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家庭菜園物語  作者: コンビニ
143/180

4−9 辺境の街にて④

★エリゼ視点


 普通の魔物ではないは無いのは間違いない。前にモモが倒したって噂が出ていた怪物の一種だろうか。

 もしそうなのであればさくらさんやモモ、大福様の対応範囲になる。

 その場にいた全員が口を半開きにして遠くにる怪物を見上げる。そんな中で最初に言葉を発したのはリリアさんだった。


「街に戻って住民の避難を、先行して別の街にも報告を、それぞれ動いてください。私は街に戻って避難誘導を行います」

「リリア様、いけません」


 当然、リリアさんは副団長やメイド連中に止められてしまう。

 近くにモモはいないだろうし、大福様は結界の外まで大きく移動はできない、さくらさんは? 神出鬼没だから予想ができない。神様がなんとかしてくれる? それも可能性が低いよね。


「リリアさん、貴女が行くことは認められない。何かあれば弟が悲しむ。他の人に安全なとこにいて。あのデカブツは私が相手をして、進行を遅らせる」

「エリゼさんにそんな危険なことはさせられません!」

「これが最適解だよ。下手な軍隊で挑んでも死人を増やすだけだし、足手まといになる。死ぬつもりはないから安心して。レオン、エリン、リリアさんを守って」


 2人はついて行くとは言ってこなかった。あのレベルの相手には自分達も足手まといになると理解してくれているんだろう。


「お姉様、お気をつけて! 私もリリアのことを守っています!」

「パスル、あんたは私とくるのよ」

「か弱い私では無理です!」

「前に限定的ではあるけど、強力な聖魔法を行使できるようになったって言ってたでしょ。もしかしたら効くかもしれない」

「モモ様ラブラブビームは極大な対価を支払うことになるんですよ……私に死ねって言うんですか!」


 呪文名まで聞いてなかったけど、えぐい名前してるわね。


「パスルちゃんの命を引き換えにするだなんて、私も反対です」

「心配しないでリリアさん、命なんて使用する必要はないから。使うのはモモの髪の毛や爪よ」

「命よりも重い聖遺物なんですよ!」

「遺物ってモモはまだ生きてるし。モモからは私が髪の毛とかもらえるようにお願いするから」

「お願いではなく。確約してほしいです」

「わかった。確約するから」

「やったー! モモ様の髪の毛に爪に、あとはどこの毛を貰おうかなー、ゲヘヘ」


 女の子がしていい顔ではない。

 話はまとまった。パスルを抱き上げて、怪物の元に向かうか。


「キャッ! お姉様ってら強引なんだから」

「変なこと言わないの。私が持って移動した方が早いから。じゃぁ行ってくるから」


 そこまで距離はないかと思ったけど、近づけば近づくほど、想像以上の大きさであることが判明する。

 城よりも大きなサイズだ。

 あんなレベルのをモモは倒したの? あの子もつくづく化け物じみてる。


「お姉様、流石にあのレベルはやばいんじゃないですか?」

「そうかも。いざとなったら私が足止めするから全力で逃げて」


 パスルには遠距離から隙を見て攻撃するように話して、怪物の足元へと移動する。

 これはどう相手をしたらいいものか。


 私の存在に気がついたのか、足を大きく上げて踏み潰そうとしてくる。巨大ではあるが愚鈍ね。

 もう片方の足を全力で剣で切りつけるが、刃が通るはずもないので叩きつける形になる。

 巨体がバランスを崩して転倒した。


 そのまま頭に駆け上がり、同じように全力の一撃を入れてはみるが剣が折れただけで効果は薄い。


『モモ様ラブラブビーーーーーム』


 どこからか、変な叫び声が聞こえた後に巨大な光の弾が飛んでくる。

 怪物から距離をとって着弾した後の様子を眺める。

 技名はともかく、聞いていた以上に強力な魔法だったが、あれでも倒し切ることができない。

 怪物が表現できないような雄叫びを上げて、私とはとは違う方向に走り出す。


「パスルが危ない!」


 暴れ散らす怪物からなんとか逃げていたパスルを拾って、街から離れるように走る。

 

