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家庭菜園物語  作者: コンビニ
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15 誰がために

「ここは本来、迷いの森と言われているが、悠の言葉は借りれば神の庭か。こっちの方が響きはいいな、小さく見えるが横断をしようとすれば直線距離で3日はかかり、普通に通ろうと思えば1週間はかかるだろう」

「どうしてそこまで時間の差があるんですか?」

「広さはそこまでではない、俺達の足なら中心部から南の王坂の近くまでなら大福様の案内があれば1日で行けるだろうな。問題が危険な魔物が多いことだ。普段であれば隠れながら、もしくは戦っても疲労や怪我で進行速度は低下する。大福様の案内なしで平然と入って来れるとすれば、竜王様やさくら様などだろうな。よほどの理由がなければこの森周辺には近づかずに街道を進むだろう」


 ここってそんなに危険なのかよ。あのファミレス神、遠慮なしに俺をそんなとこに飛ばしたのか。

 どうしよう。ますます外に出たくなくなったんだけど。


「そんな危険なんですね。それでガンジュさん達がここの側を通ったのはよほどの理由があったんですね」


 横で一緒に話を聞いてたモモのお腹が大きく鳴った。もうそんな時間か。モモは健康的になってきてからはご飯をよく食べるようになってきた。とても良い傾向だと思う。


「腹が減ってはなんとやらですね。まずはご飯にしましょうか」

「そうだな」

「ごめんなさい。大事なお話中に」


 俺とガンジュさんは笑って、肉を取りに行く。今日は外でバーベキューだな。

 ガンジュさん達は綺麗になったのに家の中に入るのは遠慮がちだ。獣人の本能なのか、大福や姉さんのテリトリーを犯さないように配慮しているのか。


 日が暮れる前にさっさと、ショッピングサイトで購入したバーベキューコンロをガンジュさん達と一緒に組み立て始める。

 ガンジュさん達も最初こそバーベキューコンロの作りには驚いていたけど、合理的だな、とかこれは売れるかもしれないと簡単に組み立ててしまう。シンプルな作りではあるが順応性が高い。

 火をつけるのにもたもたしていた俺に代わってガンジュさんがあっという間に火をつけてしまった。説明書を見ながら火の強弱ができるように炭の配置も調整してくれる。野外料理については勝てる気がしない。


 シンプルに肉に塩胡椒、ピーマンに焼きトマト、いつものじゃがいもに茄子を並べていく。そしてメインの肉。

 滴る油によだれが垂れそうになる。大福はダラダラと涎を既に垂らしている。

 なんでも今日は気分を変えて姉さんも肉を食べるということで、大福と並んで縁側に座っている。


「まずは狩ってきてくれた大福からだな」


 本来は冷ましてから上げるのが普通だが、大福の要望で熱々を食べたいということで、熱々の分厚いステーキを大福の皿に乗せる。

 尻尾がちぎれんばかりにぶんぶんと振られている。なぜ食べないのか。俺をジッと見てくる。あ、そうなの?


「お手、おかわり、待て−−よし!」

「わん!」


 そこはマジで犬なんだな忘れそうになってたよ。しかもちゃんと躾けられている。きっとクールビューティーさんが頑張ったのだろう。


「にゃーん」

「姉さんも熱々いけるんですか? まぁ、異世界ならなんでもありなのかもしれないですね」


 功労者と年長者に肉を振る舞ったら、俺たちの番だ。肉と野菜を盛り付けて、全員に行き渡ったのを確認してガンジュさんにどうぞ音頭をと促す。


「皆に行き渡ったようだな。それでは大福様と悠に感謝していただこう」


 俺はなんもしてないけどなー。それよりも久しぶりの特売で安い肉じゃないしっかりとした肉だ!

