4−14 花嫁
★悠視点
大福が誰か来たことに気がついて家を出てから1日、来客の予定を手紙でもらっていたのでこのことは事前に知っていた。そろそろ客人を連れて家にやってくる頃だろう。
「ユウ、ご機嫌だな。それにその変な格好はなんだ?」
「これはスーツだよ。大切な客人がくるからな、いい子にしてろよヴィ」
「私は子供かなにかか。いつものツナギ方が似合ってると思うがな」
似合ってる、似合ってないの問題じゃないんだよね。うーん、でも似合ってないかな? 4万くらいしたし、それなりだとは思うだんけど。
「父、変」
娘からも不評なようで、辛辣な言葉を短文で言われてしまった。悲しいけど、この後のことを考えれば悲しくないもんね!
イールを抱き上げて、頭を撫でてやる。
「今日は大事なお客様が来るんだ。イールのママになるかもしれない人だぞ」
「イールの母はもういないもん……」
「ユウ、なんと辛辣なことを言うのだ」
ヴィにイールを奪われてしまい、イールも涙目でこっちを見てくる。違うのよ、違うの!
「ごめんな、イール。そのパパはね、結婚するかもしれないんだ。そうすれば、イールの新しいママができるかもしれないって話なんだ」
「新しい母?」
「そうだよ、最初は抵抗あるかもしれないけど、イールのことを理解してくれる優しい人だよきっと」
もう一度、ヴィからイールを奪い返して、よしよしとあやす。
「森の賢者は会うと期待外れなところはあるからな。イール、あまり期待しない方がいいぞ」
「誰が期待外れだ」
「あ、大福様」
俺には聞こえなかったがイールには大福の足をが聞こえたようで、1人で外に行ってしまった。
ああ、緊張する。髪のセットもよし、スーツもよし、口臭もよし。
「ヴィ、身だしなみは大丈夫かな?」
「だから似合ってないぞ」
聞いた相手を間違ったな。いざ、出陣。
普段は履かない革靴を履いて、外にでると、花の手入れをしていたハルも合流してきた。
「悠さん、素敵なスーツですね」
「そうだろう? やっぱわかる奴にはわかるんだよな。似合ってるだろ?」
ハルは苦笑いをして、軽く頷いてくれた。え、そんなに似合ってない?
今、スーツだけ誉めたってこと?
今回の来客はガンジュさん、解析の勇者こと聡介とそのお嫁さん、子供が2人で一家総出で冬の間の休暇に我が家に来ることになった。
それに合わせて、俺のお見合い相手を連れてきてくれることになっている。
おかしいなぁ。大福にガンジュさん、聡介の一家。子供を抱いてるし、あれが奥さんでしょ。
俺のお見合い相手が見えないんだけど。
「ユウ、久しいな」
「ガンジュさん、お久しぶりです!」
まずはガンジュさんと熱い抱擁をして握手をする。
「この子がイールです。ご挨拶して」
「イール……です」
恥ずかしいのか俺の影に隠れている。獣人仲間には虐められたし、知らない大人には抵抗があるのかもしれない。
「ガンジュだ。お前の父には世話になっている。よろしく頼む」
ガンジュさんが凶悪な笑みを浮かべて、イールを抱き上げると最初こそ驚いていたが、ガンジュさんのモフモフが落ち着くのか直ぐに笑顔を見せていた。
事前にイールのことや毛の色のことは相談していたので、ガンジュさんも偏見の目で見ることはない。むしろ、相談した時には「毛の色だけで判断するのは愚かだ」と相変わらず、この世界にとっては非常識で、とても常識的な思考を持っていた。
「兄貴、お久しぶりですー」
「なにをヘラヘラしているんだよ」
文句を言いながら握手はする。
「嫁のルリアです」
「お初にお目にかかります。ルリア・イシカワです。夫がお世話になっております」
13歳の子結婚したと聞いていたが、普通にブロンドの美人さんだ。もう結婚してから年数も経過しているし、大人になってるのは当然のことか。