「お姉様! 怖かったぁ! 私のモモ様への愛が通じないなんて、まだまだモモ様への愛が足りないと実感できました」


 変態を更に昇華させるきっかけを作ってしまった。生きて帰れたらモモに謝ろう。


「コケー」

「火の鶏!」

「お姉様? 何をって! 投げないでぇえ!」


 大福様が寄越してくれたのだろうか。パスルを高く投げ飛ばして火の鶏に預ける。


「パスルを逃して、ここはもう一回足止めをするから!」


 予備の武器を魔法のカバンから取り出して、顔に、足に体に切りつけてはみるが効果はやはりない。

 それでもターゲットを私には移してくれた。

 何度目かの攻撃でまた剣が折れてしまい、油断した瞬間だった。愚鈍だと思っていた怪物の思ったよりも早い腕の振り下ろしが直撃した。


 

「今日は何が食べたい?」

「お父さん、今日はすき焼きがいい!」

「にゃーん」

「わん!」


 炬燵に入りながら、今日の晩御飯の相談をする。

 すき焼き、悪くない。


「エリゼ、肉ばっかり食べないの! 野菜も食べて」

「これじゃあ、モモがお姉ちゃんだな」


 野菜も食べてるもん。少し肉が多いだけ。



 あっ! 目の前に巨大な壁が出現した。壁ではない!

 全力で転げ回るようにして、日が当たる範囲に逃げると、今までいたところが押しつぶされて、砂がぼこりが舞う。

 さっきの一撃で気を失っていたのか、寝ていたのか、幸せな夢を見ていた。

 身体中が痛い、でも折れている箇所はない、まだ動ける。大丈夫だ、少しでも長く時間を稼ぐ。


「は? 何これ」


 空から剣が降ってきて、目の前の地面に突き刺さる。

 派手な装飾こそされていなけど、素晴らしい剣というのはわかる。

 どこかで見たことがある。そうだ、国宝の絵で似たような剣を。でもあの剣は国が割れた時に行方不明になったはず。


「初代ジャスティス王が使っていた、聖剣【天叢雲剣】なの?」


 その剣を握ると不思議としっくりと手に収まった。どう扱えばいいのか、これからどうすればいいのかも。


「エクスカリバぁあああああああああ!」


 技名を唱え、剣を振ると巨大な光の帯が怪物を包み込み、全てを無に返す。

 勝てたのかな。私の力ではない、この剣のおかげだ。

 ただ体が動かない。疲労感でいっぱいだ。


「その剣を扱えるとは、成長したな」

「お姉様ぁあああああああああ!」

 

 やめて押し倒して顔を舐めてこないで。


「お姉様ぁああああああ! はぁはぁ、モモ様の味かする」


 そんな味はしない。

 

「さくらさん、来ていただきありがとうございました」

「良い酒のつまみになったぞ。まずはこれを飲め」

「口移しで私がやりますね。動けないなら仕方がないことです」

「やめ、やめろおおお!」



 薬を飲み込んだ方法は割愛したい。とりあえずはパスルをボコボコにした。

 火の鳥は大福様がやっぱり出してくれたらしく、近くにいたさくらさんを拾ってここまでやってきてくれたらしい。私とパスルが到着する前にはいたらしいけど、面白そうだから見ていたという部分にはイラッとしたけど、助けてくれたのは事実なのでお礼は言っておいた。


「ソードの家に戻ることにしたのか。私が以前に渡した書状が役に立つといいな。あとはついでにその剣もやろう、お前が管理することを許す」

「こんなのもらえませんよ。王が持つ剣ですよね」

「王の剣ってわけではない。選ばれた英雄が持つ剣だ。英雄と名乗ってもいいぞ? なんだったらこの剣についても一筆書いてやろう」


 面白がってるだけなんじゃないのかな。ニヤニヤしてるし。

 今後、こういうことが絶対にないとは言えないし、意味で役に立つかもだから受け取っておこう。


「ありがとうございます。さくらさんはこれからどうするんですか? 父、森の賢者のとこに行かれるんですか?」

「いや……今はワインの、いや葡萄の収穫時期を待っているとこでな。それまでは行くことができない」


 凄くシリアスな顔をしながら話してはいるけど、前に会った皇族は無事に到着してるし、顔を合わせづらいから葡萄の、ワインの完成までは近寄らない腹づもりなんだろうか。


「葡萄もワインも寝かせることが大事だからな。今しばらく時間が必要ということだよ」


 シリアスな顔から一転して二ヘラと笑って見せた。

 ワインができる頃には、皇族の人も人として成長しているということなんだろうか。これは私の深読みだろうか、目的があって寝かせているのか、それとももっと単純な理由なのか。


「それではな」

「はい、ありがとうございました」


 火の鳥に乗って去っていく、さくらさんを見送る。

 パスルを持っていくのは癪だけど、協力してくれたのは確かなので、仕方なく抱き上げて、リリア達の元へと戻る。

 

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