4ー6 笑顔の理由
★悠視点
新しく来た、妖精の子達も妖精王と同じく、畑の世話を手伝ってくれている。
どれも効果はあるが、若葉が抜群に作物の品質を上げてくれることに比べれば若干弱いが、味が若葉までいかないが良くなったり、味がぼやけることなく作物の大きさが大きくなったりする。
効果はランダムではなく、妖精の子達によって個体差があることもわかった。
そのため、長ネギや玉ねぎ、じゃがいもなど、よく使うもののサイズを大きくなる子に担当してもらったりしている。担当と言ってもお願いベースなのでたまに関係ない作物が巨大化されている。
姉さんは絶対に夏になったら西瓜を巨大化してもらうんだと涎を垂らしていた。
帝国からやって来た、2人についても徐々に家に慣れ始めている。
イールもお姉さんになってきたのか、最近ではハルにお嫁さんになってあげるねと、おませさんな発言をしていて微笑ましい。パパのお嫁さんになりたいとか嘘でもいいから言ってほしい。
レイヴィはよく働き、よく食べ、よく飲む。騎士よりも労働者の方が合ってるんじゃないのかと、最近思う。労働力としては素晴らしいので、アルバイトとして残ってくれてもいいよ。
「レイヴィを嫁にしたいんですか?」
ハルがそんなことを聞いてきた。悪くはないが、俺的にはもっと素敵な出会いがあると思うんだよね。
巨乳で優しくて、もう少しふっくらしてて。腹筋が割れてる女が嫌いというわけではないが、人にはそれぞれ好みというものがある。
そんな話をしながら泥団子をせっせと手元で作成する。
我が家では今、空前の泥団子ブームが到来している。
きっかけはイールとのおままごとだった。イールとハルが夫婦役でそれを部外者である俺がジッと眺めていた。パパが旦那さんでもいいと思うんだよねという抗議をしてたんだが、時間を持て余していたのでご飯の代わりとして提供されていた泥団子のクオリティでも上げるかと、昔テレビで見た綺麗な泥団子を作成したところ、イールとレイヴィが食い付いてきた。いやいや、レイヴィはどっから出てきたんだよ。
そんなこんなで、誰が一番綺麗な泥団子を作れるかという競争が数日に渡って行われている。
最終審査は10日後で、審査員は姉さんと大福、妖精王である。
今は女子組と男子組に分かれて作業しているが、工程としては砂を篩にかけ、水を足して泥団子を作り、乾いた砂を少しずつかけて磨いていく。仕上げとしてきめ細かい布や瓶を使って仕上げをして、納得できたものができれば家の中で寝かせる。
「イールが喜んでくれるから作ってたんだけど、俺は何をしているんだろうか」
「そうですね。これが虚無なんでしょうか」
最初こそ楽しかったが、イールと分かれて作業をして、何故かハルと泥団子を作ることになるなんて、俺の方こそ虚無だよ。
妖精娘4人組と女子が2人でキャッキャと楽しそうだ。俺もあっちに混ざりたい。
「お前のとこの護衛は精神年齢が10歳くらいなのか?」
「あながち間違ってはいませんけど。レイは遊ぶことを知りませんから、泥遊びも新鮮なんだと思います」
レイヴィは野良仕事を含めて全てを全力で楽しんでるよなぁ。全力少年って感じだ。
「昔のレイはあんな感じではなかったんですよ」
「へー、どんな感じだったんだ?」
「感情を一切表に出さない子で、ただ戦うためだけの人形って印象でした」
「今の姿からは想像できないな」
「はい。きっかけはあったんですが、それまでは言われるがままに戦場を駆け抜けて、言われるがままに魔物を討伐する。サトウ家の最高傑作という期待から全てを削ぎ落とすような生活をしていました」
戦闘マシーンってイメージかな。
イールと笑いながら泥団子を作る姿が少し違って見えてくる。楽しいことを知らずにこんな生意気な子供護衛をずっとしていれば、遊ぶこともできなかったんだろうな。
「今、失礼なことを考えてませんか?」
なんのことだか。
「それできっかけって?」
「レイの存在は元々知ってはいたんです。あれは7年前くらいでしょうか? 僕は皇族として魔物の被害があった村々を回ってることがありまして、その時にレイと初めて会ったんです。特定の皇族を守るようなことはしませんが目的が一緒ならと、共に行動をしました。噂以上に無愛想で笑うことなんてなかったです」
今は馬鹿笑いして、顔も服も泥だらけだけど。誰が洗濯をすると思っているんだろうね。
「その時に僕の護衛だった男の影響を受けましてね」
「恋があの子を変えたって話か?」
「まぁ、そんなところだったと思います。彼はよく笑い、義理人情に熱く、誰よりも僕を信頼して、王になるべきだと言ってくれました。そんな彼も死んでしまったんですがね。2人は惹かれあっていたと思います、この戦いが終わったらプロポーズすると言っていた矢先に兄達の謀略で命を落としました」
茶化すことはできないけど、とんでもないフラグを立てて死んでしまったな。
「それ以来、レイは変わりました。彼の代わりを務めるようね」
「あいつも抱えてるもんがあるんだな。死んでしまった思い人の願いを叶えるためか。お前はよくそれで皇帝になりたくないとか言えるな」
「信頼が重すぎるんですよ。僕だって人の子ですよ」
気持ちはわからんでもない。モモとかにお父さんは凄いんだ! みたいな期待をかけられるが、俺なんてどこにでもいる青年って立ち位置だし。
有能すぎる子にそんな目で見られれば少し気後れもする。
「僕からすればレイは昔の男の悪い影響を受けましたよ。馬鹿笑いはするし、ガサツだし、乱暴だし」
「それじゃあ、もっと昔に戻ってほしいのか?」
「いいえ、今のレイの方が何倍もいいですね」
「俺もそう思うよ。ただのアホの子だと思ってたけど、この話を聞いたら、もっと楽しいことを教えてやりたくなった」
精神年齢が年相応でないのには、戦いに身を置いてる期間が長かったためなんだろう。
ハルを皇帝にするのであれば、その戦いは続くかもしれないけど、せめてここにいる間くらいは楽しい思い出を作って行ってほしい。
この日を境に、レイヴィの馬鹿笑いはあまり煩くは感じなくなった。
たまに本気で煩い時はハルに言って、目覚まし時計のように頭を叩いてもらうことはあるけど。




