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家庭菜園物語  作者: コンビニ
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55 また会う日まで

 まだまだ肌寒くはあるけど、春と言っていい気温になってきた。ネギにアスパラ、キャベツに玉ねぎ、うんうん、育てられる野菜のラインナップも増えてくれて嬉しい。

 朝の訓練が終わったモモとパンイチの筋肉が走って駆け寄ってくる。絵面が酷いのでモモと一緒にアングルに入らないでほしい。


「お父さん、このまま動物のお世話に行ってきます!」

「まだ肌寒いから汗はちゃんと拭きなね!」

 

 日々、お転婆になってる気がするが、健やかに育ってくれてるのは素直に嬉しい。


「4月になりましたし、畑を耕すんですよね? 任せてくださいませ!」


 無駄に決めポーズをとる、ボディビルダー。プロテインや栄養価の高い食事を摂っていたおかげか、3月から追い込みをかけるとか謎のことを言い始めたソーズさんは1回りは確実にデカくなっている。


「ふんふん! 耕すの気持ちいいですね!」


 こんな男をモモの側に、ましてや先生役として置いて悪影響がないかと不安になったので、モモに聞いてみたが『流石に人前で下着だけになるとかはないよ! お父さん、私はそのくらいの常識持ってるからね』と回答をもらった。

 モモもソーズさんのことは頭のおかしい筋肉と理解があって安堵したものだ。


「4月になりましたし、そろそろビクドに戻るんですよね?」

「そうですね! プロテインやみなさんと離れるのは寂しい限りではりますが、今のコンディションなら確実に総選挙も上位に食い込めることでしょう」


 こいつ、ナチュラルに頭にプロテインを持ってきやがった。

 まぁソーズさんらしいと言えばそうか。


「また会えるの楽しみにしてますよ。それよりもソーズさんのお友達を紹介する話は忘れないでくださいよ」

「ええ、勿論ですとも」


 ぬふふふ。巨乳さんと会えるのが楽しみだ。


「そ、それで次来るとすればいつ頃になりますかね?」

「早くとも2年と考えています」

「2年ですか! もうちょっと早くはならないものですかね?」

「はい、総選挙が終わればやることも多くなりますし、王坂の方々とのやり取り、農地の確保など様々ありますからね。悠殿がそこまで別れを惜しんでいただけるのは嬉しい反面、申し訳ありません」


 ここで巨乳だけでもと言うのには無理があるか。ソーズさんのお友達も神5に選ばれる可能性が高いって話だったもんな。


「謝らないでください。ただ友達連れてくるのは忘れないでくださいね」

「はい!」

「にゃーん」


 姉さん、いつの間にいたんですか。片方がプロテインならもう片方は胸のことばかりとはいいコンビだなって、胸のことばかり考えてるわけではないですからね!

 ソーズさんが耕してくれた畑に種を蒔き、水をやり、モモが用意してくれた朝食を食べる。

 訓練がてら、モモとソーズさんは木の伐採に向かうので俺は家に残って昼食と販売する製品の加工をし始める。


 この数ヶ月で得られた物は多い。大豆の加工シリーズは全てコンプリートをした。豆腐、味噌、醤油、納豆は全て作成するための箱や壺はゲットできてるし、木の加工を行える小屋と妖精さんも雇っている。

 木の加工所は米を20キロの契約だったが年間契約もあり、100キロでの契約が可能だったので即決させてもらった。

 米は料理にして販売したりもするけど、ちゃんと年間で回せば800キロ手に入るので加工するために毎回手間と金額を払っていたと考えれば悪くない。木を切って置いておけば勝手に回収もしてくれるし、植樹までしてくれるので環境にも優しい。


