31 神の怒り
「お父さん、私はさくら様の元で勉強をしたいのですが、許可を貰えますか?」
さくらさんが任せろと言われた翌日の夜には昼に何か話したんだろう、モモが勉強をしたいと言ってきた。
「モモが望むなら構わないよ。でも知識としての勉強ではなく戦いについても学ぶのかな?」
「はい」
モモは簡潔に答え、まっすぐに俺の目を見る。さくらさんに言われたとからではない、自分の、モモの意志を感じる。
「そっか。わかった、やるからには頑張りなさい」
「はい!」
モモがやる気になっているのにこれ以上、俺があーだこうだ、言うのは蛇足だろう。
話が終わると、モモはお風呂に行ってしまった。さくらさんは晩酌をして姉さんは魚の燻製を齧りながら一緒に晩酌をしている。皿を洗い終わるったので、俺もご相伴に預かる。
「子供が大人になるなんてきっとあっという間なのかもしれないですね」
「突然なんだ、そりゃそうだ。私なんてお前以上にあっという間に感じるぞ」
「やっぱりエルフの時間感覚って人は違うもんなんですか?」
「違うな。悠と次に会うのはお前が白髪まじりになる時かなーとは思ってた」
エルフの時間感覚っておかしいな。さくらさんは無理矢理にでも呼ばないと、俺が先に死にそうだ。
「明日からどんなことを教えるんですか?」
「気になるのか?」
「そりゃ、親ですから育成カリキュラムには興味ありますよ」
「最初から無茶はさせないさ、まずは魔法の座学だ。その後はひたすらに基礎訓練だよ」
「思ったよりも地道ですね」
「正直、モモは種族的にも特に魔術関連は伸び代はある。だが基礎がない人間は中身が薄っぺらになる、しっかりと土台を作ってから次に進ませないといけない」
さくらさんは私生活の基礎がなってないから、だらしない人間になってしまったんだな。
「なんだ?」
「いえ、先生になってくれって言ったのはこっちなんですけど、思った以上にまともだなって」
「お前の人選は素晴らしいと褒めてやるぞ、私が何人の王侯貴族、英雄を育てたと思っている」
ドヤ顔をしているが、正直知らん人の話をされても実感は湧かない。とりあえずはモモのことはお願いしますよ。
「へー」
「お前、私に師事したいと言う人間がどれだけいるかわかってるのか!」
「あ、つまみ追加しますね。マッシュポテトに燻製肉混ぜたの作ろうかな」
「くっ! お願いします!」
さくらさんが持ってきた酒をちょびちょびつまみながら料理を進める。
「さくらさん、この世界の魔法ってかっこいい詠唱とかあったりするんですか?」
「ん? 私は使わんな。存在はするが、魔法はイメージ力が大事だからな。悪い手法ではないが私は必要ないと思っている」
「そうなんですか? 確かに姉さんも詠唱してなかったですもんね」
「にゃーん」
なんとなくでできるもんだとか、大概にして姉さんもチートだ。
「水であれば水に触れる時間を増やし、水を飲む量を増やしたりな。後は津波を経験した者、暴風雨を経験した者、火山の噴火を経験した者、土砂崩れを経験した者、経験からくるイメージ力がよりその強さを増幅させる」
「イメージ力ですか……曖昧ですね」
「そうだな、だから詠唱というのも悪い手ではない。詠唱がイメージ力を補助してくれるので、ある程度の威力や成果を担保してくれるからな。これも1つの人間の知恵なんだろうさ」
燻製肉入りのマッシュポテトができたので、ちゃぶ台に並べると、姉さんとさくらさんで競う会うように取って行かれたので俺の分がなくなってしまう。俺が作ったのに。
「やっぱ特定のレアな魔法とかもあるんですか?」
「あるな。神からあたら得られるスキルなどは魔法と分類していいのかわからないがレアで限定的なものだな。今の解析の勇者の解析をする魔法や、お前の癒しの力だって、普通の癒す魔法とはかけ離れたスキルであったと思うぞ」
「火と風と水と土とかが普通の魔法って感じですか」
「そうだな。応用として氷や熱風など生活魔法として根付いているものもある」
「雷とかはあるんですか?」
さくらさんが飲んでいた酒の動きを止めて、ジッと俺を見てくる。なんかまずいこと聞いたかな。
「あるな。この世界では【神の怒り】と言われている現象ではある」
雷とか厨二心をくすぐられるよなー、使えた人はいいなー。
「これまでに私も2人の使い手しか見たことがない。1人は私の夫だ」
流石はチートさん。雷も使っちゃうんですか。
「もう1人は聖国の初代聖女だな。白髪のエルフだよ」
「白髪のエルフが国によって神聖な扱いをされるって聞いてましたけど、それが理由なんですか」
「そうだな、モモがどうなのかはわからないが、当時の彼女は神の怒り、雷に打たれて生還した結果、その魔法が使えるようになったと聞いている」
雷に打たれる可能性ってどのくらいだったかな。




