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家庭菜園物語  作者: コンビニ
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2−9 重苦しい晩酌

 どれも美味いと姉さんとさくらさんが喜んでパクついてくれる。和やかな始まりであるがどのタイミングでエリゼちゃんのことを切り出すべきか。

 さくらさんのことだから面白がって自分からは切り出してこないだろうし、これからの展開がどうなるか非常に不安ではある。


「それでさくらさん、エリゼちゃんの事を詳しく聞きたいのですが」

「あん? そう言えばそうだったな。簡単な報告しかしていなかったしなー、このチーズ巻き美味いな」


 この人は真面目に話す気があるのだろうか? いや、ただふざけているだか。


「さくらさん、廃嫡とか死亡とかってどうなってるんですか?」

「まったく、早い男は嫌われるぞ」

「そういう定番なセリフはいいので、詳しい話を聞かせてください」

「言葉の通りでがあるんだがなー」

「根本的なとこなんですけど、エリゼちゃんは帰ることができるんですか?」


 さくらさんがうーんと、あたかも考えていますみたいなポーズをするが、燻製肉を噛むとビールを一気する。実際にはさほど考えてないのがありありと伝わってくる。


「帰ることだけならできるな」

「断片的なことではなくてです」

「私の口添えもあれば帰ることはできるだろうが、成人を待たずして殺されてしまうだろうな」

「あの子は、大人達の権力闘争に巻き込まれた感じなんですか?」

「一部は合っているが、違う側面もあるな。成る可くしてなったかな」


 さくらさんが面倒臭そうに説明してくれたのは、エリゼちゃんを傀儡にしようとした家臣の暗躍、領地のことを考えて姉を切り捨てた弟の話、その2つの事柄を黙認していた親の話。話が重いんだよ。

 

「あの娘にも同情する余地はあるが、結果的にはメイドの顔を傷物にしたり、無知が故に多くの者を不幸にしたのは変わらんさ」

「そうですね……大人の都合に巻き込まれたとはいえ、結果から見ればそうですからね」

「国を守ることは領民を守ることに繋がる。親としてどうかとは思うが、ソードくんがしていることはあの娘を当て馬にする結果とはなったが強く正しい判断ができる次期当主を生んだ。これも結果に言えば貴族としては正しい選択になっている、またはその選択をせざる負えないのが現状の世界なのかもしれない」


 微妙そう顔をしてビールを啜る表情からして全て納得している訳ではないのかも。

 子供や多くの王様、貴族の面倒を見たからこそ、現状の廃れた世界に不満を持っているのか。エリゼちゃんに対して憤りを感じるあたり、性根は優しい人なんだろう。


「おい、その生やさしい目をやめろ。小僧の癖に」

「小僧は関係ないですよ。それでこれからのエリゼちゃんの処遇をどうするかですが」

「お前のことだから直ぐに引き取るとか言い出すかと思ったが」

「結局のところ選ぶのは彼女ですから、安易に選択肢を狭めたくはないんですよ。どうやってこのヘビーな話をするのか困りますけど、最終的に彼女が家に帰るというのであればできる範囲のことをしてあげたいと思ってはいます」


 家で引き取るというか、ここだって彼女がずっといるべき場所ではないと思う。いずれ外に出てって考えればある程度、外で生活をできるように力を貸すのが1つ、家に帰りたいというなら、さくらさんの権力を使ってゴリ押してもらうとか?

 現実的ではないかー。あとはガンジュさんに話を通して王坂とかで生活をするとか。うーん、そもそも生活力がないし、あのままではガンジュさんに迷惑をかけてしまいそうだ。


「選べる選択肢も現状ではほぼないだろうな。帝国の孤児院にでも投げるか?」

「それはあんまりでは……」

「にゃーん」


 まずは自分のいる現状を知るべきですか。13歳の子供にお前は死亡扱いになっていて、弟に当主の座は奪われて帰る家ないけど、どうする? って話をするんですか。誰がすると思ってるんですか。あ、さくらさんにお願いすればいいんじゃないですかね。


「ん? 私が話してやろうか。家柄に自信を持っている子供の鼻をへし折るのは少し楽しそうだな」

「冗談でもやめてくださいよ。俺が話してみます」

「まぁ、我々が話す必要はないかもしれないがな」

「どういうことですか?」

「にゃーん」


 いずれわかるってどういうことですか?


「手間が省けていいではないか。卵焼きが食べたい、少し濃いめにして大根おろしをつけてくれ」

「そんな居酒屋メニューどこで覚えたんですか」

「昔はよく食えたものなんだがなー」


 何百年くらい前の話をしているのだろうか。


「今日の分の卵はもうないので無理です。明日の晩酌時でいいですか?」

「それで我慢するか」


 ビールに満足したのか、用意してきたワインを開けてはじめたので、姉さんと3人分のワイン用のグラスも用意する。

 おおー、いい色だ。


「うまー、前のよりさらに高いんじゃないですか?」

「ソードくんのだからよくわからんがな」

「エリゼちゃんのことですが、さくらさんの学校で預かるのはどうですか?」

「唐突だな、無理だぞ。うちは王侯貴族関係者共に高い金を払わせて集める予定だしな。弟くんも来るかもしれん」


 かなり悪どい顔をしている。どのくらいの金額を取るつもりなんだろうか、聞いてもこの世界の通貨の価値がわからないけど。


「うちのモモは普通の家の子ですけど、預けたとしていじめられたりしないですよね?」

「普通というのも遺憾ではあるが、モモがいじめられるとかちょっと有り得なくて笑えるぞ。返り討ちにしそうだ。それに平民からも才能がありそうなのは無償で引っ張るつもりだ」


 取れるとこから取って、元をとる作戦か。

 でもお金がないご家庭からも才能があれば引き上げてくれるところあたり、悪態はつくけど何だかんだで優しい人やな。


「その生暖かい目はやめろ!」

「にゃーん」

 

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