2−8 晩酌の始まり
「美味しいー!」
我が家の食卓にも色々な意味で馴染んできたエリゼちゃんが、ハンバーグに喜びを爆発させている。
夕飯前にあったさくらさんの爆弾調査結果については具体的な報告は飯の後という、ご飯優先の話になってしまった。
死亡扱いになっているだけで、生きてることがわかれば家に帰ることができるのだろうか? でも廃嫡って戸籍自体を消されてしまったということなのかな。気になって食が進まない。
「どうした悠よ。食欲がないのであれば私がそのハンバーグを片付けてやろう」
「お父さん、体調悪いの?」
「私もまだまだ食べれるぞ!」
俺の皿に乗っていたハンバーグが、さくらさんとエリゼちゃんによって消えてなくなる。
仕方がない、残った野菜だけ食べるか。
「モモ、心配してくれてありがとう。体調は問題ないんだけど、少し考え事をしていてね」
エリゼちゃんは無邪気にハンバーグを頬張り、俺の様子を性格の悪いエルフがニヤニヤと見てくる。
とりあえずは飯の後か。
残った野菜とご飯を味噌汁でかき込んで皿を片付ける。今日の晩酌には色々と気合を入れないといけないので、モモに皿洗いを任せて、1番風呂を頂戴する。
風呂から上がれば、モモが皿洗いを完了させて拭き上げをしていた。エリゼちゃんはさくらさんの旦那さんの話など冒険譚の話を聞いている。
「モモ、寝る時の部屋割りなんだけどさ」
「うん、私とエリゼさんが一緒でさくら様にリビングに寝てもらう?」
「いいのか? その……」
「私だって人が増えたのにそこまで我儘をいうつもりないよ」
「にゃーん」
「お姉ちゃん!」
父親にもらった自分だけの部屋に家族でもない誰かを入れたくなかっただけなんだろうと、姉さんが茶化してくる。
私の部屋に入らないで! 的な思春期な理由ではなく、嫉妬? みたいなものなのだろうか。モモは誕生日にあげた物も大事にしてくれているし、部屋もそれの延長線上の物だったのだろうか。
「それなら、俺がモモの部屋でさ、エリゼちゃんは俺の部屋で寝てもらおうか? たまには家族水入らずでさ」
「エリゼさんもいるのに恥ずかしい!」
「そ、そっか」
パパは悲しいよ。ぐすん。
「それじゃあ、今日はさくらさんと晩酌をするから、早めに2人共お風呂に入って寝るように」
「むー、私だって晩酌のお手伝いやお付き合いくらいできるもん!」
「嬉しいけど、俺の世界だとあと8年は先かなー。それに今日はさくらさんと話したいこともあるんだ。ごめんな」
「わかった」
モモは聞き分けが良くて助かる。
そのまま、さくらさんとまだ話たいと我儘を言うエリゼちゃんを引っ張ってお風呂へ連れて行ってくれた。
まだ晩酌の時間には早いので、姉さんと大福にさくらさんの相手をしてもらっている間につまみを用意する。
まずは自家製の豆腐。大豆を一定量入れていれば勝手に豆腐にしてくれる箱から豆腐を取り出して、食べやすいサイズに切り、ネギに生姜、醤油を垂らす。これで1品。
燻製肉を食べやすいサイズに、野菜を切ってじゃがいもを潰してポテサラを仕上げに黒胡椒を少々。
続いては自家製のチーズを薄切りの燻製肉巻いて軽く焼く、漬物に野菜を切ってチーズをまぶして簡単なサラダも作る。
「お父さん、お風呂上がったよ」
「ああ、さくらさんも簡単に入り方教えて、風呂に入るように話ておいてくれ」
「わかった」
一緒に上がってきた、エリゼちゃんとモモへ冷えた牛乳を渡して歯磨きをするように話す。
終始、エリゼちゃんがつまみ群を美味しそうと呪文のように唱えていたが、もう夜ご飯の後なので今度ねとなんとか部屋に戻した。だって食べ始めたら絶対に居座りそうだもん。
さくらさんが風呂に席を立ったのを見計らって、どんどんテーブルにつまみを用意していく。
大福もモモと寝るように促すが、美味そうと席を立つ気配がないので、骨付きの肉を渡した。
少して肉部分を食べ終わると、ご機嫌の様子で骨を咥えてリビングを出て行ってくれた。あのままモモの部屋に行った骨の持ち込みを怒られないだろうか。
「いやー、いい湯だった。それと風呂終わりに部屋のまで大福が、部屋が汚れるからとかで飲食物の持ち込みを怒られていたぞ」
「大福のことですから、どこかに骨は隠して上手くやるでしょう」
温泉旅館にあるような浴衣? を着崩して、タオルを首にかけながら部屋に入ってきた。
外見こそ美しいエルフだけど、中身は実におっさんである。
「おー、美味そうなつまみ達だな」
「お忙しい中、動いていただきましたからお礼の気持ちも込めて、力を入れましたよ。明日から1品だけですからね」
「良い心がけだな。ついでに明日からの分も2品で頼む」
「情報次第で考えましょー」
よっこいせと、対面に胡座をかいて座る。モモやエリゼちゃんがいれば実に悪影響を与えそうな姿勢だ。
収納魔法で何本かのワインを取り出してくれるので、ワインを飲む為に購入したグラスも用意する。
「最初はワインでいいですか? ビールもありますよ自家製の」
「ビールだと! いつの間に酒が用意できるよになったのだ!」
「数年前ですけど」
「なんで手紙に記載しない!」
だってビール目当てに直ぐに来そうなんだもん。
「はいはい、それでどうします?」
「ビール!」
量を飲みそうなのでビール樽ごと持ってくる。
備え付けの蛇口から大ジョッキに並々とビールを注いでいく。いちいち、うおおおおおとかさくらさんが煩い。
渡したら直ぐに飲むかと思ったが、そこはマナーを守ってなのか、俺と姉さん分が用意できるまで黄金色の飲み物を注視していた。
「にゃーん」
「はい、姉さん行き渡りました」
「それでは杏殿……」
「にゃーん」
「「かんぱーい!」」
ビールは喉越し。初めは苦いだけと思っていたけど、慣れれば実に美味い。
「かぁああああ! 美味い! こんな美味いビールは初めてだ! 土産を頼むぞ!」
「どうやって渡すんですか。これ、樽の中で生成される物なんで樽は渡せないし、ビールって持ち運び難しいんじゃないですか?」
「収納魔法を使えば大丈夫だ! デカい容器にでも入れて渡してくれ!」
酒に関する熱意はすごいなぁ。
楽しそうな始まりだけどこれから重い話をしないといけないと考えれば、もう少し酒を入れてから聞きたいな。




