43 信仰
「にゃーん」
アホかとかじゃないんです。もうあのアホ神の話なんて鵜呑みにはしないと誓います。
ううう、俺の嫁が……。
「お初にお目にかかります。自分は修行僧のソーズと申します。お告げにありました、白く美しい獣に導かれて参りました」
大福は何こいつみたいな感じで怯えているので、導いたというよりは着いてこれられたの間違いではないだろうか。
一応、客人みたいではあるし、今回はアホの許可なのか結界内に入ってこれるということは、悪人的な分類でないのだろう。
「えっとソーズさんですね、俺は悠と言います。黒猫が姉さんの杏、白いのが大福で、この子がモモです」
「これは白髪で褐色のエルフ殿とは、初代の巫女様のようですね」
巫女様? こいつはあれかビクドの民ってことか。
「立ち話もあれですからよければ中にどうぞ」
「感謝いたします。ですが外での修練続きで汚れておりまして」
上半身が裸、というか布の切れ端があるので元々何か着ていて破けたとかなのだろうか。確かに薄汚れてもいる。
この寒空に井戸て汚れ落としてくれとも言えないので、お湯を用意しないとな。
「外にある水をお借りしてもいいでしょうか?」
「え、いいですけど水じゃ冷たいんじゃないですか?」
俺が許可を出すと、井戸まで進んでいき、貯めてあった水瓶を軽々と持ち上げて頭から水を被ってしまった。めちゃくちゃ寒そうなんだが。
「モモ、大きめのタオル持ってきてくれ! ちょっとソーズさん」
玄関から出て、駆け寄ると水のはずなのにモクモクと体がお湯でも被ったかのように煙が出ている。
「水を頂戴しましてありがとうございます」
「いや、寒いでしょ!」
「いえいえ、滝打ちなどの修行もしておりますのでこの程度であれば」
モモが持ってきてくれたタオルを渡して、体を拭いてもらい、シャワーの簡単な使用方法だけ案内して浴室に詰め込む。
なんなんだ修行僧って、見てるこっちが寒くなってくる。モモも言葉には出さないが、少し困惑している。
とりあえずは大福が連れてきた? 状況なので客人として飯と寝床くらいは用意してあげないとな。
モモ達にはご飯の再開を促して、俺は食べていた途中のご飯をかき込んでしまい、新しい生姜焼きをもう1人分用意してテーブルに並べておく。
少ししてパツパツのスウェット姿のメガネ坊主の青年がリビングに現れる。服破けないかな?
「まさかこの森でお風呂に入れるとは思いませんでした。ありがとうございます」
正座をして両手を前につくと礼儀正しく、頭を下げる。僧侶ってだけあってなんか様になっているなぁ。
「いえいえ、大したもてなしもできませんが、うちの大福が迷惑かけたみたいで申し訳ない」
正確に言えばアホのお告げで迷惑をかけたのだが。
「迷惑など、とんでもありません。お告げにあった素敵な出会いとは貴方方との出会いなのでしょう」
俺にはそういった趣味趣向はないけど、素敵な出会いとか言ってるけど違うよな?」
「あはは、そうなんですか? よければご飯も用意したので召し上がってください」
「これは、何から何まで感謝いたします。こんなにいただいてよろしいのでしょうか?」
「どうぞ、うちは比較的、飯関連には困ってないので」
「それは素晴らしいことですね。それではご厚意に甘えまして、いただきます」
お礼や食べ方なども含めて所作が美しい、これが僧侶なのか、彼だからなのか。勝手な解釈ではあるけど雰囲気的に人の良さが出ている気がする。
「これは美味しいです!」
「おかわりもあるので、言ってくださいね」
「恐縮です」
結局、ソーズさんは3杯ご飯をおかわりしたが、体格の割には食べなかったなという印象ではあった。
「ご馳走様でした」
「お粗末様、それでソーズさんはこの森にはお告げ? で来たんですか?」
「そうですね。素敵な出会いがあるとのことで、お告げ受けて参りました。きっとこの出会いは聖書に記載の初代聖女様と同様の容姿、モモ様のことと考えております。モモ様は悠様のお嬢様とのことですが血の繋がりは?」
「はい、ないですね。モモとは最近家族になったばりかりですよ。やっぱりソーズさんはビクドの方なんですか?」
彼の答えはイエスであった。まさかこのままモモを連れて行きたいとか言い出すんではないよな?
そもそもの前提がモモとの出会いじゃないよとは言えないし、言ったらなんで知ってるんだって内容にはなるから、そこから神と知り合いなんっすよねって話になれば大事になる可能性もある。
「モモ様、悠様、ビクドは非常に素晴らしい国です。よければ是非とも我が国にいらっしゃいませんか?」
「えっと、誘いは嬉しいんですけど、俺は戦闘能力もないし、ここ以上に安全な場所もないので現状で外に出るつもりはないんです。やっぱりソーズさんとしては聖女と同じような容姿のモモを連れて行きたいんですか?」
「そうですね、モモ様にその意思があれば一緒に来ていただきたいとは考えています。モモ様は如何ですか?」
モモが無言のまま首を横に振って、俺の後ろに隠れてしまう。
「そうですか、それでは諦めざるおえないですね」
「えっと、思った以上にあっさりですね。もっと強引に迫ってくるのかと思いました」
「自分も開祖様が最初に建てられた『褐色白髪エルフっ子大好き教』は信仰しておりますが、一番大事なのはご本人の意思でありますので、強引にお誘いなどはいたしません。残念なことに強引な輩もおりますので気をつけていただければ。もしお困りの場合には自分に声を−−」
「−−いや、ちょっと待ってください。『褐色白髪エルフっ子大好き教』ですか?」