 −−なんだこれ! 美味い! なんでこんなに美味いんだよ。生きててよかったー、これだけでも異世界に来た甲斐があるってもんだ。ありがとう神様。


「うまああああい!」


 アダメさんが騒がしいけど、この味が異世界のスタンダードというわけではないんだな。

 鹿っぽい魔物だったけど、味は癖もなく、牛とも豚とも違うけど美味いのは確かだ。


「当然だろう、飛び鹿とも言われる魔獣で、熟練した狩人でも数年に一度狩れるかどうかという代物だ」

「そんな激レアだったんですか。大福様様だなー」

「わん」


 大福がおかわりとでも言っているんだろうか、皿が空になっている。

 モモが気利かせて皿だけ取ってきてくれたので、皿に肉を乗せて渡すと、さっきの俺のマネをしてお手とおかわり、よしをやっていた。モモはたぶん儀式かなんかだと思っているのかもしれない。微笑ましく、可愛いコンビだ。


「悠、大福様がしている儀式、我々も取り入れた方がいいと思うか?」

「やめといてください」


 お腹いっぱいに肉と野菜を食べて、片付ける頃には完全に日が落ちて真っ暗になってしまう。

 皿を片して、寝落ちしそうなモモを連れて風呂の入り方を教える。あまりの気持ちよさに風呂の中で寝落ちしてしまったので、抱えて風呂から上がると、体を拭いて布団に置いてくる。モモの体温が高いのが好きなのか大福もくっついて寝息を立て始める。今日はありがとうな大福。


「モモは寝たのか」

「はい、耐えられなくて風呂で寝落ちしてました」


 ガンジュさんは姉さんと何か話していたのか、揃って縁側に座っていた。


「そうか。俺にも同じくらいの歳の娘がいる。彼女よりもお転婆で困ったものだがな」

「そうなんですか。可愛い盛りですよね」


 うむ、と故郷を懐かしむ様子のガンジュさん。夕方の続きが聞ける感じだろうか。


「この世界で食糧関連が不足していることをさくら様には聞いていそうだな」

「にゃーん」

 

 姉さんが話してくれたのか。うん、そんな話はなんとなく聞いた。あのファ神の管理ミスだよね。


「1つの国が大きく割れ4つになり、それも安定し、暇を持て余した為政者が土地を争うようになった。戦争が続いたことで進歩した技術もあったが、食については徐々に衰退していき、その貯金を切り崩され焦った為政者達は3世代前に和平を行って仮初ではあるが平和になった」


 戦争する体力がなくなってしまったんだな。進歩した技術っていうのは兵器とかなのかな?

 

「だがそれも手遅れでな。昔は野心から土地の拡大などを行なわれていたが、今はそうではない。食べ物を奪うために戦争が起こりかけている。起こり始めていると言った方が正しいかもしれない」

「それこそ失敗から学ぶなら、協力するべきなんじゃないんですか?」

「それが手遅れだということなのだ。1つの国だった時代には様々な食材が存在していたが、その種も失われ、弱くなってしまった作物は育ちにくくなってしまった。今では作物を育てるというのが非常に難しい状況で育てるよりも奪うという考えに変わっている」


 そんなの、最終的には共倒れになるだけじゃないのか。


「にゃーん」


 先にお前が言ったとおり、人は失敗から学ぶ。今回も大きな失敗とはなるだろうが、その痛みを持って後世の知ることになる。

 人口は一時的には減るかもしれないが、それはある意味で最適化されということでもあるって、考え方がドライすぎでしょ!


「姉さん、人の命なんですよ! 少し冷たくないですか」

「にゃーん」


 私はそもそも人ではないし、お前や、その周りにいる人間くらいにしか興味はない。

 私とお前、その周りの人間が幸せならそれでいい。その他の人間の命に興味もない。

 所詮、私たちにとっては他人事だと、姉さんはドライな

 そうなんだけど、俺もここにいれば安全だし問題なとか思ってるけど、それでも悲しい話じゃないですか。


「悠、我々に寄り添ってくれることは感謝するよ。だがこれは我々の問題だ。お前が気にすることではないし、杏殿のおっしゃることももっともな話だ。俺だって家族が大事だし、気持ちはわかる」

「安全な土地でぬくぬくしててすいません」

「悠がここにいる背景を考えれば、お前が謝ることでもないだろうさ。十分、辛い仕打ちは受けていると思う。逆に言えばここでしか生きれないのだ」


 俺は引きこもるのも嫌いではないし、嫁が欲しいなとか少し考えたりもするけど、籠の中の鳥状態だもんな。

 

「ガンジュさん達は戦争に近い争いをしてこの森に逃れてきたんですか?」

「簡単に言ってしまえばそうだ。悠には誰が悪いということではないことを知ってほしくてな」


 誰が悪いということではない。確かにその通りなんだけど当事者であるこの人がそれを言い切れるというのは凄いと思う。

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