52 正月
「にゃーん」
「新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」
「わん!」
正座して姉さんへと頭をお互いに下げ合う。モモとソーズさんが俺と姉さんのやり取りを見て不思議そうにしている。なんでも新年の祝い事はあってもことよろ的なやり取りはないらしい。
「それが異世界での挨拶なんですか。では、自分も本年もよろしくお願いします」
「お父さん、お姉ちゃん、大福様、お願いします!」
「にゃーん」
正月になってショッピングサイトの内容も更新されて、モモに振袖でもと思ったが、思った以上に高額で手が出なかった。100万円からがスタートってマジかよ。今時もっと手が出しやすい価格帯の物もあるだろうに、あの神様は基本的に足元を見てくるな。
「にゃーん」
今日の姉さんは若干テンションが高い、朝から餅だ! と騒いでる。商品のラインナップが変わったて杵と臼があることに気がつきこの調子である。
餅つきなんて町内会で子供の時のイベントでしていらいだなー。価格もお手頃だったし、せっかくならということでもち米も購入して準備に取り掛かる。こういう時に筋肉がいてくれると助かる。
ソーズさんに縁側前に道具を運んでもらい、下にはゴザを敷く。餅つきは任せろと現場監督の姉さんが指示を飛ばす、よくわかってないがセイロも購入してもち米を蒸したりしている。
手を濡らすようの水と臼を温めるようの熱湯など、使い方はわかっていないが言われるがままに用意していく。
「なんか餅つき大会っぽくなってきましたね」
「にゃーん」
臼を温めた後にもち米を移して、杵で少しこねる。いい感じになってきたところで、ペッタン、ペッタン、ツルペッタンと叩き始める。何度か叩いた後に手を水で濡らして餅をひっくり返したりする。こんな感じでよいだろうか?
「これを2人でやる感じなんだ。俺はあんことかきな粉など、付ける物用意するからお願いできるかな? ちなみに力加減を間違えて壊したり、手を叩いて怪我したりしないでくださいね」
モモとソーズさんが頷き、真剣な様子でゆっくりとペッタン、ペッタンとやり始める。なぜか杵の担当はモモであったが、重そうにする素振りはなく杵を上手に扱っている。ソーズさんはなんで、上半身裸でやってるんだろうか。
あんこやきな粉に調味料を混ぜて下地を作る。砂糖醤油に海苔、七輪も用意をしておき、それ以外にも餅を入れればいいだけようにお雑煮とお汁粉も作っていく。ただあんこやきな粉、お汁粉などはモモが食いつきそうなので少なめに作っておく。
「にゃーん」
「はいはい、餅がいい感じに完成したから早く持ってこいですねー」
縁側に行くと、ソーズさんとモモがつまみ食いをしていたようで、微妙そうな顔で口をモゴモゴと動かしている。
味のしない餅なんて食べて美味いのかね。
「つまみ食いかー」
「お父さん、これを本当に食べるんですか?」
「そうだよ。モモは白飯をおかずなしで食べるのかな?」
俺の一言にピンときたようではあったが、持ってきた物がおかずになるのか? みたいな顔をしている。
まずは定番の砂糖醤油に餅を浸して、海苔で巻いた餅を手渡す。
不安そうに口したが、その顔がどんどん綻んでいく。どうだ、美味いだろう?
「うん、悠殿! これは美味いですね!」
「そうでしょう、そうでしょう」
モモはニコニコしながら、もきゅもきゅと餅を噛んでいる。うんうん、可愛い。
あんこやきな粉にはどんな反応を示すだろうか?
砂糖醤油を食べ終わったモモが、黒い塊を凝視して、恐る恐る箸でさらに移す。俺のことをチラリと見て食べて大丈夫なのかと目で問いかけてくるので、1つ頷くと、目を瞑って口に運ぶ。
「モモ、どうだい?」
んー! っといいリアクションで、足をバタつかせている。
砂糖醤油の時よりも喜んでくれている。みたらし団子とかも作ってみるのもいいかもな、どうやって作るのか調べてみようっと。
姉さんと、大福、モモが引き続き食べる姿を眺めながら、ソーズさんと温かい麦茶をすする。よくそんなに大量の餅を食えるものだなぁ。
「にゃーん」
「雑煮ですか? ちょっと待ってくださいね」
七輪で表面がパリッとするまで焼き、準備していた汁の中に突っ込む。
「悠殿、甘くないのなら自分も食べたいです」
「はっは、甘いのばかりだと飽きますよね」
「私も食べたいです!」
まだ食うのか、育ち盛りだなー。正月太りという言葉もあるがモモは普段からトレーニング含めてやってるし問題ないだろう。ただ……姉さんと大福、最近太ってきてないか?
「にゃーん」
太ってないし! と激怒しながらお汁粉も要求された。本当にどんだけ食べるんですか。
「わん!」
「お汁粉ってなんですか! 私も食べたいです!」
モモよ、まずは両手に持っている雑煮のお椀ときな粉餅を食べ終わってからにしようか。
年末にかけて甘い物の刺激が強すぎたかもしれない。




