4ー13 ソード家②
★エリゼ視点
リリアさんの従者であったメイドさんと女騎士の人が宿屋に迎えにいきてくれた。
今回にはついては私が1人での登城となる。
ドレス姿などはなく、上質な鎧などを身に纏った、女騎士の人と似たような格好をしている。自分は令嬢ではなく、1人の戦士ですよというアピールでもある。
案内された部屋は応接室などではなく、家族が食事をする私的な部屋だった。
上座には現当主のライアン・ソード、ルークとリリアが並んで座っており、ルークの対面には見慣れない女性が座っている。
事前にリリアさんから聞いていたが、あの子がルルイゼだろう。従姉妹ではあるはずだけど、正直、沢山の親族がいたので覚えてはいない。
父上に促されるまま、メイドが引いてくれた椅子に座る。帯剣も許されているし、害するつもりはないんだと思う。
「初めましてと言うべきか久しぶりと言うべきかな、エリゼ」
「父上、お久しぶりです。ただいま戻りました」
「ふむ。そうなるのかな。ただ私にとっては君が本物であるか偽物であるかは関係がないことだ。君はエリゼ・ソードということになる。これだけの紹介状を持っていきている時点で、偽物かどうかとは些細な問題だ。おかえり、エリゼ」
父上が形だけの笑顔を見せる。父やモモ、さくらさん、王坂と聖国のお偉方、ついでに帝国の第三皇子の書状もある。
これだけのコネクションを持っていることを知れば迎え入れる以外の選択肢がないと納得してくれたんだろう。
「単刀直入な話をしようじゃないか。エリゼ、君の願いはなんだ? 次期当主の座か?」
微笑んでいる父上とは対照的にルークが敵意を向けてくる。それはどうだろう、突然戻ってきたポンコツの姉が自分の地位を奪おうとしているのだから。
「次期当主はルークです。私はルークの手伝いをしながら、分家として領地の管理の手伝いをできればと思っています」
「そうか。具体的にはどこが欲しい」
話が早くて助かる。父上も私の考えはなんとなく理解してくれているようだ。
「王坂との国境近く、迷いの森に程近い場所を開拓して、物流の拠点としての街を作りたいと考えています」
「わざわざ開拓をしなくても、通ってきた辺境の街をそのまま管理するればいいのではないか?」
「あの街はリリアさんの尽力で落ち着きは取り戻しましたが、あの街に関わらず、農奴、貧民層、平民と富裕層の軋轢は大きいままです。それに加えて他国、多種族の人達と交流しなければならないと考えればあの街ではなく一から、多種多様な種族の人と協力して街を作る必要があります」
「絵空事だぞ。種族の違い、国の違い、わかり合うことなんて最終的には不可能だ」
「おっしゃる通りです。100パーセントは無理ですが、その半分でもいい、関わりたくない人は関わらないければいいだけです。私もそれを無理にお願いしようとは思いません」
表面上だけでもいい。これから国同士の交流を深めるためにそういった緩衝材になるような街が必要になる。王坂のサカイがいい例になってくれている、あそこは人数の規模はそこまで多くないが人と獣人が仲良く暮らしている。
「なるほど。それでその人はどうやって集める? 農奴の連中が嫌がればどうする?」
「通常通りの開拓民の募集と、農奴の人達には開拓成功時の解放条件をつけて協力してもらいたいと考えています」
「解放されて全員がいなくなればどうする?」
「国や別の土地に戻っても働き口がなければ残ってくれると考えてます。何よりも自分達から残ってくれるような街作りをできるように尽力します」
「領地も管理したことがない小娘が偉そうなこと言うな」
「そうです。私には経験がありませんがそれをサポートしてくれる仲間もいます。全部自分でやろうとは今は考えていません。皆んなで協力して進めていくつもりです。ですから、図々しいお願いになりますが父上やルーク、リリアさんにも力を貸してほしいと思っています」
父上からの返答はなく、考えるように目を閉じてしまった。
「私も協力しますよ、エリゼお姉様」
