3ー33 パーティー
王国は食糧難とは聞いていたけど、ソード家の首都ともなると普通に賑わっている。
私がエルフだとわかると基本的には嫌な顔をされるので目深めにフードを被って行動をする。元はさくらが旦那さんと立ち上げた国の末裔だというのにどこが、どう変わればこうなってしまうのか。
当然、私はハイエルフなんですよ! とアピールをすれば態度も変わるだろうけど、そこまでしてアピールしようとは思わない。
リリアちゃんと、サイラくんの3人で街を散策しながら、屋台の料理を食べ歩き、夕方になる頃にはルルイゼが手配してくれていた、いわゆる高級な宿屋にチェックインをする。
部屋に案内されると当たり前のような顔してルルイゼがお茶をしていた。なんでいるの?
「お待ちしておりました。本来であれば我が家にとも思ったのですが、来賓の方も多く、逆に心休まらないと思い別の宿を手配させていただきました。お世話係のメイドは置いていきますので」
「自分のことは自分でできるんだけど」
「お化粧や、ドレスメイクもできるんですか?」
正直苦手分野ではある。別にいつも通りの制服とか、ローブ姿じゃダメなのかな。
「せっかくのパーティーなんですよ! それにモモ様の美しさと威厳を示す格好をしないと」
「そうだよ、モモちゃん! サイラ君もそう思うよね?」
「ちょっと見てはみたいね」
なんでかリリアちゃんとサイラ君まで加わって進めてくるの。
ドレスなんて着たことないし。化粧は多少はリリアちゃんに習ったことはあるけど。
「わかったわよ」
「では、明日また迎えに参りますので」
そう言ってルルイゼはいなくなったが4人のメイドさんはそのまま部屋に残されてしまった。
お風呂を入るのを手伝うと言われ、なんとか断ってリリアちゃんとお風呂を済まして夕食を済ます。長旅で疲れたのかサイラ君も早々に自室に帰って寝てしまった。
リリアちゃんも同じように気がついたら寝ていたので、布団をかぶせて、私も早めの就寝をすることにした。
翌日には癖でメイドさん達よりも早く起きてしまったので朝風呂と朝食を早々に済ましてしまう。
リリアちゃんはメイドさんに捕まって朝風呂に連行されていた。早めに起きておいてよかった。
残ったメイドさん2人に着付けをされて、薄くメイクを施される。
「信じられないくらい綺麗な肌です。羨ましい」
「化粧のノリも良いですね」
お父さんが後悔しないようにお肌のケアだけはしっかりしなさいと、様々なケア用品を渡されて使っていた成果だろうか。お姉ちゃんはめんどくさがってやってないことがほとんどだったけど、何故か私以上に肌が綺麗だった。
メイドさんに褒められながら、綺麗な薄緑のドレスに身を包むと、メイドさん連れられたリリアちゃんがやってきて早々に着付けなどをされていた。
リリアちゃんの準備が終わる頃にはルルイゼが直々に迎えに来ていた。外に着けられた馬車に向かうと銀髪のおめかしした青年が立っていた。
「お嬢様、どうぞ手を」
サイラ君がふざけてニヤッと笑うと馬車に乗る時に手を貸してくれる。
「そのスーツ似合ってるね」
「モモさん、ほどではないですよ。すごく綺麗です」
「うん、ありがと」
「朝からイチャイチャしてないで、早く乗ってくださいね、モモ様」
イチャイチャなんてしてないつーの。
4人で馬車に乗ってもそこそこ余裕がある。広い馬車だなー。
「ルルイゼ様、私、従者役としては不相応な格好じゃないですか?」
薄いピンクの可愛らしいドレスに身を包んだリリアちゃんは似合ってはいるものの、主張が強い青いドレスのルルイゼや私にも引けを取らないめかし具合である。リリアちゃんが心配する通り、これではメインにも負けないような格好だ。
「あら聞いてませんの? リリアさんのサイズ家は男爵から子爵へ陞爵されますよ。当主の代理として貴女が書状などを受け取るんですから」
「えー! 聞いてませんけど!」
「ちょっと、色々と話が違うんじゃないの」
「は、話っなんなの、モモちゃん」
そもそもリリアちゃんの恋を応援するために私は人肌脱いだわけだ。私と友人ということをアピールすればルークとの婚約、果ては結婚まで有利に進むかもしれないと。
陞爵されるということは、別に私がいなくても、恋路についてはそのまま進展する可能性だってある・
「リリアさんも気になされないでこっちの話ですから。陞爵については最近決まったことで知らなかったんですよ。モモ様がいるのであればそれはより確実なものになりますから」
この笑顔、殴ってやりたい。知って誘導してきたなこの女。
まぁ、リリアちゃんとルークの様子を間近で見れるし、ここまできて帰るのも逆に面倒だ。
「次はないから」
「肝に銘じておきますわ」
「それで、リリアちゃんの陞爵ってどういうことなの?」
「モモちゃん、私が陞爵するわけじゃないよ?」
「リリアさんのお父様は公明正大な方で、領地が小さく目が行き届いていたのもあるんですが、農奴に対して不正な課税などがなく、信頼も厚く、不正が横行している中で貴族として模範的な行動をされていた数少ない方だったんです。今回は不正が酷かった者は領地の没収などもあって信頼できる者に任せたいという陛下のお話から白羽の矢が立ったのです」
「流石はリリアちゃんを育てた、お父さんだね」
リリアちゃんが恥ずかしがっているが、お父さんのことを褒められてとても嬉しそうだ。
正直に頑張った人が報われるというのは個人的にも嬉しい。
雑談をしている間にソード家に到着すると、人の花道ができていた。なにこれ怖い。
「モモ様を歓迎しているんですよ」
「やっぱり来なければよかった」
サイラ君が先に降りて、手を借りて馬車を降りる。全員が降りた後に近づいてきたのは、ルークと中年の男性。この男がソード家の当主、お姉ちゃんの父親か。
「お初にお目にかかります、モモ様。ソード家当主、ライアン・ソードと申します」
「よろしくお願いします」
片膝をついて挨拶する。ライアンさんを見下ろす、リリアちゃんに袖を引っ張られたので顔を見ると随分怖がっていた。ああ、そっか、またお姉ちゃんを捨てた親を見て少しイライラしちゃったんだ。
「失礼しました。他意はないので」
ライアンさんがハンカチで汗を拭っている。少し怖がらせてしまったかな。
そのまま先導してもらって屋敷の中に入るとまた同じような花道ができている。もういいのに。




