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家庭菜園物語  作者: コンビニ
152/180

4ー18 こぼれ落ちる涙

★悠視点


 雪がちらつき始めると、妖精達の動きも多少鈍くなってくる。若葉はそんなそぶりを見せなかったが、どうやら冬は長い眠りにつくのが一般的らしい。

 

「言ってなかった?」

「聞いてない」


 妖精王と普通の妖精さんではそんな違いがあるとはね。

 金策についても冬の間に育つ作物は少ないからいいんだけどさ。

 今は妖精さん達に頑張ってもらったおかげで質の高い米はあるし、これをどんどん焼酎の作成に回せば金策部分は問題はない。また春にバリバリと頑張ってもらおう。


「その間は妖精王様に頑張ってもらうか」

「様をつければいいって思ってるんじゃないの」


 焼酎も普通のは15リットル丸々で12万になるが上質な麦だとリッターの単価が1万円に上がる。

 一回で15万円になるわけだ。これぞチートアイテムだよ。

 ガンジュさんに出せる量は少なくなるがビールで我慢してもらおう。

 ただ飲む人が増えればビールもあっという間になくなってしまう問題に直面した。


 ビールは大衆の飲み物であり、単価も安く、売るよりは家庭内での消費が多いわけだが、焼酎と同じく3日に一回樽から回収できるが10リットルしか収穫ができない。いや、俺だけなら十分な量だし、そこまで頻繁に作る必要なんてない。


 ただ聡介夫婦にガンジュさん、そて最も消費量が多いヴィがいる。焼酎を売り中心に回せば足りなくなってしまうのだ。


「ヴィ、ビールは飲み過ぎると体に悪いから今日はお茶にしておきなさい」

「ビールは私にとっての生命の水だ!」

「何をおっさんみたいなことを言ってるの! お母さんは許さないんだからねっ!」

「誰が私の母上だ! ビール! ビール! ビール!」


 おい、この従者を早くなんとかしろよ。

 ハルに視線を向けると露骨に視線を逸らさられてしまった。お前の従者だろうが。

 ヴィは大の字に寝そべると瞳に涙を溜めて、なんなら少し泣いている。そこまでのことか?

 22歳の子供がイールと牡丹ちゃんにいい子、いい子と頭を撫でられているのは実にシュールな絵面である。


 駄々をこねてはいたがハルに何か言われたみたいで、文句を言ったりしてくることはなかった。

 なんだか悪いことした気分にこちらがなってしまう。

 あと晩酌の時にはビールを美味そうに飲むものの、少し物足りなそうにしているのが気になってしまった。しゃーねーな。


 数日すると、雪が本格的に降り出し、炬燵を出す時期がやってきた。

 今回は人数も多いので炬燵をもう一台購入した、イールはやはり猫系の獣人のためか非常に気に入ってくれた。妖精達の家にもミニチュアの炬燵を設置したが、どういう原理が知らないが本当に炬燵として機能があり、非常にこれも好評だ。


「ビールには蜜柑、悪くないな」

「ヴィにとってはビールにはなんでも合うだろうが」


 夕食に野菜たっぷりの魚ベースの鍋を食べて、お腹が膨れたタイミングでそれぞれにプレゼントを渡していく。


「兄貴、これってクリスマスプレゼントですか?」

「ああ、そんなもんだよ。時期としてはだいぶ早いと思うし、クリスマスっていうと別の宗教だしってのも考えたけどせっかく人もいるしさ、いいかなって」


 以前にモモやエリゼにあげたマフラーや手袋を子供達に、ガンジュさんには実用的なナイフを、聡介夫婦には箸セットをハルには俺が似合ってないと言われたスーツのお下がりをあげた。スーツは少し大きくなれば着れるようになるだろうさ。

 大福には食べ物を姉さんには寝心地が良さそうなクッションをプレゼントした。 

 最後にヴィが自分には何をくれるんだろうと、尻尾が生えていればブンブンと振っているだろうなという、期待の眼差しを向けてくる。


「これは言っておくけど、ヴィ専用じゃないからな」


 ヴィのためだけではない、大人連中が楽しめるようにとビール樽をもう一つ購入した。

 甘やかすことになるだろうが、時折見せる、ビールを飲み切った後の寂しそうな表情はこっちの気分まで下げられてしまうのでこれは致し方ない。


 嬉しそうにビール樽に頬擦りする姿はなんだか女子力は低くて笑えてくる。だがヴィはこれでいいんだと思う。ここを出てビールが飲めなくなったらどうするんだろうか? まぁこの世界にも酒はあるし問題はないか。


