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家庭菜園物語  作者: コンビニ
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35 お盆

「お父さん、食べ物で遊んでいいんですか?」

「モモ、これはね遊んでるんではないんだよ」


 きゅうりとナスに割り箸を刺して、焚き火の用意をする。


「これは俺の世界であった行事? 風習でさ、詳しくは俺もわかってないんだけど、亡くなった人が家に帰ってくる期間があってさ、それを迎え入れる準備なんだ」

「死んじゃった人が帰ってくるですか?」

「そう言われているね。亡くなってもご先祖様が俺たちのことを見守って、くれてるらしいからさ」


 モモはいまいちわかりません、みたいな顔をして俺がやっていることを見ている。

 簡易的に作った仏壇? もとい箱の上にきゅうりとナスを置いて、外では焚き火をたく。姉さんが懐かしい匂いに鼻をひくひくさせている。


「きゅうりがお迎え用、ナスは帰り用なんだよ」

「野菜に乗ってくるんですか?」

「まぁそうだね。きゅうりが馬に例えられてて、ナスは牛なんだ。馬の方が足が速いから早く帰って来れるように、牛には沢山の荷物が乗せられるし、ゆっくり帰れるからって意味があるらしいんだ。全部、じいさん達に聞いた話だけどね」

「おじいちゃんはもういないですか?」

「そうだね、こっちの世界に来る前に亡くなったんだ」

「そうなんですね。私のお母さんも小さい時に死んじゃいました」


 モモには母親の記憶があるらしい、父親や母親の話は積極的に聞いたことがなかった。辛い思いでだったら思い出させたくもない。でもお母さんのことを思い出しているのか、モモの顔は穏やかで、反面悲しそうだ。

 母親との暮らしはそこまで悪くなかったのかもしれない。


「きっとモモのお母さんも帰ってきて、モモのこと見てるよ」

「私のいる場所がわかるのでしょうか?」

「そのための焚き火なんだ。迎え火って言ってね、亡くなった人が迷わないように焚く火なんだよ」

「にゃーん」


 姉さんが帰ってきたご先祖、両親がお腹いっぱいになるように、料理を頑張らないとなとモモに声をかける。


「はい!」


 モモは晩ご飯の準備をしますと張り切って台所に向かってしまった。

 お盆の煙たいような匂いを嗅いでいると、日本にいた時を思い出す。両親がいた時、じいさんやばあさんと、両親が亡くなった後にやった時、ばあさんが亡くなった時の迎え火、この匂いを嗅いでいるとそんなに昔の出来事はないはずなのに感傷に浸ってしまう。


「にゃーん」

「姉さんも懐かしいですか。なんか不思議ですよね、色々なことを思い出しちゃいます」

「にゃーん」

「そうですね。もしかしたら、生きてる人達が思い出す、思い返すための行事なのかもしれないですね」


 モモもいずれは俺のことをこんな風に思い返すことがあるのだろうか

 はぁ、死んでもないのに何を考えているんだが。子供を持つってことは苦悩ばっかりだな、それ以上に幸せではあるけど。


「お父さん!」

「どうした?」

「こんなのはどうでしょうか」


 丸々とした西瓜に沢山の足が生えていた、奇抜なデザインではあるな。


「これは大型車両って感じで、いいんじゃないかな」

「沢山乗れるだけではなく、美味しいのです!」

「そうだね」


 モモが作り上げた作品を仏壇代わりの箱を追加して置いておく、じいさんやばあさんがいたらモモの頭を撫でまわして可愛がったことだろうな。

 今回は代わりに俺が頭を撫で回すことにする。


「きっとモモのお母さんも喜んでくれてるよ」

「はい」


 モモの母親は死んでしまったと言っていたけど理由はなんで、名前は、どんな人だったのか、色々聞きたいなって考えてしまう。いずれ、モモから話してくれるタイミングを待つか。


 夕食にはモモお手製のペペロンチーノとスープをいただいて、俺が皿洗いをしている間にお風呂に入ってもらう。皿洗い後に迎え火の後始末をする。消すタイミングとか提灯を設置したり諸説あるみたいだが、気持ちが伝われば問題はないはず。


「にゃーん」

「わん、わん」


 何やら大福と姉さんが話している、モモの両親のことを話しているっぽい? 姉さんの声しか聞こえないので確実ではないがモモのことであることは間違いがないようだ。


「にゃーん」


 今更個人情報がどうこうなどないだろうと、姉さんが大福の上に飛び乗ってにゃーん、にゃーんとしつこく食い下がっている。


「わん」

「にゃーん」

「姉さん、なんかわかったんですか?」

「にゃーん」

「モモの両親の名前がわかったんですか!」


 大福は年齢とか見れるのは知っていたが、詳しい個人情報の確認も可能らしい。

 情報を開示するのを渋られたが、姉さんがなんとか両親の名前とモモの本当の名前を聞き出してくれた。


「にゃーん」

「わかりました。そうですね」


 モモが知っているかどうかもわからないし、この家ではモモはモモである。でもモモが大きくなったら必要になったり伝えるタイミングがあるかもしれない。姉さんから教えてもらった内容をメモだけして、姉さんが収納の魔法で預かってくれることになった。姉さん、いつの間にそんな魔法使えるようになったんすか。

 石集めとか、木を切った後とかそれで手伝って−−あ、だめですかそうですか。

 

 

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