3ー37 新王
パーティも終わり、学園に戻ってからまったりとした時間を過ごして、11月後半。
この土地では既に雪が積もる季節。サイラ君とはいつもと変わりない距離感のはずなのに、少しドキドキする。
温室の中で土や草をイジるサイラ君の傍、ウサギや狼をモフモフしながら、私用に勝手に作った芝生のスペースでゴロゴロする。でもあんな話があった後だからか目で追ってしまう。
「僕はモモさんのことを愛しているんです。友人としてではなく、そう、わかりやすく言えば子供を作りたいんです!」
パーティーが終わって学園に戻って直ぐ、熱烈な告白だった。
リリアちゃんに相談した時は、最悪な告白という寸評だったけど、モモちゃん相手ならそのくらいわかりやすい方がいいのかもしれないと、なんだか失礼なことを言われた気がした。
ちなみにそんなリリアちゃんは卒業後にルークの秘書的な役割をしながら花嫁修行に勤しむことになっている。簡単に言ってしまえばルークの婚約者になったということだ。
そんなことがあって、恋愛の先輩としてリリアちゃんには色々な相談をした。
最終的にはモモちゃんに釣り合う相手なんて存在しないんだから、モモちゃんの気持ちが大事と言われたけど、この数ヶ月、ずっと悩んでいる。嫌いではないんだけど。
サイラ君のことは嫌いではない……と思う。でも私と一緒にいたら、変な注目浴びるし、迷惑をかけることが多くなってしまうんではないかと、心配してしまう。私でいいのだろうか? もっとサイラ君を幸せにできる人がいるんではないだろうか。
「迷っておいでですね」
「出たわね、悪女」
「嫌ですわ。淑女の間違いではありませんか?」
ルルイゼが何やら怪しい丸い水晶を持って立っていた。パーティーで騙されたこと、まだ許してないから。
「今日は健康状態を確認することができる装置をお持ちしたんです」
「私は健康よ」
「ハイエルフの方がそう簡単に死ぬなんて思っていませんよ。サイラさんのために持ってきたんです」
来訪者の存在に気がついてか、サイラ君がお茶の用意をし始めた。お茶なんて出さなくてもいいのに。
「ルルイゼ様、お茶を用意したので、どうぞ。それはなんですか?」
「ありがとうございます! これは健康状態を確認する道具なんです。モモ様の大事な友人であるサイラさんに病気などかあっては大変ですから」
「僕は健康だと思うんですけど」
「過信は禁物ですよー。髪の毛を水晶に入れてもらえるだけで簡単に確認ができますから!」
なんだか怪しい。さぁさぁ、サイラ君の髪の毛を抜くと、水晶に髪を当てると吸い込まれていき、水晶が青く輝く。
「あはっ! 当たりです! 調査の結果のとおりです!」
なっ、サイラ君に抱きついて! 離れなさいよぉ!
「なんですか、モモ様、やきもちですか?」
「煩いわねぇ! なにが当たりなのよ!」
「覚えてますか? 私が調査していた、第三王子の話」
「ちょっと、これは健康調査の道具じゃないの?」
「血縁を確認する道具なんですよ。大元となる方の血を垂らして、調べたい方の髪を入れれば確認ができるんです! 関係がないなら無反応ですが、血縁関係が近いほど強く青く光るんです!」
「大元となる血って?」
「想像の通りですよ」
この中で1番驚いているのはサイラ君だ。今の話を聞いて尻餅をついてしまった。
放心状態のサイラ君を抱き起こして、椅子に座らせる。その間にルルイゼが鼻歌混じりにお茶会の用意をしている。いい性格をしている女だ。
「それで、あんたはどうしたいの?」
「そう殺気立たないでください。今、私を殺したとしたら、サイラ君の存在が明るみ出るようになってますからね」
この女、本当に痛い目に合わせてやろうか。
「モモさん、落ち着いてください。それで、ルルイゼ様は僕にどうしてほしいんですか?」
「様付けなんてやめてください。第三王子であるサイラさん、いえ、様には王になってほしいと考えていますが……モモ様、拳を振り上げないでください! サイラ様はモモ様のことをどう思っておますか?」
「と、突然、何を……愛していますよ!」
「それでモモ様は?」
今はそんな話をしていないのに、ニヤニヤして、この女は本当に性格が悪い!
「好きよ、愛してるけど」
「わー! おめでとうございます! これでカップル成立ですね!」
「モモさん……」
手を握られちゃった。どうしよう。なんだろう、さくらさんに色々聞いたけど、こんなにドキドキするものなの?」
「はい、ストップですよー。ここで始めないでくださいね」
「私達はそこら辺の獣ではないわよ」
「それではここから交渉がスタートとなります」
またこの女の掌の上なの。
「条件はそう難しくないです。モモ様さえいれば次期、王は間違いなくサイラ様ですが、積極的に王様になりたいと思っていないんじゃないですか?」
「そうですね。僕はモモさんと幸せに静かに暮らしたいと思っています」
「そうですよねー、でも今の王国としても問題が多くてですね。お飾りでもいいので、最終的にはサイラ様には王になってほしいです」
サイラ君は優しい。とても政治なんてできるタイプではない。
「政なんて私など別に優秀な人間に任せればいいんです」
「それを自分で言うわけ?」
「はい! そこでです。5年ほど経過したらサイラ様には王になっていただき、5年我慢していただいて、あとは死んだことにするというのはどうでしょうか?」
「後の王様はどうするのよ?」
「そこでです! 私に子供を仕込んでもらうんです」
「なるほど。サイラ君が消えた後にはその子を擁立して、あんたが政治回して、時が来たら引き継ぐって訳ね」
「なんでモモさんは冷静なんですか! べ、別の女の人と僕がですよ、その」
「それなりの地位の人間は複数の妻を持つものだってさくらさんから教わったもの」
「モモ様からも許可がもらえてよかったです! 5年くらいはモモ様と好きに暮らしていいですから! 練習がてら先に私に仕込んでいただけると嬉しいのですが」
「だってさ」
「モモさん、重要な問題なのにフランクすぎます」
「下手に隠し通すよりはいい案だと思いますがいかがですか、サイラ様」
「僕に選択肢なんてないじゃないですかー!」