「兄貴、普通は女の子に贈り物するならアクセサリーとか気の利いた物じゃないんですか?」

「【女の子】に贈るならな。あれを見てみろ、ただのおっさんだよ」


 早速と言わんばかりにビールのおかわりをして飲み干している。口の周りには見事な白い髭。

 そんなヴィの姿を皆んなで笑いながら話していると、勇気君のクッションがわりになっていた大福が吠え始める。


「大福どうした?」

「聡介、勇気をどかしてやってくれ」


 ガンジュさんの指示で聡介が大福をどかすと、玄関に全力疾走して、引き戸を器用に開けて出て行ってしまう。どうしたんだよ。


「誰かが空からやってきたようだ」

「大福は空からの訪問嫌いますからね。でも入れるってことは知り合いなんですかね」

「そこまでは俺にもわからん。聡介達は子供達を頼む」


 ガンジュさんと外に出ると、大福の視線の先には巨大化したピーちゃんの姿があった。モモが帰ってきたのか?

 ピーちゃんが降り立つ、背中には1人だけしか乗っていなかった。月明かりに照らされて少し輝く銀髪、これはサイラじゃないか。


「わん!」


 大福はご立腹のようで、人を乗せて直でくるんじゃないと怒っているんだろうか、ピーちゃんも少しショボーンとしているのがわかる。

 それよりも背中に乗せてサイラの反応がない。生きてるのか?


「この青年は?」

「モモの婿ですよ」


 ガンジュさんに手伝ってもらい、背中から下ろすとイールがサイラだと分かったのか駆け寄ってきて、サイラの上に乗ると鼻をひく突かせた後に何度か頬を平手で叩く。この子は突然なんてことをしているか。

 ただ効果は的面だったようで、サイラは少し反応を見せる。生きてはいるみたいだ。


「さ、寒い」

「そうだろうな。ガンジュさん、家の中に運ぶのを手伝ってもらっていいですか?」


 ガンジュさんに運んでもらった後、暖かい家の中で直ぐに話せるまでに回復したサイラが衝撃的なことを話し始めた。


「モモは神様からのお告げがあったみたいで、向かうとこがあると。危険なので僕は連れて行けないし、心配だから義父さんのところにいるように言われて、大福様にも直接降り立つのは緊急時だから謝っておいてほしいと」


 神様のお告げ、危険なとこ? あのファミレス様はモモに何をやらせようと言うのか!

 サイラの話を聞いて、守りの木の下に作成中の簡易祭壇に走る。姉さんと大福もついてきてくれた。

 到着すると待ってましたと言わんばかりにサイゼ様の補佐をしているリープさんが既にすまし顔で立っていた。

 他の人間が干渉できないようになのか、前にもあった時が止まっているような変な空間にいる感じはする。


「今回の件はサイゼ様が主導ではなく、私が主導でサイゼ様には内密に進めています」

「質問をする前に答えていただきありがとうございます。それを詳しく聞けますか? 危険なことなんですよね?」

「サイゼ様を騙していた男が天界から脱走し、この世界に堕天しました。その対処はさくらとモモに依頼してます」


 例のダメ男の話しか。


「にゃーん」


 そうだ、姉さんの言う通りだ! 神様の問題ならそっちで解決することだろう!


「この世界に神としてではなく、神から落ちて人として入り込まれました。我々が直接動くことができません。そういった問題を解決するのがハイエルフに与えられた指名です。人が犯す問題は人に、この世界の調停者に対処をしてもらいます」

「そもそも問題はそっち側の話しでしょ」

「そうですが、堕天されてしまっては私達にできることはないのです。またサイゼ様がこの話を聞けば対処するためにルールを破りかねませんから、内密に動いています」


 全部そっち本位の理由じゃん!


「モモだって納得しています。その為に与えられた力ですから。それにこの世界を守ることは貴方を守ることに繋がる」

「にゃーん」

「そうですね。最近起きていた問題は全部、ダメ男がやっていたことのようです。大福のフィルターとは別のとこで爆発的なことをしていたみたいですね」

「それでモモなら楽勝なんですか? 安全性は?」


 まさかのリープさんは少し考え始めてしまった。モモなら楽勝と即答してくれなかった。

 

「モモだけなら五分五分、さくらも揃えば8割くらいでしょうか」


 微妙なラインだ。大福は……ここから大きく出ることはできないしな。


「にゃーん」

「それは願ってもないことです」

「姉さん本気ですか?」


 姉さんが様子を見に行く? 嘘でしょ? 確かに姉さんなら出ていけるけど、姉さんが怪我をしないか心配だ。


「にゃーん」

「わかりました。姉さん、モモ達のことをお願いします」


 

 

 

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