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家庭菜園物語  作者: コンビニ
163/180

4ー29 怒髪天

★エリゼ視点


「わん」

「大福様、久しぶり。ん? なんだか毛並みの艶がないような」


 モフモフとした時の触り心地が少し違う。ブラッシング不足なのかな。

 大福様が1人、1人、匂いを嗅ぎ始める。ある1人に対しては何度も、何度も周囲を回りながら、チェックをしている。


「ああ、大福様。私はエリゼ様の妹でパスルと言います。モモ様万歳! 悪い子ではないです」


 必死にアピールをしているが、大福様の顔は険しそうにしている。

 一通り匂いを嗅ぎ終わると、大福様はこっちを見て、どうするこれ、みたいな目で見てくる。

 

「大福様にお任せしますよ」


 パスルは地面に寝転がり、お腹を見せるようなポーズをして、大福様に涙目で訴えかけている。


「わん」


 大福様からは無事許可が降りたようで、5人で無事、森の奥に入れるようになった。

 森の中を歩いていると、既に懐かしさを感じてしまう。


 

「見えてきたよ、あれが賢者の住む家だ」


 畑の水やりや、動物のお世話をしている人影が見える。父とイールだろうか。

 大福が走り出して、呼んできた人は父ではなく、エプロン姿のハイエルフ、さくらさんだ。


「さくらさんがモモもいないのに働いてるなんて珍しい、モモいないですよね?」

「私だって必要であれば働く。ただ今回はちょうど良いタイミングで来てくれた」


 跪いて、挨拶をしようとする面々にいいから畑を手伝ってくれと、作物の収穫や水やりを手伝わせ始めて、さくらさん自信は一息ついていた。


「ここ数年間で1番、働いたと思う」

「何があったんですか?」

「えーね!」


 可愛い白い奴が懐に飛び込んでくる。

 少し大きくなったかな。


「イール、ただいま」

「おかえりー!」

「紹介するよ、まずはイライヤさんと旦那さんのムース、娘さんのライラちゃん。ライラちゃんに色々教えてあげてくれ」

「イールに任せて! 最近はお姉ちゃんなんだから!」


 自慢げに胸を張るイールが可愛い。

 ライラちゃんにも得意げに野菜の説明や収穫の仕方を教えてあげている。

 さっきの自己紹介についてもさくらさんは興味なさげだ。


「お姉様、私の紹介を忘れていましてよ!」

「意図的だから気にするな」

「尚更、気にします! イールちゃん、お姉ちゃんのパスルですよー!」


 イールがパスルに向かってシャーっと警戒をしている。

 父だけでなく、そういえば杏姉さんも見当たらない。


「まだ果樹園もあるんだ、話は仕事が終わってからだぞ」

「偉そうに言ってないで、さくらさんも働いてください」


 帰って早々、一息つけるかと思えば、収穫の手伝いとは。

 黙々と作業を続けていると、昼前に帰宅したはずなのに日が傾きかけていた。

 畑も少し広がっているし、果樹園も増えているから、これだと縮小しないと管理が大変だろうに。


「働き者の嫁がいたんだがな。帰ってしまって」

「嫁って誰ですか?」

「私だって暇じゃないんだぞ。帝国にだって行かないといけないし、新しい皇帝への支援とかでさ。あ、そういえばルーク君だったかな、彼にも帝国に来るように手紙出しておいたから」

「ルークは忙しいんですから、負担かけないでください。新しい皇帝の支援ってなんなんですか、ちゃんと説明してください」


 腹が減ってはなんとやら、と言い始めて雑に家に案内される。

 

「腹が減った、何か作ってくれー」


 ぐでーとする、さくらさん。やっぱり父は見当たらない。


「えーね! イールが作る! 卵焼き!」

「イール、えーねに任せておけ。卵焼き以外も私は食べたいぞ」


 来て早々、収穫だけでなく、料理まで。まぁいいんだけど、父あたりが出迎えてくれて、美味い飯を食べさえてもらえるかもなんて期待したけど、風邪でも引いているのかもしれない。


