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家庭菜園物語  作者: コンビニ
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2−6 教育

■さくら視点


 あの男は面倒ごとを抱えないと死んでしまうのだろうか。

 その上、この私を文一通で使いっ走りにするとはいい度胸をしている。


「少し聞いてもいいだろうか?」

「なんだい?」


 悠のところの畑と比べれば、小さく痩せきった野菜を購入しながら、店の女将に声をかける。


「この領の次期当主のお嬢様が行方不明になってると聞いたが」

「そうみたいだね。でもいなくなってくれて安心したよ」

「評判が悪かったのか?」

「暴れん坊で有名だったからね。私の知り合いでも、メイドで働いていた子がいるんだけど、機嫌を損ねるとすぐに解雇されると聞いたことはあるね」

「それは酷いね」

「ただ解雇されるだけならまだいいよ。顔に酷い怪我を負わせられた子もいたからね」


 どこで聞いても、評判はよくなく、弟である人物が時期当主となったようだが、その子は評判が良い。

 辛辣な意見では死んでよかったと、いう話もあった。ソード辺境伯はまともな人間と聞いてはいたが、子供の教育ができないのであればそうでもないのだろうか。

 王国の剣であり、正義の剣、代々の当主には国王が悪に染まるようなことがあれば、それを止める役目も担っていたが、長い年月を経て現在はどうなっているのか。


 城の中にお邪魔して、地下室から良さそうなワインを引っ張り出し、辺境伯の執務室に置かれたソファーに寝そべりながら悠から送ってもらった干し肉を齧る。

 2本目のワインを空にしたところで、執務室の扉が開かれた。30代くらいの男、身なりや街で聞いた人相からするとこいつが現在のソード辺境伯だろう。


「初めまして、ソードくん」

「これは……」


 私のことが誰かわかったのか、片膝をついて跪く。


「理解が早くて助かるよ。私は今ではただのエルフだ、寛いでくれたまえ」

「畏れ多いことです」


 地面にいつまでもへばりつかれても面倒なので、強めに言って対面のソファーに座らせる。

 

「君のワインだ、遠慮なく飲むといいよ。ワインのお礼に干し肉を食べてもいいぞ」

「はい」


 干し肉を口にすると、不安そうだった顔が、驚きから喜び、そこから冷静にならねばと固い表情に戻る。


「美味いだろう?」

「美味いです。お世辞などを抜きに美味いです。失礼でなければ購入先を聞きたいくらいです」

「そうだろう、そうだろう。孝行息子と孫のお手製だよ」

「それは羨ましい限りですな」

「それに比べて、近年のワインは美味くないな」

「今は葡萄も不作で、品質も悪くなる一方なので。申し訳ございません」

「謝ることはない、ただの世間話さ」


 年代が昔のワインはまだ飲めるが、私の手持ちにあるものと比べれば品質が落ちる。

 悠の話ではビールがあると聞いているので、口直しに帰りに飲ませてもらおう。


「さくら様が最近、表舞台に出ていらしたことは聞いておりましたが、我が家に足を運んでいただけるとは光栄です」

「少し聞きたいことがあってね」

「なんなりと」

「知り合いが君の娘を保護しているようなんだ。行方不明になったとか、既に死亡したとか色々話が錯綜しているみたいだが」

「娘は正式に死亡となりました」


 ソードくんが机に移動して、1枚の紙を手渡してくる。

 国王のサインがされた紙には、エリゼという娘からルークという子供に次期当主が死亡のため、交代となった内容の正式な書面だ。


「しかしながら、何かの間違いの可能性もありますが、その娘を引き渡していただければ適切な対応をいたします。お礼もお支払いしますので、取り継いでいただけますでしょうか?」

「死亡しているというのであれば気にすることはない。何かの間違いであろう」


 適切にねー。渡したら、渡したで殺されてしまうのであろう。


「それにしても、君の娘さんのことをついでに調べたが評判が良くないね」

「恐れ入ります」

「教育はしなかったのか?」

「私の教育が及ばず申し訳ありません」


 話した感じだけでは、私がさくらであることに気がついたようだし、学校を建設していることもしっかり調べていことを考えたら愚鈍とまでは言えない人間だ。


「参考までに聞きたいのだが、君の家ではどんな教育をしているんだ?」

「我が家では7歳まで、前当主を含めて親族が教育を担当し、そこから先は個人、個人に家臣を選ばせて自立した教育をしておりました」

「なるほど」


 その娘は家臣選びを間違えた。それを指摘することも教えることもなく放置した。

 恐らくは、その娘を排除したのは弟だろう。愚鈍な姉を反面教師にして、弟は正しく成長をして次期当主の座についた。


「ソード家の人間は正しく、強くなければなりません。次期当主のルークは強さこそ、姉には及びませんでしたが、その正しさ、判断力から家臣など人を見る目は確かです」

「君は子供が可愛くないのかな?」

「貴族とは領民を王国を守るの責務です。愛情であれば7歳までに十分注ぎました」


 悠が聞いたら、そういう問題ではないだろと殴りかかりそうだな。

 この男の判断は、親としてはともかく貴族としては正しいのだろう。馬鹿な貴族の子供を量産されるよりはいいのかもしれないが、私自身も夫や子供がいた幸せな時期を考えれば、この男の教育方針は少し悲しい。親子とはそういうものではないのではないかと思う。

 ただこの世界が、彼の立場が今はそうさせてくれないのだろう。


「話を聞けてよかったよ」

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