33 念願の西瓜
お昼ご飯が終わった後には井戸の様子を見にいく。
井戸にはこれまでになかった手押しポンプが追加されていた。地味なアップグレードではあるが、家畜も増えたしこれから水を扱う機会も増えると思うので嬉しいアップグレードではある。
試しに持ち手を上下に動かしてみると、バシャバシャと水が出て来るが地面に垂れ流しになってしまう。
こういうのって桶かなんか水出る場所に置いておくもんなんだっけ? とりあえずは木でクラフトをした大きめの桶を設置して、水を溜めれるような状態にしておく。木が心もとない。午後は伐採を頑張るか。
★★★
陽が落ちる前まで、なんとか2本の木を伐採して家に戻ると、明かりが灯っており既にいい匂いがしている。
「お父さん、おかえりなさい」
「ただいま」
手を洗ってリビングに入ればモモが帰りを迎えてくれる。エプロン姿なので、晩ご飯を用意してくれたようだ。
珍しくさくらさんもエプロン姿である。あの人料理できたのか。
「師匠に煮込みハンバーグを教わってました! もう出来てるので出しますね」
「ああ、ありがとう」
ちゃぶ台に座って、飯が出て来るのを待つ。日本にいた時では考えられなかったなぁ。
嫁がいないが、娘がいて姉さんや大福がいて、ついでに燃える鶏もいて、性格が気難しいおばあちゃんがいる、面白い生活だ。
「おい、せっかく私が料理を作ったというのに失礼なことを考えていないか?」
「そんなことないですよ、おば−−さくらさん」
煮込みハンバーグと白米、コーンスープまで作ってくれたようで、洋風ではあるが白米ってとこが、さくらさんも日本人と言っていいだろう。
「にゃーん」
姉さんの号令でいただきますをして、食べ始める。ナチュラルに鶏が食卓にいて、ハンバーグを突いている。
伝令役は助かったし、感謝もしているがこの鶏はいつまでいるのだろうか。
食事が終わるとここでもさくらさんが率先して、皿洗いをしてくれる。ああ、西瓜早く食べたいのか、それとその握っている木の棒はなんですか?
「西瓜割りだ!」
「なんで、西瓜割りなんですか?」
「ん? 西瓜を食べる時に作法なのだろう」
「え?」
チートさんも適当な知識だけ、与えやがったな。
「西瓜割りって、遊びの一種で、作法でないんですよ」
「にゃーん」
楽しそうだからせっかくならやればいいと姉さんはいうけど、割った西瓜って食べにくいんですよ。
モモもさくらさんから聞いていたのか、木の棒を握りしめてキラキラとした目で俺を見上げてくる。仕方ないなー。
明かりの確保が多少できる縁側にブルーシートを用意して、西瓜を置き、目隠し用の布をモモとさくらさんに渡す。
「まずは目隠しをして、棒におでこを当てて、ぐるぐると10回、回って西瓜を見事割れれば成功の遊びなんで」
「了解した!」
「はい!」
最初はモモがやるようで、ぐるぐると回った後にヨタヨタと歩いて西瓜に近づいていく。
「にゃーん」
「左? ですか?」
「にゃーん」
「えい! あれ?」
見事姉さんに騙されて西瓜ではなく地面を叩く結果となった。
「杏お姉ちゃん、酷い!」
「にゃーん」
「なるほど、心理戦を含めた高度な戦いというわけですか」
さくらさんが何か勘違いしているがまぁいいか。
次にさくらさんがぐるぐると回った後に、ピタリと止まると、一直線に西瓜まで進んで木の棒を振り下ろす。西瓜は砕かれることはなく、包丁で切ったかのように綺麗に割れる結果となった。
「もう少し罠を設置するなどしないと、ある程度の戦士では訓練にはならないな」
「いや、訓練じゃないし」
さくらさんのことは置いておいて、切れた西瓜を更に包丁で食べやすいサイズに切っていく。
全員に西瓜が行き渡ったことを確認して、最初に割ったさくらさんから、西瓜を口にする。
シャクシャクと咀嚼し、飲み込む。しばし無言となる。
「これが西瓜か」
「どうですか、旦那さんから聞いていた西瓜の味は」
「こういう時に長生きでよかったと思うよ。頼みがあるのだが、帰る時に西瓜を1つもらえるだろうか」
「いいですよ」
その西瓜をどうするなんて野暮なことは聞かない。旦那さんに供えに行くのだろう。
モモも続けてシャクシャクと種ごと食べて進めていく。
「モモ、種ごと食べると、お腹から西瓜の芽が出てきちゃうぞ」
「本当ですか?」
「ああ」
何を思ったのか、モモは積極的に西瓜の種を食べ始めてしまった。
自給自足する気なのか。さくらさんも真に受けて、種を食べないでください。
「あの、冗談だからね」
モモとさくらさんがシンクロして、ショックを受けた顔をしていた。
なんかおばあちゃんと孫みたいで、可愛いコンビではある。
あと、大福は皮ごと食べないの。お腹壊すよ?




