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家庭菜園物語  作者: コンビニ
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4ー31 闘魂

★悠視点


 扉が凄い音をたてて開く。エリゼ? 帰ってたのか。そうか。

 ただ言葉が見つからないし、出てこない。何も考えたくない。


「酒だけなく、単純に臭い」


 風呂に入ったのは最後、いつだったかな。

 エリゼが近づき、俺の服の首元を掴むと持ち上げられた。苦しいのでやめてほしいんだが、暴れる元気も出ない。


「だらしゃあああああ!」


 痛い。首が繋がってるので手加減をしてくれたとは思うが、非常に痛いビンタだ。

 

「痛いぃ」

「貴方は何をやってるの。さくらさんが珍しく真面目に働いてて、イールまで空気を読んで自分でご飯を用意したりしてる。大福様だってブラッシングが十分じゃなくてゴワゴワでだった。フラれるのかってでだけど、家族を蔑ろにする人だとは思いませんでした」


 エリゼの言う通りだ。俺なんて人の親になる資格はない。


「きっと杏姉さんも父を見限ったわけではないよ。姉さんなりにレイヴィさんに話をしようとしてるんじゃないかな」

「そうかな。わからないじゃないか」

「わからないのだったら、尚更です。姉さんともう一度話をしましょう。それにレイヴィとも、話してみたらどう? 大丈夫、私もできることは力を貸すし」


 エリゼに励まされる日が来るとはな。


「まずはお風呂と髭を剃って、お客も来てるんだから」

「えーね、喧嘩?」


 イールが様子を伺いに来ていたようだ。


「喧嘩ではないよ。励ましてたの」

「イールもやる!」


 え? 待ってイールさん!

 

「ぐえええ! 首がもげる!」

「ちち、元気になった!」

「素晴らしいぞ、イール」


 手加減って物を教えてやる必要がある。殺人者になるぞ。


「また父が引きこもった時には出てくるまで、元気づけてやってくれ」

「わかった!」


 何かあっても引きこもることだけはやめよう。


「イール、ごめんな。それとありがとう」

「ちち、臭い」


 エリゼ以上に獣人だし、鼻が良いもんな。とりあえず風呂に入るか。


「今日はちちと一緒に入ってあげる」

「ありがとさん」


 

 久しぶりにイールとお風呂に入って背中を流してもらった。

 理由は明確にわかってないけど、イールなりに俺が落ち込んでるのはわかってくれているんだろう。

 イールと風呂上がりにリビングに行くと、エリゼが先ほど行っていた、お客さんがいた。


「えっと、来て早々、なんだが情けないとこを見せてしまいました。悠と言います。ゆっくりして行ってください」

「こちらはイライヤさん、私のメイド兼相談役で、過去に失礼なこともしてしまったけど、また私の元で働いてくれてる。あとは旦那さんのムースに娘のライラちゃん」


 皆んなと握手をするが、1人紹介されていない子がいるんだけど。

 見覚えのある法衣だし、聖国の子かな。


「お初にお目にかかります、お父様」


 いつの間にか子供が増えていた!


「私はエリゼ様とモモ様の妹でパスルと申します!」


 エリゼを見てみると、もう手遅れだと言わんばかりの顔をしていた。

 まぁ、握手だけはしておいた。


「シャァー!」

「イール、気持ちはわかるけど失礼だからやめなさい。あ、さくらさんもご迷惑をおかけしまたし。忙しいのに残っていただき、ありがとうございます」

「気にするな。面白かったしな」


 一言は余計だが、なんだかんだ、イールや家のことを見ていてくれたんだ。我慢しよう。

 

「先にお風呂入っちゃいましたけど、皆さんもお風呂どうぞ。露天風呂もありますんで」

「見た、見た、私も入ってみたい。ライラちゃんとイライヤさん、一緒に入りましょうか」

「お姉様、パスルをお忘れですよ」


 女子組はキャッキャとお風呂に向かってしまう。

 ムースさんは女子組が上がった後ということになった。

 イールは疲れが溜まっていたのか、寝落ち寸前だったので部屋まで運び、戻ってきた時にはさくらさんが既に酒を飲み始めていた。


「このワインは絶品ですな」

「そうだろうとも」


 なんでさくらさんが偉そうにしているのか。

 さくらさんからも晩酌をどうだと勧められたが流石に、また飲む気にはなれない。

 風呂を上がってくる前に皆んなの寝床を用意する。イライアさん達は家族ワンセットでいいか。

 エリゼはイールとの方がいいかな、パスルさんは……1人部屋の方がいいだろう。

 

 部屋の準備が整ったのと入れ違いに、お風呂上がりのイライヤさんと、抱き抱えられたライラちゃんと会ったので、部屋まで案内した。ライラちゃんも体力切れのようで、ノックダウンだ。


 リビングに戻ると、ムースさんはお風呂に行ったようでいなかったが、さくらさん、エリゼ、パスルさんでワインを片手に乾杯をしようとしていた。


「エリゼ、我が家のルールは?」

「覚えています……乾杯まで! 乾杯までしようとしただけ!」

「パスルさんも同い年くらいだよね。お酒はダメ」


 さくらさんがつまらんと1人で飲み始めたのを、2人が羨ましそうにみている。

 ワインの代わりにブドウジュースを出してあげた。


「ブドウの味が濃くて美味しい。少し離れた間に色々と増えたんだなぁ。ワインも飲んでみたいなぁー」

「お酒ってね、体がしっかり受け入れるようになってから飲んだ方がいいんだから。勿論、飲み過ぎはいけないけどね」

 

 エリゼは少し不貞腐れていたが、これも体を考えてのことだから仕方ない。

 

「それでさくらさんは、いつ頃出発するんですか?」

「ああ、お前も復帰できたなら、明日には行くよ」

「俺も行ったらダメですよね?」

「今回はやめておけ、気持ちはわかるが、ハルがメインとなる話なのに、お前が来てレイヴィとの話をしようものなら混乱が生じる」

「それなら、ルークの代わりに私が行ってはダメですか? ルークが忙しいというのもありますけど、杏姉さんや、レイヴィとも改めて話したいんです」

「それは構わんが、連れてきた連中はどする」

「私の我儘で申し訳ないんだけど、戻ってくるまでの間、ここに置いてもらえる?」


 エリゼが行くと言い始めたのも俺のことを考えてくれたからなのだろう。断る理由はない。


「戻るとすれば、雪が本格的に降る前にはなると思うが、状況によっては春先になる可能性もあるぞ」

「俺としては、最近は人手がないと手に余るし、イライヤさん達が問題ないなら大丈夫」

「それじゃ、明日改め話してみるね。気を取り直して乾杯しますか!」

「エリゼ、ワインのグラスは触らないこと」



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