 設備や環境、食事などが少しずつでも充実していくと、達成感がある。

 今日のお昼ご飯は焼きおにぎりに味噌汁と漬物。中身は魚の身を解したり、肉を入れたり、漬物を詰めたりしていく。

 せっかく暖かくなってきたので、縁側に一式用意して、七輪でおにぎりに醤油を塗って焼いていく。

 匂いに釣られてか、大福と姉さんは先に待機中だ。味見と称して、1つのおにぎりを3人で食べてみる。


「お焦げがいい感じで美味い!」

「にゃーん」

「わん!」


 2人にも好評のようでよかった。モモとソーズさんも同じようなタイミングでやって来たので、蒸しタオルを渡して、汚れた手などを拭いてもらい。味噌汁をお椀に入れて渡していく。


「お父さん、また味噌汁の腕を上げましたね」

「わかるかい? 出汁を変えたからね」

「体が温まりますね」


 寒いと思っているなら、服を着たらどうなのだろうか。

 この坊主はどこかズレているが、真面目なやり取りについては、ガンジュさんと比べても遜色なく空気を読んだりしてくれる。マイナスの部分がデカくてガンジュさんには遠く及ばない総合値ではあるけど。


「今晩のご飯は、最後ですからすき焼きにしましょうか」

「すき焼き? なんでしょうか、甘美な響きですね。筋肉がヘラとクレスが喜びの声を上げている気がします」

「にゃーん」


 筋肉って、すき焼きがどんな食べ物かもわかっちゃうのか。姉さん、卵は別で寄せてるので安心してください。あとは雑炊派ってのも了解しました。



 ★★★



 頭と腰が痛い。ベットじゃなくて、居間の畳で寝ちゃったのか。昨日はソーズさんが帰るということもあってビールが1杯のみではなく、無制限に許可が出たので飲みすぎた。


「これは……よいのですか」

「私とお父さんで用意した物です。師匠にもお世話になりましたので、遠慮なく受け取ってください」


 声をする方を見れば、ソーズさんにあらかじめ用意していた鞄であったり靴など一式を渡されて着ているとこだった。

 流石にパンイチやツナギ姿のまま送り出す訳にはいかないので、事前に加工所を使ってソーズさんの旅支度を整えておいた。


「ソーズさん、鞄に必要な物もついでに入れたるので忘れずに持って行ってくださいね」

「悠殿、起きていたのですか。感謝します」

「お父さん、お見送りするよ」


 ソーズさん、本当に帰っちゃうのか。


「モモ殿、気になさらないでください。昨日の夜に随分と語らいました。ゆっくり休ませてあげてください」


 え? 酔っ払ってどんな話をしたのか、あんまり覚えてないんだけど。


「モモ殿も見送りは大丈夫です。心配はないと思いますが、鍛錬を怠ることなく、頑張ってください。次会う日を楽しみにしています」

「はい! 次は1本取ってみせます!」

「それでは、大変おせわになりました」

「にゃーん」

「わん!」


 足音が玄関に向かっていき、扉が開かれて、閉じる音がした。行ってしまったか。


「にゃーん」


 少し、少しだけ寂しいですよ。なんだかんだで長く一緒に過ごしましたしね。


「にゃーん」

「姉さんがそこまで言うなら仕方ないですね」


 玄関を出て、森に消えかけるソーズさんに大きく手を降る。


「ソーズさんも元気でな!」


 こちらを振り返って、ソーズさんも手を振りかえし森に消えていく。


「にゃーん」

「本当に素直じゃない、お父さんですね」

「俺は素直だよ」

「よしよし」


 モモに頭を撫でられるのは悪い気はしない。

 別れは、見送ることは何回経験しても少し寂しい。今生の別れではないしまた会えるよね。


「にゃーん」

「畑と動物のお世話をして、朝ごはんにしましょ!」

「頭が痛いのでもう少し休ませてー」

「自業自得です! 飲むのはいいけど、明日に響かないようにって何回も言ったよね?」

 

 そんなことも言われた気がする。


「お仕事、お仕事です!」

「はいはい」


 日に日にモモは逞しくなっていくな。

 誰かを見送る度に考えてしまう。モモを見送るその日を。

 まぁ、先のことを考えても仕方なし、今は目の前の仕事をこなしていきますか。


「にゃーん」

「はいは一回ですよね。はい!」

「わん!」



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