プロローグ
7月の朗らかな天気の中、家の側の草原にござを敷いて、家族一同が集合していた。そんな中でモモが真剣な様子で、ショッピング画面と睨めっこしている。
誕生日のケーキをどれにするか、かれこれ30分は迷っている。
身長も気がつけば155センチと12歳の女の子では比較的高い方と言われるくらいには成長しているし、料理や運動能力諸々だって真剣に取り組んだ成果としてどれも高水準となって、体だけではなく中身もちゃんと成長したなぁと言い切れるが、甘い物に対するこだわりや執着については変わらず成長していない。
「にゃーん」
「だって杏姉ちゃん、ケーキは誕生日とか特別な日以外は食べられないんだよ! 身長に選ばないと」
「にゃーん」
姉さんが早く誕生日パーティーを始めようと、モモを急かしている。目の前に完成したパーティー料理が並んでいるので、早く食べたがっている。大福の足元にはタオルを敷いておかないと水たまりになるくらい涎が出ている。
「わかりました! これにします」
選んだのは、沢山の果物が載ったタルトのホールケーキだった。彩も鮮やかで非常に美味しそうだけど、値段は普通のケーキと比べても可愛くはない。
「ぴー」
「ぴーちゃんもごめんなさい。お父さん、選び終わったので食べましょう」
「そうだね。それではモモ、12歳の誕生日おめでとう!」
「にゃーん」
「わん!」
「ぴー」
新しく家族というよりは友人として加わったぴーちゃんは、1年前に火の鶏と普通の鶏の間にできた子供でハーフなのだが、生まれて見れば鶏ではなく、不死鳥種の幻獣らしく両親の鶏って感じは受け継がず、可愛らしい小鳥の姿をしている。
寝る時には父親達のとこに帰るが、それ以外ではモモと行動を共にしている。鳥というのも触れてみると可愛い。
姉さんの号令で、食事が始まる。麻婆豆腐にハンバーグにピザにおにぎり、ビュッフェ形式で沢山の料理を並べた。
外で食べるのも気持ちがいいもんだ。
モモが早くもケーキに手を出そうとするので、ケーキを俺の側に引き寄せて切るだけ切って布をかけておく。
「お父さん……」
「そんな可愛くお願いしてもダメです。ケーキはご飯の後だよ。お、そうだプレゼントがあるぞー」
さくらさんからは去年に引き継ぎ物騒な物が送られてきたなぁ。
「これは? 剣ですか!」
モモが立ち上がってござから裸足て出ると、草原の上で剣を抜いて踊るように振り回す。俺には剣の腕前とかはわからないけどなんだか様になっているなぁとは思った。
去年は中型? くらいのサバイバルナイフくらいの大きさのナイフを送ってくるし、もう少し可愛げのある物を寄越して欲しいとは思うが、モモも実用的なものはなんだかんだて喜んではいる。ちなみに俺は去年、布製の丈夫な肩掛け鞄を送った。鞄の模様は当然、犬と猫である。
ひとしきり、剣技を披露してもらい、フルーツ盛り沢山のタルトを半分はモモが平らげる頃には作成していた物の完成を知らせるアラートが鳴る。
「完成したみたいだ」
「楽しみ!」
「にゃーん」
姉さんが先陣を切って暗幕が落とされた家へと向かう。
モモの誕生日に合わせて念願の家のアップグレードを行い、それが完成した。
アップグレード先の方向性だけ選べたので、家族会議の結果で和風でお願いをしたのが、完成されたのは農家の家って感じの立派な平家であった。
屋根も瓦屋根になっていて重厚感がある。扉だったのも引き戸に変わっていて、入ると玄関も非常に広い。
「玄関も広いね!」
「そうだね。靴だなも大きくなってるから長靴も楽々入りそうだ」
玄関を上がると、左手に2つの引き戸があり、1つはガラス戸で台所に繋がっていた。もう1つは襖で畳ばりの居間に繋がっていた。以前よりも広い縁側がくっついており、台所と居間も行き来が可能で中にも引き戸がもう1枚あった。
居間が10畳、台所が8畳はあるだろうか。前よりも台所も広くなっていて使い易そうだ。
モモも楽しそうに新しいキッチンの機能性を確認している。前に購入したパン用の窯なんかも併設されていた。
キッチンだけでは広さが足りなそうなので、調理用のテーブルと新しい食器棚に簡易的な椅子もあった方がいいか、あとは家電製品も一気に買い換えるか。キッチンのガスコンロも3口になっているのは嬉しいな。
「お父さん、他の部屋も見てみよう!」
「そうだな。モモ、走って転ぶなよ」
玄関から右に行くと、短い廊下があり襖が2枚と更に突き当たりには2枚の扉がある。たぶん水回りかな。
1枚はトイレで、もう1枚は脱衣所に外に繋がる扉と浴室に繋がる扉があった。洗濯が終わった後に直ぐに干せるように外に出れるのか。便利そう。
「お風呂が木で出来てます」
「お、檜かな? 管理が大変そうだなぁ」
浴槽以外は木ではないけど、掃除の方法とか勉強しないとな。3人は入れそうな大きな浴槽とは贅沢だなー。
「お父さん、お風呂も広くなったし、久しぶりに背中でも流そうか?」
「お、いいのか。遠慮なく、お願いしようかな」
流石にお風呂にはもう一緒に入ることはできないが、前にも何度か背中だけ流してもらった。モモも大きくなって、狭いので背中を流してももらうのは厳しかったが、このくらいの広さなら問題ないだろう。
最後に残った部屋は8畳ほどの畳の部屋である。これは当然、俺とモモ、それぞれの部屋である。
「モモはどっちの部屋がいい?」
「私、個人の部屋をもらっていいの?」
「当たり前だろ」
話す口調は最初の頃と比べて、打ち解けて普通の家族になりはしたが、モモはどこかで必ず遠慮をしてしまう。
俺と一緒にいるのが嫌というわけであった欲しくないが、個人、個人の部屋というのはあるに越したことはないし、子供のうちならまだしも、大人になれば1人でいれる空間というのも重要だ。
「じゃあ、こっちで」
モモが選択した部屋の横のスペースに、モモの部屋という木製の札を釘で貼り付ける。新築の家にいきなり傷をつけるのは罪悪感もあるが仕方ないだろう。
「わん!」
「どうした、大福」
「大福様が自分の名前も入れてほしいって」
なんだよ、お前はモモの部屋に行ってしまうのか。冬だけは俺の部屋に来てくれないかな。
マジックでプラスを書いて大福という名前を書く。
「にゃーん」
「姉さん、そんな木の札をいつの間に」
杏の部屋と書かれた、モモのよりも達筆で猫の彫刻まで入った立派な札を差し出された。俺の部屋は?
「にゃーん」
「それはどーも」
特別に居てもいいと許可をもらったので、姉さんの部屋を俺が間借りする事になった。