子供も産んでいるからなのか年齢は17か18くらいだと思うけど、ずっと大人に見える。
「悠です。俺も聡介にはお世話になってます。今回はゆっくりしていってください」
「ありがとうございます。こちらが娘のボタンとユウキです」
娘さんはイールと同い年か少し年下だろうか。息子さんは奥さんに抱かれていて、まだ小さい。2歳くらいかな。
「ボタンです。おじさま、よろしくお願いします」
スカートの端を持ち上げて、辿々しい挨拶をしてくれる。可愛い。でもおじさまか、そうだよね。
息子さんは奥さんの腕の中で寝ているので挨拶は割愛させてもらう。
イールがガンジュさんから飛び降りると、ルリアさんとボタンちゃんの匂いを嗅ぎ始める。
「イール、失礼だからやめなさい」
「獣人にとっては普通のことだ」
ガンジュさんがフォローを入れてくれる。2人も慣れているのか、そこまで驚いてはいないのが救いだ。
「新し母は?」
イールの一言で、ヘラヘラしていた聡介とガンジュさんも気まずそうな顔する。
「わん!」
大福に至っては仕事をしたぜ! みたいな顔だ。
誉めて欲しそうにしているので、大福を撫でてやる。そうか、そうなんだな。
「イール、ボタンちゃん達を家の中に案内してあげてくれるか」
「わかった!」
ボタンちゃんの手を引いて、家に向かって歩いていく。それに続いて、奥さんや大福、ハルと聡介も続いて行く。ハルがついて行ってくれるなら上手くフォローもしてくれるだろう。
「聡介、お前は待て」
「はいー」
その場に残ったのは聡介とガンジュさん、何故かヴィも残っている。
「いやー、連れてきたんですよ。マジで」
「うむ。我々からもハーフの娘などを連れてきたんだがな。大福様がな」
「許可を出さなかったってことですか」
「悪い子達ではないのは確かんですよ? でもちょっと婚活についてギラギラしていた面もあってですね」
そういう展開か。端の方でヴィがニヤニヤして口元を押さえてるのが腹たつんだけど。
「護衛も何名か連れてきてたので、女の子達はちゃんと送り届けてますから安心してくださいっす」
「そうか。女性陣には恥をかかせてしまった。最後にお土産を持たせるか謝罪も込めて渡してもらっていいか?」
「任せてください。アフターフォローはバッチリと」
「そうか、じゃあ気をつけて帰ってくれな。ガンジュさん、家も新しくなったので案内しますよ」
「兄貴! ナチュラルに帰そうとするのは勘弁!」
冗談だよ。聡介もガンジュさんもやるべきこと、俺の願いは聞いてくれた。結果的に今回は縁がなかっただけだ。
「だが既に番がいるようでよかった」
「いないですけど」
ガンジュさんの視線の先にヴィがいる。大きな間違いだ。
「そちらの娘は?」
「私はレイヴィ・サトウ。ハル様の護衛だ」
「ああ、聞いてた、第三皇子の護衛か。それは失礼なことを言ってしまった」
「いえいえ、名高い戦士、トヨナカ・ガンジュどのお会いできて光栄だ。私の好みはガンジュ殿のように強い御仁ですよ」
「生憎、妻子持ちでしてな」
「それは残念だ」
2人共に本気ではないのだろう。笑いながら握手をする。
「新しく招かれた勇者殿と会うのも初めてですね」
「よろしくお願いします。俺としては安全な生活が保障されるならハル様を推します」
「それはありがたい」
今回の出会いで、ハルの基盤も少しは強化できるといいけど。
まぁ皇帝になるとか本人次第ではるけど、俺も下手な人間がなるよりは、ハルの為人を見た感じは彼を推すけどね。
「長旅で疲れたでしょう。ゆっくりしていってください」
もう時期、秋から長い冬に変わる。
露天風呂を早く作りたいね。