「私も!」
「ルルイゼ、リリア、父上が話している最中だぞ」
「ルーク、構わん。私もルークも別に仕事がある。お前がいう通り図々しい願いだが、できる範囲で協力はしよう。ルルイゼやリリアさんが力を貸したいというのであれば好きにしてよい」
「父上、リリアさんも、あとはえっと、ルルイゼさんでいいのかしら? ありがとう」
「開拓をするにしろ、これから冬だ、開始は春になるだろう。それまで我が家で英気を養うといい。あとは開拓に関する金の計算をしておけ」
「お金だけではなくて、開拓するとなれば騎士や兵士の人員も必要だと思いますが、それも用意いただけるんですか?」
私に代わって、ルルイゼさんが質問をしてくれた。随分、私のやることに協力的だ。
「騎士や兵士は必要であれば使ってもよいが、上限は決める。あとは命令ではなく希望者を募る形にする」
「お父様ったら意地悪ですね」
希望者を募る。開拓者の募集は仕事がないものなど、ある程度は集まるだろうし、農奴は半強制的に集める形になる。
ただ騎士や兵士の人達が好き好んで辺境の開拓地に行こうと考える人はほぼいない。
「お願いや募集は自由にしてもいいんですね?」
「構わん。団長、副団長には話をしておこう」
「わかりました。ありがとうございます」
「話がまとまってなによりです。それでは家族水いらずで昼食会を開始してもよいですかね」
ルルイゼさんが目配せをすると、扉が開いて料理が運ばれてくる。この雰囲気では味がしなそうだなぁ。
昼食会ではルルイゼさんが、色々な話題を振って話を進めてくれた。改めての自己紹介であったり、今の季節がどうの、街の様子がどのと、という当たり障りのない内容だ。
「エリゼお姉様は春までの間、どのように過ごすつもりですか?」
「そうですね。何か家の力になれることがあればと考えています」
「嫌ですわ。私は妹なんですから、敬語はやめてください。そうですわ、お父様、お姉様は優秀な戦士で冒険者でもあるんですから、騎士団に協力してもらってはどうですか?」
「本人が構わないのであれば好きにすればいい」
「騎士団で働かせるよりもパーティーにでも出して、有力者との政略結婚でもさせたらどうだ」
「お兄様、有力者と結婚でもされては逆に家を乗っ取られてしまいますよ? わかってて嫌がらせを言うとリリアさんに嫌われますよ。それにエリゼお姉様だって当主になるつもりがないという話ですから、パーティーなどのそちら方面の協力は嫌ですよね?」
何かを誘導しようとしているのか、ルルイゼが主導で進む話にただ頷くことしかできない。
「ルーク、エリゼさんに嫌がらせなんてしたら、モモちゃんが怒りながら飛んできちゃうよ」
「それでモモさんにまた会えるなら、アリかもしれませんね」
「ルルイゼちゃんも冗談なんだから本気にしないでね」
うふふと笑い合う女性陣に対して、父上もルークも表情が変わらない。
この2人はこんな堅物とよく上手くやっている。ルークもリリアさんと2人だけなら甘えたりするのだろうか?
「それで騎士団への参加の件は、エリゼお姉様、ご本人はいかがですか?」
「私も手伝えることがあって問題ないなら是非とも参加したいわ」
またルルイゼさんが目配せをすると、メイドさんが扉を開ける。入ってきたのは副団長さんだ。
胸に手を当ててお辞儀をすると、父上に視線を向けるが、用があるのはルルイゼの方だと視線だけで会話がされていた。
「副団長、エリゼお姉様に騎士団のお仕事を手伝ってもらおうと考えているんですがいかがですか?」
「はい。とても喜ばしいことです。エリゼ様の武勇は比類なきもの、騎士団にも良い影響があるでしょう」
「では副団長の麾下ということで一時預かりをしてもらう形でいいかしら」
「かしこまりました。エリゼ様、改めよろしくお願いします」
なんだろうか、ルルイゼの掌の上で踊ってる気がするけど。とりあえずはお願いしますとだけ回答をしておいた。
宿屋に一度戻ってパスルに相談でもしてみよう。




