2−5 不安
お腹をさすりながらエリゼちゃんは満面の笑みを浮かべている。満足してくれたのであれば何よりである。
「悪くなかったわ」
「素直に美味しかったとは言えないんですか?」
エリゼちゃんに対して少し辛辣なモモが新鮮で面白い。手のかかる妹のお世話をするお姉ちゃんのようだけど、実際にはエリゼちゃんの方が年上なんだよな。
「庶民の食事もなかなかね」
「普通の家ではこんなご馳走出ませんよ」
「そうなの? 我が家では普通にこのくらいの品数は出てくるけど」
「貴族の食事と一緒にしないでください」
貴族の子っていうのはこのくらい浮世離れした知識しか持っていないものだろうか。
ご飯を食べた後で上機嫌だし、話を聞けたりできるだろうか。
「エリゼちゃんは家でどんな勉強をしていたんだい?」
「勉強? 私にはもっとやるべきことがあるもの。日々、貴族の努めを果たすために鍛錬をしていたわ!」
「でも貴族なら領地を収めないといけないし、勉強も必要なんじゃないの?」
「貴方、大人なのに適材適所って言葉を知らないの?」
寝っ転がりながらドヤ顔をされたが、適材適所と言っても鍛錬だけって、専門的なことはともかく最低限の勉強は必要なんではないのだろうか。
俺の認識が間違っているのかと、モモを見てみれば、若干呆れ顔をしている。
「適材適所ね。知ってる、知ってる、でも最低限の勉強はしなきゃいけないんじゃないかな?」
「ふん。家臣のサーベルトが出来る者に任せればいいと言っていたもの! だから勉強なんて必要ないの!」
何歩か譲って、鍛錬をしっかりとしているのは偉いけど、勉強をさせないというのはどういう考えだったのだろうか。
次期当主とか言ってたし、家臣が傀儡にするためにわざと知識を与えなかったとか? なんだか大人の都合に巻き込まれている感じはするな。
俺自身も巻き込まれるのは……でも大人の事情に巻き込まれているのは可哀想だと思う。
「エリゼちゃん、ここにいる間だけでもモモと一緒に勉強をしてみたらどうかな」
「嫌よ。なんで私が勉強なんてしなきゃいけないの?」
エリゼちゃんだけでなく、モモまでお父さん何言ってるの? という表情をしている。
物で釣るのは教育的にどうかとも思うが、今回は仕方ないだろう。台所に戻ってケーキ購入して、テーブルまで手が他どかない範囲に置く。
「何よこれ? ケーキにしては色鮮やかだけど……」
「お父さん、ケーキは特別な日だけだって」
「エリゼちゃんはここにいる間にはモモと同じような生活をすること、モモはエリゼちゃんに勉強を教えてることを守ってくれたら毎晩、ご飯の後にケーキを出してあげるよ」
「やる! お父さん、私やるよ!」
モモはやる気満々だが、エリザちゃんは何を馬鹿なことをと鼻で笑っている。
「今日は特別にケーキを用意したから、食べてみるといいよ」
食い意地の張っている、この子であれば。
エリゼちゃんが、無駄に優雅にケーキを口に運ぶ。この変の教育はしっかりしているよな。
「−−ナニコレ?」
エリゼちゃんが口を押さえながら片言の言葉を発すると、ケーキはあっという間になくなってしまう。
「まぁ、まぁ、少しの間だけ付き合ってあげてもいいわ」
ちょろいな。
食べ終わった後にまたエリゼちゃんは寝てしまった。自由な子だ、勉強も明日からだし今はいいか。
皿諸々を片付けて洗っていると、モモが横で皿を拭き始めてくれる。
「モモ、勉強はいいかのか?」
「うん」
ん? 少し怒っている?
「あの子を甘やかしてるのが不満かい?」
「少し」
「ごめんな、あの子が少し不憫でさ。少しの間だけでいいから、先生役お願いしてもいいかい?」
「うん」
「モモに丸投げになってごめんな。俺もこの世界のこと教えられるくらいに勉強しておいた方がよかったな」
「大丈夫、カイラちゃんの時も誰かと勉強するのは、復習にもなったりするし、エリゼさんとも仲良く……なれるか不安」
うん、そうだよなぁ。めちゃくちゃ俺様系だもんな。
「そうだなぁ。余りにも無茶をするようだったら、また姉さんにお願いするから」
「大丈夫。私も杏お姉ちゃんのようにわからせたいと思ってるから」
サムズアップして満面の笑みを浮かべる我が娘は、姉さんに似て随分と脳筋になってしまった。
姉さんのようにやり過ぎないように仲良くしてくれ。
あとは火の鶏がさくらさんからの返事をどのくらいで持ってきてくれるのかだなー。さくらさんもどのくらいの情報を持っているのか。
モモ曰く、有力な貴族らしいし、さくらさんが無理なら大阪の誰か、もしくはソーズさんとが情報持ってるか聞いてみるか。
危険らしい森の周辺に令嬢が来て、ボロボロの姿て見つかった。勉強は必要ないと教わった。
なんだか聞くだけだと明らかにお家騒動って感じだよなー。エリゼちゃんが落ち着いたら改めてここの森に来た理由を聞いてみるか。




