なんらな木のおもちゃとかをクラフトで作って、ご機嫌を取ろう。
「近況と言えば、クルークさん達がきた時には、野菜関連は順調みたいな話を聞きましたがどうなんですか?」
「本当に悠のおかげだよ。安定して育てられる地域や環境を見つけて、それぞれの土地に適した野菜を育て始めている」
「それはよかったです。前にもらった手紙だとソーズさんが無事、水面化で同盟の話も進んでいると聞いてますけど」
「ああ、接触については諸々完了している。帝国の勇者の招待を含めて順調に進んでいる。あとは帝国の跡目争いと王国関連がソード辺境伯を中心に話がまとまればという2点だ」
「父上、俺はソードの家も含めてこれ以上人種に歩み寄ろうとするのは反対です」
おっと、ここでソードさんの家の話が出てくるのはちょっとまずいか。このタイミングでする話でなかったかな。
それに息子さんは人間があまりお好きではない内容で、ガンジュさんもまたかと言うように疲れ切ったため息を吐く。過激派な息子さんなのだろうか、あとはエリゼちゃんが反応しなければいいかが。
「そのソード辺境伯との話とはどんな話なの?」
案の定、エリゼちゃんが反応してしまった。ガンジュさんが話てもよいのだろうか、アイコンタクトを俺に向けてくる。
答えとしては当然、ノーである。
「関係のない大人の話に無闇に首を突っ込むものではないですよ。私の部屋に移動しましょう」
後でエリゼちゃんには話た方がいいかもしれないけど、今は話がややこしくなりそうだ。モモよ、助け舟を出してくれてありがとう。
「関係ないなんてことはないでしょ。私の父親だった人の話だもの、気にはなるわ」
おっと、ルイさんがエリゼちゃんを睨みつけている。ちょっと和やかな始まりだったのに喧嘩とかやめてよ!
ガンジュさんもまさかと驚いて、俺に視線を向けてくる。
「お前、貴族のとこの娘か」
「私は元貴族よ」
ルイさんも元という部分に何かを察したようだが言葉を続ける。
「今は世界中が食糧難だ。父上達は全体で助け合うべきだと、ある程度信用できるソード家を窓口に王国にも作物を育てるノウハウを広げようとしている」
「それは素晴らしいことだと思うわ。なんで貴方はそれに反対なの?」
「奴らは建国の理念に沿って奴隷はいないと言うが、実際には俺達亜人には特別な税をかけて差別し、農奴と言いながら奴隷扱いしている。それはお前の父親だったソードの連中も一緒だ、俺達を物扱いしている。そんな連中を助けるのは反対だ」
「ルイ、やめないか! 許しがあるまで喋るなと言っただろうが。すまない、悠。見ての通り頭が固い奴でな、お前に会って話せば少しは柔軟な考えができるかもしれないと連れてきたのだ」
ガンジュさんが特別、柔軟な人だもんなぁ。それでもルイさんがそこまで頑なになるのも何か理由があるのだろうか。
「あはは、思うところはあるかもしれないですが、ここは一度穏便に」
「私は勉強したはわ! 王国では奴隷は禁止されていて、借金があったり、移住してきた者は農奴の扱いから始めるけど、決まった労働を行えば賃金が出て、契約上の金額を返済すれば国民の扱いになるって」
「それが守られていない。形式上だけで、様々な税や働もしない乳飲み子にも税をかける。裁量も村や町単位に任せていたりとめちゃくちゃだ。単純に金のかからない奴隷、労働力が欲しいだけだ」
この国のルール的なことをさくらさんに触りだけ聞いたことはあったけど、ルールがあってもそれを利用する連中が腐っているのはどのこ世界も一緒ということか。それにしても話が重すぎるよ。
「それは全ての村や町で、行われていることなの?」
「そう−−」
「−−それは違う。ソード領など含めてまともに運営されている場所もある。見えない部分で悪さをする連中もいるということだ。ルイ、なんでも拡大解釈をするな」
ルイさんにガンジュさんがコンコンと説教を始めてしまう。
エリゼちゃんはショックを受けてないだろうか。いや、なんかブツブツと呟いている。
「その話、もっと詳しく聞かせて! 本にはない知識だわ」
人間という括りでエリゼちゃんにも嫌味を言ったつもりなのに、なにこいつみたいな感じでルイくんが若干引いてる。
「私は色々なことを間違ったから、だから知りたいの!」
ルイさんにグイグイと近づいて、エリゼちゃんが目の前に座ってしまう。
「ルイ、その少女に教わったな。お前は日頃から人間を愚かで欲深いというがどうだ? そういう人がいるというだけで、それは我々も同じだ。全てが同じなんてことはない」
ルイさんの耳が垂れ下がる。反論の余地がないようだ。本来は俺の役回りだったのだろうか?
「一括りにして悪かった」
「ん? 気にすることはないわ! 私だって貴方達のことを農奴で穢らわしいって一括りにしていたもの!」
満面の笑顔で言うことじゃねぇ! ガンジュさんの笑顔も引き攣っているし、ルイさんは今にも怒り出しそうじゃないか。