「エリゼ様、私が支度いたしますか?」


 イライヤさんとムースさんも立ち上がって、台所までついて来てくれる。


「ここの調理道具は少し特殊なので、私がメインで作ります。見ててください」


 何故か卵が冷蔵庫の中に大量にある。肉も玉ねぎもあるな、サッと例の物を作りますかね。

 醤油、みりん、砂糖、酒に玉ねぎを入れて煮る。いい感じになったところで肉を投入して、火が通ってきたら溶き卵を入れて、蓋を閉めて少し固まったら、更に溶き卵、半熟にして完成。

 味噌とじゃがいも、豆腐にネギを入れて、サクッと味噌汁。じゃがいも柔らかくなるまで時間を置きたいけど仕方ない。


「エリゼ様、料理の手際が素晴らしいです」

「モモと父、えっと賢者に仕込まれたからね」

「賢者様を父上のように慕っていらっしゃるんですね」

「父上とは別で、もう1人の父親みたいな感じだからさ、父ってだけ呼んでるんだ。なんだかんだて世話になったし、尊敬できる人だよ」


 まずは子供たちの分をリビングに持っていくと、さくらさんが横から1つ掻っ攫っていく。


「さくらさん、子供らが先です」

「大丈夫、さくら、最近頑張ってるから、イールは我慢できるよ」


 イールがライラちゃんにもう1つの丼をライラちゃんに渡す。いい子に育ったものだ。

 それに比べて、長く生きているだけの子供は。


「イール、さくらお姉ちゃんは嬉しいぞ! いただきます!」


 遠慮すらない。それにお姉ちゃんでもない。


「ライラちゃんもいただきますだよ」


 イールが、食事の作法を教えて、その真似をしてライラちゃんも手を合わせる。

 味については口に合うといいけど。

 台所で、イライヤさんに作り方を教えていると、ライラちゃんの喜んでいるような、声が聞こえた。口にあったようでよかったよ。



 食事を済ますと、イライヤさんにお茶を入れてもらい一息する。

 やっと落ち着いた。デザートには桃をいただく。美味い。


「それで、父は風邪か何かですか?」

「違う。エリゼも知り合いであろう、レイヴィだ」

「ああ、あの強いお姉さん。はいはい、なんか第三皇子からも手紙来てましたし、無事ここにいたんですよね? それで、さくらさんも居るし無事合流はできた。さっきの新皇帝の件も話が繋がってきますね」

「新皇帝なんてどうでもいい、レイヴィだよ、それより」


 新皇帝をどうでもいい発言にイライヤさんやムースさんなど、常識人は少し驚愕していた。


「悠の奴な、レイヴィに振られおったぞ」

「ええ! まぁ、年齢も近いし、そんな関係になってもおかしくはないけど、それでショックを受けちゃった感じなんですか?」

「ああ、床まで一緒にしたようでな。その上、振られるなんてウケると思わんか?」


 爆笑している、さくらさんは配慮に欠けるとは思うけど、床を一緒にしたってそういうこと? 


「えーね、床を一緒にってどういうこと?」

「イールはまだ知らなくて大丈夫なの! さくらさん、父は責任を取らなかったんですか? え、でも振られたって」

「レイヴィも護衛の任務の途中だしな、勢いもあったのだろうが、最終的には悠を巻き込みたくなかったんであろうな。大概、悠も鈍い。その辺の配慮に気がついていない部分もあるんではないかな」

「でも、だったら、帝国まで着いて行くくらいの気概はないんですか!」

「それを私に言われてもな。その発想はなかったんじゃないか? 拒否されたのもあって踏み込めなかったんだろうさ」

「それで、父は今、何をしてるんですか」

「部屋に篭って酒を飲んで、寝てを繰り返しているぞ」

「さくらさんじゃないんですから! 私、ちょっと行ってきます」

「例えが私って……えぇぇ」


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